【登場本一覧】『国境の南、太陽の西』に出てくる小説や作家まとめ

国境の南、太陽の西 登場本

この記事では、村上春樹の七作目の長編小説『国境の南、太陽の西』に登場する本や作家の名前を紹介します

『国境の南、太陽の西』は、村上春樹の長編小説としては例外的に本や作家への言及が少ない作品です。中編程度の作品ということを考えても、さらに短い『風の歌を聴け』や『1973年のピンボール』より出てくる小説の数ははるかに少ないのです。

では逆に『国境の南、太陽の西』に出てくる本はどのような作品なのか確認していきましょう。

『国境の南、太陽の西』と本の関係

『国境の南、太陽の西』の作中では具体的な本や作家の名前が出てくる場面は、わずかです。しかし主人公の「僕」も「島本さん」も一人っ子ということも関係してか、本を読むのが好きだったと語られています。

「僕」は大学卒業後に教科書の出版会社に就職しています。そして大人になって「島本さん」と再会してからも、「僕」は本を読んでいます。昔ほどは読まないけど古い小説を好んで読んでいると話します。一方で「島本さん」も今でも本を読むといい、時代やジャンルを問わないと答えます

つまり『国境の南、太陽の西』でも他の村上作品同様に、登場人物たちは読書が好きなようです。

具体的な本のタイトルや作家名の登場は少ないですが、タイトルの一部である「国境の南」を歌うナット・キング・コールや、チャーリー・パーカーなどのジャズをはじめ、ロッシーニやベートーヴェン、リストなどのクラシック音楽がたくさん出てきます。さらに『アラビアのロレンス』や『カサブランカ』などの映画名もいくつか登場します。

『国境の南、太陽の西』に出てくる本【一覧】

1. BRUTUS (ブルータス)

僕が経営するジャズバーが取材を受けて掲載されるのが『BRUTUS (ブルータス)』です。『BRUTUS (ブルータス)』は1980年にマガジンハウスから創刊された雑誌で、実際に1980年12月号の『ブルータス No.9』で村上春樹が当時経営していたジャズバーが掲載されています。ブルータスといえば、2021年に村上春樹特集を組んだことも記憶に新しいですね。同じくマガジンハウスが出版するanan(アンアン)が『羊をめぐる冒険』に登場しました。

【『国境の南、太陽の西』での登場】

三十歳で結婚した僕は、妻の父親から商売の誘いを受け、青山でジャズバーを始めます。そしてその店が雑誌『ブルータス』の「東京バー・ガイド」の特集記事に取り上げられ、僕の名前と写真が掲載されます。その『ブルータス』の特集を見て、僕の店にやってきた同級生がイズミの消息を教えてくれました。

2. 「中国とヴェトナムとの戦争を扱った本」

こちらはタイトルは明記されませんが、僕が自らのジャズバーで読んでいた本が「中国とヴェトナムとの戦争を扱った本」です。この本は1979年の中越戦争を指していると思われます。ここではせっかくなの、この本が実在したという前提で話を進めますが、半世紀近く前でニッチな主題の候補をたくさん見つけるのは難しい現状です。物語の舞台から推測して、その本は1980年代後半以前に出版された可能性が高いです。1979年に高野功著『三月七日、ランソンにて 「赤旗」ハノイ特派員高野功記者の記録』という、中越戦争を取材して唯一の日本人犠牲者になったジャーナリストによる一冊が出版されています。根拠は少ないですが、僕はこのあたりを読んでいたりするのでしょうか。

【『国境の南、太陽の西』での登場】

島本さんが三ヶ月ぶりに「ロビンズ・ネスト」に姿を見せ、そのときに僕が読んでいた本については「歴史の本だった。ヴェトナム戦争のあとに行われた中国とヴェトナムとの戦争を扱った本」で、小説ではないと示唆されています。

3. 「十九世紀の小説」

『国境の南、太陽の西』にて示唆されている小説

ここでは具体的な作家や小説のタイトルにまで話は発展しませんが、僕が読んでいる小説はほとんどが「十九世紀の小説」だといいます。これはどのような小説を指すのでしょうか。これまでの村上春樹作品にも多くの十九世紀を代表する古典的名作が登場しました。それも世界各国の作家たちです。当然ながら小説にタイトルを出すくらいなので村上春樹自身の読書体験が反映されているものと考えられますが、他の作品での登場頻度などを考えても、作中での僕は以下のような小説を読んでいるのではないでしょうか。

アメリカ文学: メルヴィル『白鯨』

フランス文学: フローベール『ボヴァリー夫人』、スタンダール『赤と黒』、バルザック『ゴリオ爺さん』

ロシア文学: ツルゲーネフ『父と子』、トルストイ『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』

ドイツ文学: ゲーテ『ファウスト』

イギリス文学: ディケンズ『二都物語』、ジョゼフ・コンラッド『ロード・ジム』

【『国境の南、太陽の西』での登場】

僕は島本さんに今では小説を読まないのかと聞かれ、「十九世紀の小説」を好み、「昔読んだものを読み返すことが多いな」と答えます

『国境の南、太陽の西』に出てくる作家【一覧】

1. カール・マルクス

カール・マルクスは小説家ではありませんが、主人公の僕が(村上春樹自身も)直面した学生紛争に大きな影響を及ぼした哲学者です。村上春樹作品でもマルクスの著作が何回か登場しています。『羊をめぐる冒険』ではエンゲルスとの共著『ドイツ・イデオロギー』が、『ノルウェイの森』では『資本論』が登場しています。

【『国境の南、太陽の西』での登場】

僕が高校時代に付き合っていたイズミの家で買っていた犬がドイツ・シェパードで、その名前がカール・マルクスからとって「カール」でした。イズミの父親が日本共産党員だったと語られているので、本当にそういうことなのでしょう。

『国境の南、太陽の西』登場本: まとめ

ここまで見てきたように、『国境の南、太陽の西』では具体的な小説のタイトルが出てくることはありませんでした。これは本や作家の名前がたくさん登場する村上春樹の長編では例外的なことだといえます。

一方で「十九世紀の小説」などあいまいな言い方ではありますが、本が好きな登場人物間での会話は聞くことができます。他の村上作品で登場した作品などを考えると、だいたい好きな作家は絞り込まれます。

推測も多くなってしまいましたが、以上が『国境の南、太陽の西』に登場する本や作家の一覧でした。


【村上春樹の長編に登場する本や作家のまとめリスト一覧】

第1作『風の歌を聴け』に出てくる小説や作家まとめ

第2作『1973年のピンボール』に出てくる小説や作家まとめ

第3作『羊をめぐる冒険』に出てくる小説や作家まとめ

第4作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に出てくる小説や作家まとめ

第5作『ノルウェイの森』に出てくる小説や作家まとめ

第6作『ダンス・ダンス・ダンス』に出てきる小説や作家まとめ

第7作『国境の南、太陽の西』に出てくる小説や作家まとめ

以下、村上春樹関連の記事をまとめたので、興味がありましたら、ぜひご一読ください。

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