村上春樹の12作目の長編小説『1Q84』に登場する本や作家の名前をまとめました。それぞれの作品・作家について、『1Q84』での登場シーンとともに紹介します。
『1Q84』ではじつに40を超える書籍名や作家名について言及され、まさに村上春樹によるブックガイドとしても読むことができます。『1Q84』自体が『空気さなぎ』という架空の小説を軸に展開する物語ですが、その周辺を取り巻く小説や文学作家の存在感も凄まじいものがあります。
『1Q84』をより深く味わうため、読書の世界をさらに広く探検するために、『1Q84』に登場する本と作家をひとつ残らず掘り下げていきます。
- 1 『1Q84』と本の関係
- 2 『1Q84』に出てくる本【一覧】
- 2.1 1. 古事記
- 2.2 2. 平家物語
- 2.3 3. 世界の作曲家
- 2.4 4. ニコマコス倫理学
- 2.5 5. オリバー・ツイスト
- 2.6 6. 今昔物語
- 2.7 7. 山椒大夫
- 2.8 8. 1984年
- 2.9 9. サハリン島
- 2.10 10. ヘンゼルとグレーテル
- 2.11 11. マーティン・チャズルウィット
- 2.12 12. 大菩薩峠
- 2.13 13. 金枝篇
- 2.14 14. カラマーゾフの兄弟
- 2.15 15. グレート・ギャツビー
- 2.16 16. 白雪姫
- 2.17 17. 失われた時を求めて
- 2.18 18. 東京日記
- 2.19 19. アフリカの日々
- 2.20 20. マクベス
- 2.21 21. 罪と罰
- 2.22 22. 鉄人28号
- 2.23 23. 風と共に去りぬ
- 2.24 24. 変身
- 2.25 25. ヘンリー四世
- 2.26 26. リチャード三世
- 2.27 その他の本
- 3 『1Q84』に出てくる作家【一覧】
- 4 『1Q84』登場本: まとめ
『1Q84』と本の関係
まず『1Q84』は小説というものが一つの重要な要素となっています。「ふかえり」という少女が書いた『空気さなぎ』という小説を世に出し、文芸の新人賞を受賞し、そこから大きな物語が動いていきます。またその書き直し作業に深く関わった主人公の一人「天吾」は自らも小説を書いている人間ですが、応募原稿を読む仕事もしています。「天吾」は小さい時から数学の神童と見なされていましたが、同時に貪欲な読書家でもあったと語られています。
編集者の「小松」は東京大学文学部出身で、文芸誌の編集一筋という人間。読む本に迷えば、常にギリシャ哲学を読んでいるといいます。また「小松」は『空気さなぎ』に芥川賞を受賞させることももくろみます。「小松」の「文壇をコケにする」という意図は、どこか文壇と距離をとってきた村上春樹に通じるところがないわけではありません。「天吾」が利用する新宿の紀伊國屋書店も、村上作品には頻繁に登場します。
『1Q84』に出てくる本【一覧】
1. 古事記
【『1Q84』での登場】
天吾はふかえりから『空気さなぎ』の成り立ちについて聞かされます。『空気さなぎ』はふかえりがただ物語を語り、別の女の子がそれを文章にしたということで、『古事記』や『平家物語』と成立過程が同じだと天吾は考えます。
2. 平家物語
【『1Q84』での登場】
『空気さなぎ』の成立過程が口述と執筆に分かれていることから、『古事記』同様、『平家物語』についても言及されました。またふかえりが臨む記者会見の質疑応答の練習として「好きな小説は?」という質問をしたところ、ふかえりは「ヘイケモノガタリ」と答えます。
3. 世界の作曲家
【『1Q84』での登場】
世の中に自分が把握していない変化が目に止まりようになった青豆は図書館に入って過去の新聞を読み込みます。その後、青豆は『世界の作曲家』という分厚い本を選んで、ヤナーチェックのページを開きました。
4. ニコマコス倫理学
【『1Q84』での登場】
『空気さなぎ』に手を加えてしまった天吾は、それでも大事になることを恐れ、改稿後の作品を世に出すことを躊躇います。そこで小松は天吾を説得すべくアリストテレスの『ニコマコス倫理学』から、「あらゆる芸術、あらゆる希求、そしてまたあらゆる行動と探索は、何らかの善を目指していると考えられる。それ故に、ものごとが目指しているものから、善なるものを正しく規定することができる」という引用を持ち出します。
5. オリバー・ツイスト
【『1Q84』での登場】
小さい時から数学が得意で、本もたくさん読んできた天吾は、無教養な父親を自分の生物学上の父親と認めたくない一面を持っています。そしてその父親を繋がっていない男と仮定して、そんな男に育てられた自分をディケンズの小説に出てくる不運な子供たちと同じだと考えます。天吾はディケンズの『オリバー・ツイスト』を読んで以来ディケンズに夢中になったと語っています。
6. 今昔物語
【『1Q84』での登場】
ふかえりは記者会見の練習で、好きな作品として『平家物語』に並んで『今昔物語』を挙げています。
7. 山椒大夫
【『1Q84』での登場】
ふかえりは『平家物語』や『今昔物語』という古い作品を好む一方で、「新しい文学」で好きな作品は聞かれ、森鴎外の『山椒大夫』と答えています。ふかえりの中で森鴎外が「新しい」という認識なのがわかります。
8. 1984年
【『1Q84』での登場】
ふかえりがリトル・ピープルについて話した際、戎野先生はジョージ・オーウェルの『1984年』について言及します。その世界ではビッグ・ブラザーが登場したように、この現実世界ではリトル・ピープルなるものが登場してきたと話します。また自分で本が読めないふかえりは天吾に、戎野先生が話した『1984年』を朗読してほしいと言いますが、残念ながら手元になかったので概要を説明してあげます。またオーウェルの名前はもっと前に、天吾が戎野先生からふかえりの家族についての話を聞かされたときに、登場していました。ふかえりの父・深田保はタカシマ塾というコミューンでユートピアを求め、そこでは自分の頭でものを考えさせないような方向を目指していたといいます。それを先生は「何も考えないロボットを作り出すこと」という表現を用い、オーウェルが小説に書いたような世界だと喩えました。
9. サハリン島
【『1Q84』での登場】
天吾の部屋になかった『1984年』の代わりに、ふかえりのために選んだ本がチェーホフの『サハリン島』でした。『サハリン島』は天吾が先週読み終えたばかりで、興味深い箇所には付箋が貼られていました。その後この『サハリン島』だけでなく、チェーホフについての紹介がかなりのボリュームで記述されていきます。
10. ヘンゼルとグレーテル
【『1Q84』での登場】
天吾が週に一度会うガールフレンドが、よく見る夢の話をします。その夢に出てくるのは、ヘンゼルとグレーテルが迷い込んだ深い不吉な森ではなく、もっと明るっぽい森だと話します。
11. マーティン・チャズルウィット
【『1Q84』での登場】
天吾はガールフレンドが学生時代に日本女子大で英文学の講義を受けている場面を想像します。そして彼女はそこで使用されているテキストはディケンズの『マーティン・チャズルウィット』だと付け加えます。
12. 大菩薩峠
【『1Q84』での登場】
天吾は父がいる療養所の部屋を訪問し、その部屋内で本棚に並ぶ『大菩薩峠』の全巻を目にします。
13. 金枝篇
【『1Q84』での登場】
青豆がさきがけのリーダーを手にかけようとする場面で、リトル・ピープルに話が及びます。そしてリーダーは青豆にフレイザーの『金枝篇』を読んだことはあるかと尋ねます。彼は『金枝篇』を様々な事実を教えてくれる興味深い本だと評し、その内容をもとに、リトル・ピープルについての解釈を話します。
14. カラマーゾフの兄弟
【『1Q84』での登場】
青豆とリーダーの会話の中で『カラマーゾフの兄弟』が登場し、二人とも読んだことがあると言います。最初に青豆がリーダーの特殊能力を目にし、『カラマーゾフの兄弟』に出てくる「悪魔とキリストの話」について言及します。
15. グレート・ギャツビー
【『1Q84』での登場】
青豆は用意された高円寺のマンションに逃げ込み、その部屋に備蓄された品々を確認します。そして青豆はクローゼットを確認し、必要なものは揃えられ、不要なものは省かれているほどよい用意周到さを目にし、「ジェイ・ギャツビーの図書館」のようだと考えます。
16. 白雪姫
【『1Q84』での登場】
青豆は『空気さなぎ』を読みます。そこに出てくる少女はリトル・ピープルを見て、「白雪姫と七人のコビトたち」みたいだと思います。
17. 失われた時を求めて
【『1Q84』での登場】
よほど時間がないと読む機会はないとされるプルーストの『失われた時を求めて』を、タマルは潜伏中の青豆のために用意します。青豆はソファに座って第1巻の「スワン家の方へ」を読みます。
18. 東京日記
【『1Q84』での登場】
天吾は父親に向かって持参した本を朗読します。その一つの抜粋を見ると、内田百聞の『東京日記』であることがわかります。『1Q84』の物語に呼応するかのように、『東京日記』の朗読も稲妻のシーンから始まります。
19. アフリカの日々
【『1Q84』での登場】
天吾はしばしばそのとき読んでいる本を父に向かって朗読しますが、そのうちの一つがアイザック・ディネーセンの『アフリカの日々』でした。そしてその朗読を大村看護婦も聞き、「生き生きした文章ね」と評しました。
20. マクベス
【『1Q84』での登場】
天吾は父親が入っている療養所の看護婦三人と出会います。そんな三人の看護婦が同僚か誰かの性的遍歴についてのうわさ話に耽っている様子を見て、天吾はシェイクスピアの『マクベス』に出てくる三人の魔女を思い浮かべます。また柳屋敷の女主人も、青豆との会話の中で、四世紀前の世界におけるシェイクスピアの芝居について言及します。
21. 罪と罰
【『1Q84』での登場】
牛河の過去を振り返る場面で、家庭は裕福だったが死にものぐるいで勉強する必要があったため、現世的な楽しみを棄てざるをえなかったと語られています。そんな劣等感と優越感の狭間にいた牛河は、自身を「ソーニャに出会えなかったラスコーリニコフのようなものだ」と表現します。牛河が感じている「劣等感と優越感の狭間」にいるという状態は、フョードル・ドストエフスキーの『罪と罰』に登場する主人公ラスコーリニコフの内面的な葛藤に似ています。ラスコーリニコフは、優越感(自分は特別な存在であるという意識)と劣等感(貧困や罪悪感に苛まれる意識)の狭間で苦しみます。次に、「ソーニャに出会えなかった」という部分ですが、ソーニャは『罪と罰』においてラスコーリニコフの精神的救済者であり、彼の人間性と罪の許しを象徴する存在です。ソーニャとの出会いがなければ、ラスコーリニコフは精神的な救いを得ることなく、さらに深い絶望と孤立に陥った可能性があります。したがって、この表現を使った人物は、自分がラスコーリニコフのように苦しんでいるが、彼を救ったソーニャのような存在に出会えず、救済や精神的な支えを得ることができなかったと感じていることを意味しています。
22. 鉄人28号
【『1Q84』での登場】
青豆の潜むマンションの部屋にはエネーチケーの集金人がしつこいまでにやってきます。そして呼び鈴を鳴らすのではなく、繰り返しドアがノックされます。そしてドア越しに居留守の青豆に向かって、話を続けます。その集金人はノックには感情をこめることはできるものの、鉄人28号ではないので手は痛むと話します。
23. 風と共に去りぬ
【『1Q84』での登場】
完全な勃起、射精をした天吾は、それが一度偉大な何かを達成したという文脈で、「『風と共に去りぬ』を書いた作家と同じだ」と主張しています。
24. 変身
【『1Q84』での登場】
天吾のアパートに潜み、監視を続ける牛河は、部屋の中で「虫になったザムザのように」床の上を動きます。カフカの『変身』は、主人公のグレゴール・ザムザが虫になってしまうところから物語が始まります。また『1Q84』冒頭に、ヤナーチェックについての記述の部分で、チェコについても触れられ、カフカの名前も登場します。
25. ヘンリー四世
【『1Q84』での登場】
タマルは牛河を殺めた後、静かな声で「今日死んでしまえば、明日は死なずに済む」というシェイクスピアの言葉を口にします。タマルはその台詞の出典が『ヘンリー四世』だったか『リチャード三世』だったか思い出せません。また同じような「今年死ねば来年はもう死なないのだ」という言葉とシェイクスピアの名は、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』でも登場しました。
26. リチャード三世
【『1Q84』での登場】
上記「ヘンリー四世」の項目を参照。
その他の本
27. 「呪術についての本」
具体的な書籍名が明記されてないものの「呪術についての本」が登場します。「日本社会の中で呪いがどのような機能を果たしてきたかを論じている」という内容に該当するうち、以下の書籍が候補に挙がりそうです。もちろんどちらも、『1Q84』最初に出版された2009年以前に出版されている本です。
・光文社から1988年に出版された小松和彦著『日本の呪い 闇の心性が生み出す文化とは』→1995年には文庫版も出版
・原書房から1998年に出版された豊島泰国著『図説 日本呪術全書』→2021年には普及版も出版
【『1Q84』での登場】
ふかえりに会うべく待ち合わせをした店で、天吾は直前に新宿の紀伊国屋書店で買ったうちの一冊である「呪術についての本」を読みます。
28. 「一九三〇年代の満洲鉄道についての本」
【『1Q84』での登場】
青豆は重要な「仕事」を終えて、神経の高ぶりをおさえるためにホテルのバーに行きます。そこで取り出して読んだ本が「一九三〇年代の満洲鉄道についての本」で、それはハードカバーということでした。
29. 「チェーホフの短編小説」
【『1Q84』での登場】
例のごとく、小松が良くないニュースをもって天吾に電話してきたとき、「さぞかし愉快な話なんでしょうね」という天吾の皮肉に対して、「逆説的なおかしみならいくらかあるかもしれない」と小松は返します。さらに天吾はそれに対して「チェーホフの短編小説のように」と言います。
30. 猫の町
本作には、「旅をテーマにした短編小説アンソロジー」に収録された「猫の町」という話が登場します。この「猫の町」はドイツ人の作家によって書かれたという記述があるなど、あたかも実在している作品のようですが、実は村上春樹による創作であることが米雑誌『ザ・ニューヨーカー』内のインタビューで語られています。
“Town of Cats” is a story that I made up. I think I probably read something like it a long time ago, but I don’t have a very precise recollection of whatever it was that I read. In any case, this episode performs a symbolic function in the novel in many different senses—the way a person wanders into a world from which he can never escape, the question of who it is that fills up the empty spaces, the inevitability with which night follows day. Perhaps each of us has his or her own “town of cats” somewhere deep inside—or so I feel. (「猫の町」は私が作り上げた物語です。おそらく昔に似たような話を読んだことがあると思いますが、正確に覚えているわけではありません。いずれにせよ、このエピソードは多くの意味で小説の中で象徴的な役割を果たしています。人が決して逃れられない世界に迷い込む方法、空白を埋めるのが誰かという疑問、夜が昼に続く避けられない事実。おそらく私たち一人一人が、どこか深いところに「猫の町」を持っているのではないかと感じます。)
参照: https://www.newyorker.com/books/page-turner/this-week-in-fiction-haruki-murakami
【『1Q84』での登場】
天吾は父親がいる千倉の療養所を訪れる列車内で、持参した文庫本を読みます。それは「旅をテーマにした短編小説アンソロジー」に収録された「猫の町」というタイトルの話でした。その話は『1Q84』という物語においても重要な役割を果たします。
31. 「食べたいものを食べたいだけ食べて痩せる」
【『1Q84』での登場】
天吾は喫茶店で朝刊を読み、ベストセラーリストをチェックします。そのときすでに『空気さなぎ』はラインナップから姿を消し、『食べたいものを食べたいだけ食べて痩せる』というタイトルのダイエット本が一位にランクインしています。「中身がまったくの白紙でも売れるかもしれない」とそのタイトルをやや皮肉ります。
32. 「女性のための身体百科」
【『1Q84』での登場】
潜伏している青豆のもとに、タマルが用意してくれた妊娠検査キットとともに『女性のための身体百科』という分厚い本が届けられます。
『1Q84』に出てくる作家【一覧】
1. オノレ・ド・バルザック
【『1Q84』での登場】
天吾は小松から、ふかえりの書いた『空気さなぎ』のクオリティを高めるための書き直しを依頼されます。そんなゴーストライター的な役割にうしろめたさを感じている天吾に対して、小松は「バルザックやら紫式部」やらの作品に手を加えるわけではないと説得しようとします。
2. 紫式部
【『1Q84』での登場】
上記「バルザック」の項目を参照。
3. アーネスト・ヘミングウェイ
【『1Q84』での登場】
青豆が男を求めて利用する六本木のバーは、「ヘミングウェイがバハマあたりでたむろしていた酒場をイメージした内装がほどこされている」と描写されています。実際にヘミングウェイが通ったバハマのバーはいくつか存在し、たとえばFloriditaというバーにはヘミングウェイの等身大ブロンズ像が置かれています。
4. プラトン
【『1Q84』での登場】
小松がアリストテレスの引用をしたのに対し、天吾は「人間の霊魂は理性と意志と情欲によって成立している」というプラトンの引用をアリストテレスのものと勘違いして持ち出します。小松から言わせればアリストテレスとプラトンは、「メル・トーメとビング・クロスビーくらい違う」のだそうです。村上春樹らしい比喩ですが、当時のアメリカの音楽を知らない方にはいまいちピンとこないですよね。どちらも二十世紀前半のアメリカの音楽界と席巻した人物ですが、ジャズ界の巨人と呼ばれたメル・トーメと、他ジャンルのエンタメ業界でスターとして君臨したビング・クロスビーとの違いを、アリストテレスとプラトンにあてはめているわけですね。
5. レフ・トルストイ
【『1Q84』での登場】
チェーホフの『サハリン島』が登場する場面で、チェーホフについて「トルストイやドストエフスキーのひとつ下の世代」と説明されています。また物語の終盤で牛河によって、トルストイの有名な『アンナ・カレーニナ』の冒頭の有名な一節が、少し手を加えた形で引用されています。この部分の引用は『海辺のカフカ』でも大島さんが行っていました。
6. 松尾芭蕉
【『1Q84』での登場】
天吾はふかえりの『空気さなぎ』に関わってしまったことを後悔している一方で、その作品は世間ではよく売れていきます。そして就寝前の小松からの電話のベルに不穏さを予期しつつ、天吾は現実逃避として、オゾン層や松尾芭蕉などの全く関係のないものごとについて考えをめぐらします。そして予想通り、悪いニュースがもたらされるのでした。
7. マーシャル・マクルーハン
【『1Q84』での登場】
あゆみが青豆に教団さきがけについて説明する際、それが実体を持たないにも関わらず人が集まってくるという趣旨で、マクルーハンの「メディアそのものがメッセージ」という言葉を引用します。
8. ジークムント・フロイト
【『1Q84』での登場】
天吾はガールフレンドとの会話の中で、自分はほとんど夢を見ないと話します。それに対し、彼女は「フロイト博士が気を悪くするわよ」と返します。またタマルが牛河を相手にユングの話をしたときに、牛河はユングについて持っている知識として、フロイトの弟子だったという点を挙げます。
9. フランソワーズ・サガン
【『1Q84』での登場】
天吾は『空気さなぎ』の書評を読み、「マジック・リアリズムの空気を吸ったフランソワーズ・サガン」と評した記事を見つけます。
10. ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン
【『1Q84』での登場】
青豆はお腹に宿した新しい命についてタマルと話します。そしてこの不思議な過程で授かった子をポジティブに受け入れようとしている青豆に対して、タマルは「いったん自我がこの世界に生まれれば、それは倫理の担い手として生きる以外にない」というヴィトゲンシュタインの思想を引用します。
11. カール・ユング
【『1Q84』での登場】
タマルは牛河の居場所をつきとめ、手にかけようとします。そしてタマルは、その直前にユングが自分でデザインした家の入り口に刻み込んだ「冷たくても、冷たくなくても、神はここにいる」という言葉を紹介し、牛河に復唱させます。
『1Q84』登場本: まとめ
本作で重要な鍵を握る『空気さなぎ』はもちろん架空の小説ですが、内容の一部は断片的に明らかにされていきます。ついつい一冊の本として通して読んでみたいという誘惑に駆られます。本作で言及される「メフィスト」はゲーテの『ファウスト』に出てくる悪魔ですが、普遍的な概念なので必ずしも『ファウスト』を指しているわけではないかもしれません。しかし村上作品ではゲーテへの言及はしばしば見られます。
『1Q84』に登場する本の中でも、タイトルからも分かる通り、ジョージ・オーウェルの『1984年』は特に重要な意味を持つ作品であることがわかります。
【村上春樹の長編に登場する本や作家のまとめリスト一覧】
→第2作『1973年のピンボール』に出てくる小説や作家まとめ
→第4作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に出てくる小説や作家まとめ
→第6作『ダンス・ダンス・ダンス』に出てきる小説や作家まとめ
→第12作『1Q84』に出てくる小説や作家まとめ
以下、村上春樹関連の記事をまとめたので、興味がありましたら、ぜひご一読ください。
これまで長編小説を15作品と短編集を10作品発表してきた世界的な作家・村上春樹。 それだけ作品があると、どのような順番で読んだらいいのかわからない方も多いはずです。 今回は、村上春樹作品をこれから初めて読み始める方、すでに1~2[…]
村上春樹の幻の中編小説「街と、その不確かな壁」の存在は知っているでしょうか。今では入手困難な「街と、その不確かな壁」を手軽に入手して読む方法を解説していきます。 2023年4月13日に発売される村上春樹の新作長編のタイトルが『街と[…]
世界的作家である村上春樹の長編小説を英語で読んでみませんか? 今や世界中の言語で翻訳されている村上春樹作品ですが、特に英語圏での人気は圧倒的で、ほぼ全ての主要作品が英訳されています。そんな洋書は日本でも気軽に手に入れることができます。[…]
【関連記事】
ついに村上春樹作品が、「耳で聴く読書」オーディブル化し、すでに多くの作品がリリースされています。2024年9月現在で村上春樹作品のうち37冊もの長編小説、短編小説、エッセイ、旅行記などがオーディブル化し、全てが聴き放題の対象となっています。[…]
「村上春樹を読んでみて、すごく好きだったから似ている作家はいないかな?」と思っている方 「村上春樹作品を読破して、次に読む本を迷っている、、、」という方 そんな方に、村上春樹に似た感じの作家のおすすめを紹介します。作[…]
作家としてだけでなく、翻訳家としても精力的に活動している村上春樹さん。そんな村上さんの主な翻訳対象はアメリカの小説です。村上さんがかねてから海外文学、特にアメリカ文学を好んで読んできたことは知られていますが、具体的にどの作家ようなに特別な思[…]