【村上春樹入門】1冊目はなにから読むべきか<好み別に10作品紹介>

村上春樹の1冊目はなにから読むべきか

「村上春樹が気になっているけど、作品が多すぎてなにから読めばいいかわからない…」

その気持ちすごくわかります。今や全15長編に加え短編も全て読んでいる僕も、何も知らずに初めて手に取った村上作品は第三作の『羊をめぐる冒険』でした。その作品が第一、二作からの続編だったにもかかわらず、幸いにも初めての読者でも楽しめる内容だったので、僕が村上春樹の小説を好きになるきっかけとなりました。

しかしどうせならシリーズの途中からではなく、第一作目から、もしくは単体で完結する作品から読み始めたいですよね。

そんな方のために、村上春樹入門として、好み別におすすめの作品を10冊紹介します。1冊目に最適な長編小説はもちろん、短編集、エッセイ、旅行記など幅広いジャンルからおすすめを提案します。いろいろな好き嫌いの要素を考えて選びました。

また村上春樹が苦手な人に聞く理由はけっこう似通っています。その点に注意した選書をすれば、後悔はしないはずです。

村上春樹の1冊目を探している方はもちろん、一度読んでみたけど村上春樹好きになれなかったと思った方もぜひ再挑戦してみてください

目次

村上春樹の1冊目におすすめな10作品<あなたに最適な1冊はどれ?>

村上春樹初心者の方が最初に選ぶべき本は、その方の好みや目的によって違うのだと思います。この記事では、1冊目に読んでも楽しめるというのは前提条件として、その人に合った要素を含んだ作品を10通り紹介しています。長い小説が好きな人、苦手な人、小説そのものが得意じゃない人、過激な描写を避けたい人、などその方の趣向はそれぞれです。

ぜひあなたにとって最適な村上春樹の1冊目を選んでみてください。

村上春樹入門に最適な1冊(1~5作)

村上春樹入門に最適な1冊(6~10作)

村上春樹入門におすすめの1冊①: デビュー作から順番に読みたいなら『風の歌を聴け』

▷第一作目から刊行順に読んでいきたい方

▷村上春樹の根源的な文体を楽しみたい方

最初の村上春樹におすすめな1冊は王道ですが、第一作目である『風の歌を聴け』です。これからがっつり村上春樹と付き合っていきたい方は、ぜひ第一作目の『風の歌を聴け』から出版順に読んでみてほしいと思います

また、このデビュー作は当時の日本の読者たちに大きな衝撃を与えました。シンプルでどこかポップな印象を受ける村上春樹独自の文体は、当時「真新しさ」を持って多くの読者に支持されたのです。つまり「何が村上春樹を人気作家たらしめたのか」という根源がこの小説では味わえます

なお、この小説から第二作『1973年のピンボール』、第三作『羊をめぐる冒険』、第六作『ダンス・ダンス・ダンス』と四部作の物語へと繋がっていくので、逆に言えば、これら三作品は最初の村上春樹作品としてはおすすめできません

おすすめの読む順

これまで長編小説を15作品と短編集を11作品発表してきた世界的な作家・村上春樹。 それだけ作品があると、どのような順番で読んだらいいのかわからない方も多いはずです。 今回は、村上春樹作品をこれから初めて読み始める方、すでに1~2[…]

村上春樹全長編を読むおすすめの順番

村上春樹入門におすすめの1冊②: 無人島に1作品だけ持っていけるなら最高傑作の『ねじまき鳥クロニクル』

▷とにかく村上春樹の最高傑作を読んでみたい方

▷「これぞ長編小説」という作品が好きな方

どうせ1冊読むなら村上春樹の中でも最も完成度の高い作品を読みたいという方には、第八作『ねじまき鳥クロニクル』がおすすめです。この作品は第1~3部まで続く三巻構成になっており、1994~1995年に発表されたものですが、今なお色褪せることなく村上春樹長編の中でも輝きを放つ作品です。

デビュー当時から村上春樹は社会性とは距離をとった作品を書いてきました(これを「デタッチメント」と言ったりします)が、『ねじまき鳥クロニクル』あたりを境に、作中に「悪」を描き主人公がそれと対峙していくような社会との「コミットメント」を描くようになっていきます。そういった時代背景なども加味して読んでいくとより楽しめる作品だとも言えます。もちろんそんなことは一切考えずに読めるのも、また村上春樹の魅力ではありますが。

『ねじまき鳥クロニクル』が最高傑作を言いましたが、もちろん人によってはこの評価は分かれるところです。有名どころだと第四作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』や第十作『海辺のカフカ』あたりも、村上春樹らしい長編小説で、1冊目の村上春樹作品としてもじゅうぶんおすすめできます

村上春樹入門におすすめの1冊③: 緻密な性描写が苦手な方には『カンガルー日和』

▷村上春樹特有の緻密な性描写が苦手な方

▷軽やかで優しい世界観の小説が好きな方

多くの村上春樹作品の特徴の一つでもあり、村上春樹が敬遠される理由の一つともなっているのが、細かな性描写です。実は性描写がまったくない長編小説を探すのが難しいほど多くの作品に、セックスシーンや裸体の詳細な描写が登場します。村上春樹に言わせれば作品になくてはならない要素だから描かれているということになるのかもしれませんが、そのような描写が苦手な方もいることは事実でしょう(もちろんまったく気にならずに自然に読める方も多いと思います)。

そこで性描写が出てこない村上春樹作品を探してみたところ、なんと発見しました。なおかつ村上春樹初心者にもおすすめできる、とても読みやすい小説が『カンガルー日和』です。『カンガルー日和』は短編小説よりも短い18の文章で構成される作品集です。強いて言えば、最後の収録作品「図書館奇譚」に女性の体を描写する記述が見られますが、それも最低限で、どちらかと言えば芸術性を帯びた表現のように感じるので、ここで引っかかる方はあまりいないと思います。

作品の品質としてもたしかなもので、表題作の「カンガルー日和」はこの作品集全体を表すような読んでいて心地よい雰囲気を持つ作品で、いろんな読み方もできるのかなと思います。続く「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」という一風変わったタイトルを持つ作品も、村上春樹好きの間では有名で、のちに長編『1Q84』のベースとなった作品でもあります。

村上春樹入門におすすめの1冊④: 世界でも評価の高い村上春樹の短編小説を味わいたいなら『パン屋再襲撃』

▷長い小説が挫折しがちな方

▷世界で評価される「Haruki Murakami」を体感したい方

村上春樹といえば多くの方が連想するのが長編小説でしょう。一方で、「Haruki Murakami」として世界でも高い評価を受けるこの作家が海外で評価をされ始めたきっかけが短編小説でした。それくらい村上春樹の短編小説はクオリティーが高いです。なので、長い小説は挫折しがちだという方は、ぜひ短編を読んでみてください。現在では手軽に手に入る短編集は10冊ありますが、その中でも最初の村上春樹としておすすめしたい短編集が『パン屋再襲撃』です。

『パン屋再襲撃』に六つの短編小説が収録されており、どれも素晴らしい作品ですが、中でも「象の消滅」がとてもおすすめです。これは読みやすいことは当然ですが、なんとも不思議な物語で、読み終わった直後は心地よい余韻に浸ってしまうような読後感が味わえると思います。この小説は短編集『The Elephant Vanishes』(『象の消滅』)にも表題作として収録され海外で出版されました。

「ねじまき鳥と火曜日の女たち」もおすすめで、『ねじまき鳥クロニクル』のもとになった作品です。気に入ったら、ぜひ上記で2冊目として紹介した『ねじまき鳥クロニクル』も読んでみてはいかがでしょうか。

また表題作の「パン屋再襲撃」はもともと「パン屋襲撃」という作品から繋がる物語ですが、「パン屋再襲撃」単体としてもじゅうぶん独立して楽しめます。「パン屋再襲撃」が気に入った方は「パン屋襲撃」を読んでみてもいいでしょう。もともとは『夢で会いましょう』という本に収録されている作品ですが、加筆修正がなされた完全版ともいえるアートブックスタイルの『パン屋を襲う』で読むのもおすすめです。

▽『パン屋を襲う』▽

村上春樹入門におすすめの1冊⑤: ファンタジーになると頭に入ってこなくなる方には『ノルウェイの森』

▷ファンタジー要素が苦手な方(リアリズム小説を好む方)

▷村上春樹作品の中で最も売れている作品が読みたい方

恋愛小説として認知されがちな『ノルウェイの森』は、実は販促のためにそういったキャッチコピーが押し出されたものの、その本質はリアリズムにもとづいているということです。たしかに主人公は恋愛をします。しかし、好きになって、告白して、付き合って、失恋して…という典型的な恋愛小説とはすこし違います。

村上春樹作品の大きな特徴として、日常が描かれていたはずなのに、気づけば非日常が侵入してくるという要素があります。その二つの領域がわからないくらいに溶け合っているので、読者は物語にどんどん没頭していってしまいます。読み方次第ですが、『ノルウェイの森』もそういう世界観を持ってると感じる読者もいるでしょう。しかし『ノルウェイの森』には明確に「これはファンタジーだ」と言えるような場面は出てこず、ファンタジーが苦手な方にはおすすめしたい作品です。

そこには現実的な痛みがあり、生があり、死があります。こう聞くと、少し堅苦しい小説なのかと思ってしまうかもしれませんが、そんなことはありません。こういった死生観をテーマにしつつも、ぐいぐいと読者を引っ張っていく読みやすさが村上春樹のなせる技なのです。ぜひ「ベストセラー恋愛小説」というイメージを一度忘れて、まっさらな気持ちで『ノルウェイの森』を読んでみることをおすすめします。

村上春樹入門におすすめの1冊⑥: 作家「村上春樹」を知りたいなら『走ることについて語るときに僕の語ること』

▷村上春樹という作家自体に興味がある方

▷村上の仕事哲学を学びたい方

村上春樹が創作について語ったエッセイはいくつかありますが、代表的なものとして、この『走ることについて語るときに僕の語ること』と『職業としての小説家』があります。どちらも、村上春樹作品をより深く理解するのにはおすすめですが、村上春樹作品をあまり知らなくても楽しめるのが『走ることについて語るときに僕の語ること』だと思います

『走ることについて語るときに僕の語ること』は村上春樹の人生論そのものが記述されていると言えます。書くことももちろんですが、創作を支える根幹となっているフィジカルについての記述がとても興味深いです。「健康」というイメージとは真逆であった、以前の作家のイメージを完全に払拭し、タバコもやめ、早起きし、時間に執筆するという作家像を更新した作家が村上春樹であると言えるでしょう。そして最も重要なルーティンが走ることだと言います。幾度となくフルマラソンに挑戦してきた著者が、書くことと走ることの関連性を中心に、生きることを振り返った一冊です。

村上春樹を知れるだけでなく、日常生活において僕らが学べること、作家以外の仕事にも通ずる本質がここには記されています

▽『職業としての小説家』▽

村上春樹入門におすすめの1冊⑦: 小説が苦手な方には珠玉のエッセイ『村上ラヂオ』

▷村上春樹の小説が苦手な方

▷日常の「くだらないこと」好きな方

小説家として知られる村上春樹は、実はエッセイの名手でもあります。刊行されているエッセイ本は小説と同じくらいあるのではないかというほどで、そのどれもがエッセイならではの「ゆるさ」+読んでいて心地よい文章で書かれています。テーマは、お酒、走ること、小説について、翻訳について、などいろいろありますが、村上春樹のエッセイで1冊目に読むなら、『村上ラヂオ』シリーズをおすすめしたいです

上記で「くだらないこと」が好きな方におすすめと書いてしまいましたが、これはもちろんポジティブな意味です。すき焼きやうなぎなど食べ物の話から、音楽、小説、スポーツなど、なんの縛りもなく自由に語りたいことを語っているので、読んでいる方もとてもリラックスできますし、タイトル通りラジオを聴いているような感覚になります。個人的にはしばしば出てくる世の中の本質をズバッと言い当てる箇所が好きで、「すべての新しい便利さは、例外なく新しい種類の不便さを産み出すんだ」というような言葉にはハッとさせられてしまいます。まさに便利なスマホがあるおかげで、余計に忙しい日々を送る現代人にぴったりの言葉ではないでしょうか。

村上春樹のエッセイシリーズの代表作として、『村上朝日堂』から始まる「村上朝日堂シリーズ」もとてもおすすめですが、少し年代が古いため、扱っているトピックを身近に感じられない読者も多いかもしれません(ですが世代が違う僕でもじゅうぶんに楽しめました)。なので、より新しい(といっても2000年頃から連載されたものですが)「村上ラヂオシリーズ」を紹介しました。

「村上ラヂオシリーズ」は全3巻あります。何も考えずにゆるく本を読みたい方には絶好の一冊です。

村上春樹入門におすすめの1冊⑧: 旅行記が好きなら『遠い太鼓』

▷旅行または旅行記好きな方

▷海外生活に興味がある方

旅行記も面白い村上春樹ですが、小説でもなく普通のエッセイでもなく、旅行が好きだったり旅行記を読むのが好きな方におすすめなのが『遠い太鼓』です。この『遠い太鼓』が他の旅行記とは異なるのは、単に数週間旅行をした記録ではなく、数年間海外に住んだ記録だという点です

このような普通の旅行よりも期間が長く生活の基盤を築き定着するスタイルを、村上春樹は別のエッセイ『使いみちのない風景』で「住み移り」と呼んでいます(『使いみちのない風景』も素敵な写真を付されたおすすめの旅行エッセイです)。村上春樹は国内外問わず、いろんな場所に移り住んできた作家です。作品ごとに執筆した場所が異なると言っても過言ではないでしょう。

『遠い太鼓』ではギリシャとイタリアに三年間住んできた記録が収められており、作品で言うと第五作『ノルウェイの森』や第六作『ダンス・ダンス・ダンス』あたりを書いていた時期に相当します。美味しいご飯の話や、旅中で知り合った素敵な人々のエピソードももちろんですが、海外での苦労話がより印象的で、引き込まれる要素だと感じます。本当は辛かったはずのことが、共感とともに少し笑えてしまうのが村上春樹の筆力なんでしょうか

文庫本で550ページを超えますが、すらすら読めてしまうのが不思議な一冊です。

▽『使いみちのない風景』▽

村上春樹入門におすすめの1冊⑨: 子どもと一緒に安心して読める絵本『ふわふわ』

▷子どもと読める絵本を探している方

▷とにかく猫好きな方

村上春樹を読んだことがない方にはどうしても、「村上春樹は難しい」「暴力や性描写が気になる」という印象があるかもしれません。しかし、子どもでも読めるような優しさに満ちた本もあります。例えば、無類の猫好きである村上春樹と、エッセイでも名コンビとして知られるイラストレーター安西水丸の絵が作り上げた『ふわふわ』がおすすめです

短い物語ですが、「ぼく」と一匹の猫をめぐる過去の記憶は、読んでいる子どもと大人さえも、心温まる世界に誘ってくれます。文庫本だと50ページちょっと、最近新しく刊行された絵本サイズだと20ページちょっとなので、さくっと読めてしまいます。乳幼児が見て喜ぶ本というよりは、言葉を理解できるようになった幼稚園、小学校くらいの子どもにいいと思います

『ふわふわ』と同じように短い物語とイラストで構成されている本に、『羊男のクリスマス』や『ふしぎな図書館』もあり、こちらもおすすめです。また、他にも村上春樹は海外の児童向けの絵本をたくさん訳しているのは、あまり知られていないかもしれません。『おおきな木』あたりが最も読まれている絵本でしょうか。

▽文庫本サイズはこちら▽

▽『羊男のクリスマス』▽

▽『ふしぎな図書館』▽

▽『おおきな木』▽

村上春樹入門におすすめの1冊⑩: 翻訳家としての村上春樹を堪能するなら『キャッチャー・イン・ザ・ライ』

▷村上春樹の小説は苦手だが翻訳なら気になる方

▷海外作品を読んでみたい方

たくさんの小説やエッセイを書き続けてきた村上春樹は、翻訳家としても有名で、英語圏の作品を中心にかなりの数の日本語訳を手がけています。『村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事』という本が一冊にまとめられたほどです。その本の中ではそれまでに70冊くらいを翻訳したと振り返っていますが、それ以降も翻訳活動は続いています。

村上春樹入門の1冊目として翻訳作品をおすすめする理由は、村上春樹の小説は苦手だけど翻訳なら好き、という意見をしばしば見かけるからです。では数ある名作の中からどれを選ぶか。ここでおすすめしたいのが、アメリカの永遠の青春小説、J・D・サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』です。この作品にはかねてより野崎孝訳による『ライ麦畑でつかまえて』という定番があり、2003年に村上春樹による新しい訳が登場しました。このような場合によく見られるように、この作品もまた、『ライ麦畑でつかまえて』に長年親しんできた読者の間では賛否両論ありました。

しかし『ライ麦畑でつかまえて』を好きな僕でも、村上春樹の翻訳とサリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の相性はとても良いと思います世の中のあり方に疑問を持ち続け、それをうまく形にはできないが、生きづらくとも自分の内側を大事にし続ける。『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の主人公ホールデンと村上春樹は、大まかな意味では同じ方向を向いているんだろうなと感じるのが、相性が良い理由かもしれません。

ぜひこの普及のアメリカ文学の名作を村上春樹訳で読んでみてもらいたいと思います。

注意: 村上春樹の1冊目としておすすめできない作品

僕は、初めて村上春樹を読んでみる方はどの作品から読んでもいいと思う派です。ですが、できることなら他の作品を読んでいないとじゅうぶんに楽しめない作品は避けた方がいいかなと思っています。シリーズものの最終巻から読むというのは、かなり勇気のいることですよね?また村上春樹の集大成的な作品は、過去作を読んだ経験があれば、「あーあの作品の要素が詰め込まれているな」という面白さを多くの場面で味わうことができます。それらを加味して、最初からこの作品には手を出さないことをおすすめしたいという小言を残しておきます。

最初の村上春樹におすすめできない作品

△1冊目として避けたい作品①『ダンス・ダンス・ダンス』

まず村上春樹の1冊目として避けたい本が第六作目『ダンス・ダンス・ダンス』です。これはデビュー作『風の歌を聴け』から→『1973年のピンボール』→『羊をめぐる冒険』→『ダンス・ダンス・ダンス』と続く、四部作の最終部にあたるので、できればこれらの作品を読んだ後に読んでほしいです。『羊をめぐる冒険』は、一応そこから読んでも全然楽しめる内容なので、最低限『羊をめぐる冒険』を読んでから、『ダンス・ダンス・ダンス』に進みましょう

『ダンス・ダンス・ダンス』自体はファンも多く、ストーリー展開としてもかなり面白いので、ぜひ過去作を読んだのちに挑戦してみてください。

△1冊目として避けたい作品②『街とその不確かな壁』

村上春樹は新作が発表されるたびに、大きなニュースとなります。そこで新作を機に村上春樹を読んでみるかという読者も少なくないはずです。しかし、そんなに評判ならと思って読んでみても「あれっ、これ面白いか?」と肩透かしをくらってしまう方もいるはずです。『街とその不確かな壁』もまさにそんな作品の一つだったのではないか、と個人的には推測しています。

『街とその不確かな壁』は直接的に何か過去作からの続編であるというわけでなありません。しかし成り立ちにおいて、かなり特徴がある作品なのです。村上春樹が単行本化しなかったいわゆる失敗作である「街と、その不確かな壁」を1985年に書き直した作品が第四作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』です。そしてそれでも満足しなかった村上春樹は、約40年の時を経てもう一度「街と、その不確かな壁」を『街とその不確かな壁』として生まれ変わらせたのです。

そして『街とその不確かな壁』には他の過去作からのインスパイアに満ちていますが、これは他の作品を読んでいる読者は気づくことも多いはずで、何倍も読んでいて楽しめるはずです。つまり、上記でおすすめした村上春樹作品を読んでみて、気に入った方が他にもいろいろ読んで、その後に読んでほしいのが『街とその不確かな壁』なのです。もちろん文章がとても上手なので、初めてで『街とその不確かな壁』を読んでも、読み切れるとは思います。しかしせっかく読むなら、、、と思ってしまうのです。

「村上春樹の1冊目はなにを読むべきか」まとめ

極論を言えば、自分の直感で読みたいと思った作品から自由に読めばいいんだと思います。冒頭でもお話したように、僕も表紙デザインでなんとなく選んだ作品が第三作目の『羊をめぐる冒険』でした。それでもじゅうぶん楽しめましたし、今では村上春樹の小説が好きになりました。

それでも、せっかく新しい作家と良い出会いをチャンスです。できるだけあなたにとって最適な1冊目を選べるよう、この記事で紹介した作品リストを役立ててもらえれば嬉しいです

これを読んでくださったあなたが、初めての村上春樹を楽しめることを、そして今後の読書人生がより豊かになることを願っています。


以下、村上春樹関連の記事をまとめたので、興味がありましたら、ぜひご一読ください。

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