この記事では、村上春樹の二作目の長編小説『1973年のピンボール』に登場する本のタイトルや作家名を紹介します。
前作『風の歌を聴け』に登場する本や作家名についてもこちらでまとめましたが、その続編として、第二作『1973年のピンボール』にて登場人物が読んでいる小説や、比喩に使われている作家名もまとめました。
直接本のタイトルが明記されていない小説なども、本作で提示されている手がかりからタイトルを特定しました。架空の本として言及されている本も網羅しています。
『1973年のピンボール』をより深く味わうために、登場する小説や雑誌などを細かく解説していきます。
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『1973年のピンボール』と本の関係
『1973年のピンボール』は『風の歌を聴け』に続く、村上春樹初期三部作の第二作目の作品で、前作同様に主人公の「僕」は作家です。この物語の主要な時間軸である1973年には、「僕」は友人と共同で翻訳事務所を立ち上げています。作家、翻訳家、いずれにしても本とは密接に関わる職業だといえます。
他の村上作品と比べると、『1973年のピンボール』は登場する小説や作家名が少なめではありますが、世界文学や哲学史の中でも重要な作品名や作家名を目にすることができます。
『1973年のピンボール』に出てくる本【一覧】
それでは『1973年のピンボール』の中で登場する小説や雑誌をひとつずつ紹介していきましょう。アメリカ文学をはじめ、海外の小説に大きな影響を受けてきた村上春樹ですが、この作品で言及される書籍名や作家名は海外のもののみとなっています。
1. 不思議の国のアリス
【『1973年のピンボール』での登場】
僕は直子がとある街の話をした際、冗談を言い、彼女を笑わせます。その笑いは直子が消えた後も僕の心に残り、「『不思議の国のアリス』に出てくるチェシャ猫のようだとたとえます。
2. わが生涯
【『1973年のピンボール』での登場】
物語の冒頭で直子について語られるが、直子の家族が引っ越した先が帝政ロシア時代の流刑地のようだったという話から、僕がその流刑地についてトロツキーの伝記で読んだことがあると語っている。
3. 純粋理性批判
【『1973年のピンボール』での登場】
主人公の僕が双子の女の子との生活の中で読んでいるのがカントの『純粋理性批判』です。コーヒーを飲みながら、煙草を吸いながらでの読書シーンが登場します。僕はカントを立派だと語っています。また僕がピンボールを探す中で「煙草とカントを持って暖かいベッドに潜り込みたかった」という記述があることから、カントはかなり愛読している哲学者ということがわかります。
4. エスクァイア 1971年9月号
【『1973年のピンボール』での登場】
僕が『エスクァイア 1971年9月号』内のケネス・タイタンによる「ポランスキー論」を翻訳しています。これは翻訳事務所を立ち上げた僕の仕事の一環だと考えられます。
引用: https://classic.esquire.com/article/1971/09/01/the-polish-imposition
5. ピーナッツ
【『1973年のピンボール』での登場】
僕が学生時代のアパートで幾度となく電話を取り次いだ女の子は、僕の何もない部屋にひとつの段ボールを持ってきます。その中には「スヌーピーの漫画のついたタンブラーが二個」入っていました。
6. ロビンソン・クルーソー
【『1973年のピンボール』での登場】
僕が電話を取り次いであげていた女の子は、僕の何もない部屋を見て、「いったいどうやって暮してるの?まるでロビンソン・クルーソーじゃない?」と驚きを隠しません。
7. 農民
【『1973年のピンボール』での登場】
僕が双子と配電盤の「葬式」をするために貯水池に行く道中で、犬を「バルザックの小説に出てくるカワウソ」に喩えています。タイトルが明記されているわけではありませんが、カワウソが出てくるバルザックの小説ということで『農民』だと特定しました。また『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』では『農民』が登場し、かわうそが出てくることが示唆されるシーンがあります。
8. アーサー王と円卓の騎士
【『1973年のピンボール』での登場】
ピンボールの「スペースシップ」との対面を果たし、僕は生活に一区切りを迎えます。しかしそれで「アーサー王と円卓の騎士」のように「大団円」が来るわけではない、それはずっと先のことだと語られています。
その他特定が難しい登場本など
9. 「ウィリアム・スタイロンのエッセイ」
【『1973年のピンボール』での登場】
僕の翻訳の仕事のさまざまな例として挙げられている一つが、ウィリアム・スタイロンのエッセイでした。
『1973年のピンボール』に出てくる作家【一覧】
1. マルセル・プルースト
【『1973年のピンボール』での登場】
ピンボール研究書「ボーナス・ライト」という本の序文が紹介されていますが、その本の中でプルーストについて言及されています。
2. フョードル・ドストエフスキー
【『1973年のピンボール』での登場】
僕は双子の女の子にヴェトナムでの戦争について説明します。「世の中には百二十万くらいの対立する考え方がある」「殆んど誰とも友だちになんかなれない」と言います。そのような世間のあり方を述べたあとに、「ドストエフスキーが予言し」たと語ります。
3. テネシー・ウィリアムズ
【『1973年のピンボール』での登場】
物語の最終盤にて、テネシー・ウィリアムズの「過去と現在についてはこのとおり。未来については『おそらくである』」という言葉が紹介されています。
『1973年のピンボール』に出てくる架空の本などについて
その他にも、ピンボール研究書「ボーナス・ライト」なる本について言及されますが、調べてみたところこちらの書籍については存在が確認できませんでした。また僕の翻訳の仕事として、いくつか具体的な素材についても触れられますが、実在しているものか架空のものかの判断がつきにくいところです。「『アメリカン・サイエンス』の記事」というのは実在の『Scientific American』というサイエンス雑誌を指している可能性が高いです。また「一九七二年度の全米カクテル・ブック」という本や、「チャールズ・ランキン著『「科学質問箱」動物編』」、「米国看護協会編『致死病者との対話』」「フランク・デシート・ジュニア著『作家の病跡』」「ルネ・クレール作『イタリアの麦わら帽』」というようなパンフレットや雑誌、その他書類の一部なども挙げられています。『イタリアの麦わら帽』というのはルネ・クレールというフランスの映画監督・脚本家による1928年に公開された映画『イタリア麦の帽子』のシナリオです。
『1973年のピンボール』登場本: まとめ
本当に偉大な作家や哲学者の名前がごろごろと出てくる村上春樹作品ですが、『1973年のピンボール』でもカントやバルザック、プルーストといったそうそうたるラインナップを見ることができました。中でもバルザックの『農民』は『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 』でも登場するほど、村上春樹にとっては思い入れのある作品なのかもしれません。
雑誌の記事がしっかり発売号と記事の内容が現実に即しているのも、村上春樹らしいですね。小説理解を深めるためにも、上記の本で気になったものがあれば読んでみてはいかがでしょうか。
【村上春樹の長編に登場する本や作家のまとめリスト一覧】
→第2作『1973年のピンボール』に出てくる小説や作家まとめ
→第4作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に出てくる小説や作家まとめ
→第6作『ダンス・ダンス・ダンス』に出てきる小説や作家まとめ
以下、村上春樹関連の記事をまとめたので、興味がありましたら、ぜひご一読ください。
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