世界的作家である村上春樹の長編小説を英語で読んでみませんか?
今や世界中の言語で翻訳されている村上春樹作品ですが、特に英語圏での人気は圧倒的で、ほぼ全ての主要作品が英訳されています。そんな洋書は日本でも気軽に手に入れることができます。
村上春樹をあえて英語で読む多くは、英語学習に役立てたいと思う方でしょう。ハルキストにとっては格好の英語学習素材になるのですが、もちろんその他にも英語で読む魅力は多数あります。
ここではその魅力に加え、英語で読める村上春樹の全長編洋書一覧と、英語学習者におすすめの1冊を紹介していきます。
- 1 村上春樹を英語で読む4つの魅力
- 2 英語学習者におすすめの1冊目はHear the Wind Sing
- 3 村上春樹の英語で読める長編の洋書一覧
- 3.1 村上春樹の洋書① Hear the Wind Sing/風の歌を聴け
- 3.2 村上春樹の洋書② Pinball, 1973/1973年のピンボール
- 3.3 村上春樹の洋書③ A Wild Sheep Chase/羊をめぐる冒険
- 3.4 村上春樹の洋書④ Hard-Boiled Wonderland and the End of the World/世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
- 3.5 村上春樹の洋書⑤ Norwegian Wood/ノルウェイの森
- 3.6 村上春樹の洋書⑥ Dance Dance Dance/ダンス・ダンス・ダンス
- 3.7 村上春樹の洋書⑦ South of the Border, West of the Sun/国境の南、太陽の西
- 3.8 村上春樹の洋書⑧ The Wind-Up Bird Chronicle/ねじまき鳥クロニクル
- 3.9 村上春樹の洋書⑨ Sputnik Sweetheart/スプートニクの恋人
- 3.10 村上春樹の洋書⑩ Kafka on the Shore/海辺のカフカ
- 3.11 村上春樹の洋書⑪ After Dark/アフターダーク
- 3.12 村上春樹の洋書⑫ 1Q84/1Q84
- 3.13 村上春樹の洋書⑬ Colorless Tsukuru Tazaki and His Years of Pilgrimage/色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
- 3.14 村上春樹の洋書⑭ Killing Commendatore/騎士団長殺し
- 4 カバーデザインは好みで選ぼう
- 5 村上春樹の長編を洋書で読む:まとめ
村上春樹を英語で読む4つの魅力
魅力① 英語ならではの雰囲気を感じれる
村上春樹作品を洋書で読むメリットは、英語ならではの雰囲気を感じることができる点です。第一作目の長編『風の歌を聴け』は、もともとは英語で書かれた作品で、後から日本語に直したと著者は語っています。
とにかく僕はそうやって新しく獲得した文体を使って、既に書き上げていた「あまり面白くない」小説を、頭から尻尾までそっくり書き直しました。小説の筋そのものはだいたい同じです。でも表現方法はまったく違います。読んだ印象もぜんぜん違います。それが今ある『風の歌を聴け』という作品です。(『職業としての小説家』より)
つまり村上作品の文章は英語との相性がとても良いのです。これが英語でも気持ちよく読める理由の一つだと考えられます。
魅力② 英語訳の完成度の高さ
もとは日本語の小説でも、その英語訳された作品の質は間違いありません。英語圏でこれだけ人気ということは、原文ではないとはいえ、英語での完成度も高い作品だということです。ノーベル文学賞の最有力候補として、世界的な名声がそれを証明しています。
翻訳の精度が高いのは、村上春樹を理解する信頼できる訳者がその役割を担っているからです。ハーバード大学名誉教授・Jay Rubin、日本文学翻訳家・Alfred Birnbaum、アリゾナ大学教授・Philip Gabriel、ヨーク大学教授・Ted Goossenというそうそうたる4名が主な村上春樹作品の英訳を務めます。
魅力③ 英語学習に最適なレベル

洋書を読み始めようとしている英語学習者(特に初級~中級者)にとって、村上春樹作品の英語訳はちょうど良いレベルだと言えます。とても簡単とは言えませんが、決して難しくもありません。もともと村上作品の文章がシンプルなだけあって、英語訳もシンプルな構造をしています。
英語レベルでいうと、例えば初期作の『風の歌を聴け』(Hear the Wind Sing)と『1973年のピンボール』(Pinball, 1973)に関しては、出版社が参考までに言及しているのは「TOEIC600点以上」です。600点以上なので、明確な基準にはなりませんが、僕がTOEIC800点くらいだった時に読んだ感じでは、とても読みやすい印象でした。もちろんわからない単語も表現も出てきますが、全体を一定のスピードで読み通すのに苦労はしませんでした。
村上作品が好きで読んだことがあるというのは、英語で読む上で大きなアドバンテージです。洋書を読むことに多少の不安があるとしても、内容を知っているだけで、かなり英語レベルのハードルが下がります。
英語に多く触れる、多読によってリーディング力を伸ばす、といった目的には最適だと言えます。
魅力④ 豊富なラインナップ

まず一冊に集中して読み込むことは、小説を味わう上でも英語力を鍛えるためにもとても重要です。それと同じくらいまとまった量の英語を読むことも大切です。村上春樹の長編は現在14作品ありますが、その全てが英語訳されていて簡単に手に入れることができます。少なくともそれだけの量が保証されているのです。
自分が好きな内容や英語力に合ったページ数で選ぶことができるのも、これだけのラインナップがある村上春樹作品の魅力です。
英語学習者におすすめの1冊目はHear the Wind Sing
最初の1冊目として英語学習者におすすめしたい作品はHear the Wind Sing/『風の歌を聴け』です。長編第一作目で、やはり最初に通るべき作品ということもありますが、他にも理由はあります。
まず分量が他の作品と比べても少ないということです。日本語で読んだことがある方ならわかると思いますが、文庫本では150ページあまり、英語版ペーパーバックでは100ページほどです。中編小説とも言えるボリュームなので、最初の作品としては最適です。
また先ほども述べたように、英語レベルが中級程度で、わかりやすい英文で書かれています。『風の歌を聴け』は、当時著者が英語で書いてから日本語に戻した作品なので、英語訳も特に自然な感じなのです。
村上春樹作品を英語で読み始めたい方はもちろん、洋書自体が初めての方にもおすすめなのがHear the Wind Singなのです。
村上春樹の英語で読める長編の洋書一覧

村上春樹の洋書① Hear the Wind Sing/風の歌を聴け
上述のとおり、Hear the Wind Singは一冊目におすすめな作品です。実は村上春樹のデビュー作である『風の歌を聴け』の英語訳が世界で発売されたのがわりと最近で、2015年です。日本では1987年に講談社英語文庫から出版されましたが、世界的に展開しなかったのは、未熟な作品だからという作者の意向でした。
著者は『風の歌を聴け』についてこう語っています。
僕はこの作品の出来に決して満足したわけではありません。書き上げたものを読み直してみて、未熟で、欠点の多い作品だと思いました。自分が表現したいことの二割か三割くらいしか書けていない、と。(『職業としての小説家』より)
しかし春樹ファンにとって、そして世界の文学にとって本作品はもはや、なくてはならない小説です。
上の画像で紹介している洋書はHear the Wind SingとPinball, 1973の初期2作を収録しています。
・翻訳者:Alfred Birnbaum/Ted Goossen
・洋書出版年:1987/2015
村上春樹の洋書② Pinball, 1973/1973年のピンボール
こちらもHear the Wind Singと同様、初期作品にも関わらず、日本では1985年に英語訳されましたが、世界的に英語訳が発売されたのは2015でした。比較的自由に訳すAlfred Birnbaumから、2015年の版ではTed Goossen訳に変わりました。
こちらで紹介しているペーパーバックの画像もHear the Wind SingとPinball, 1973の合本で、Hear the Wind Singで紹介したものとは別バーションの本です。お好みのほうを選んでください。
・翻訳者:Alfred Birnbaum/Ted Goossen
・洋書出版年:1987/2015
村上春樹の洋書③ A Wild Sheep Chase/羊をめぐる冒険
村上春樹初期三部作(鼠三部作)の最後の作品で、これが一番好きだというファンも多いが『羊をめぐる冒険』。日本では上下二分冊された文庫本のイメージが強いですが、元々の単行本同様、英語でも一冊に集約されています。
・翻訳者:Alfred Birnbaum
・洋書出版年:1989
村上春樹の洋書④ Hard-Boiled Wonderland and the End of the World/世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
村上春樹の4作目の長編『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』も当初書き下ろしで発売したのと同様、英語も一冊となっています。
・翻訳者:Alfred Birnbaum
・洋書出版年:1991
村上春樹の洋書⑤ Norwegian Wood/ノルウェイの森
世界的にも特に有名な『ノルウェイの森』ですが、現在手に入るのは2000年出版のJay Rubin訳の洋書となっています。
・翻訳者:Alfred Birnbaum/Jay Rubin
・洋書出版年:1989/2000
村上春樹の洋書⑥ Dance Dance Dance/ダンス・ダンス・ダンス
Dance Dance Danceは初期三部作に続く物語で、ボリュームは400ページを超えます。
・翻訳者:Alfred Birnbaum
・洋書出版年:1994
村上春樹の洋書⑦ South of the Border, West of the Sun/国境の南、太陽の西
South of the Border, West of the Sunは、初期作品のHear the Wind SingやPinball, 1973と同様に中編小説とも呼べる長さで、洋書を読むハードルが比較的低い作品です。
・翻訳者:Philip Gabriel
・洋書出版年:2000
村上春樹の洋書⑧ The Wind-Up Bird Chronicle/ねじまき鳥クロニクル
・翻訳者:Jay Rubin
・洋書出版年:1997
村上春樹の洋書⑨ Sputnik Sweetheart/スプートニクの恋人
・翻訳者:Philip Gabriel
・洋書出版年:2001
村上春樹の洋書⑩ Kafka on the Shore/海辺のカフカ
・翻訳者:Philip Gabriel
・洋書出版年:2005
村上春樹の洋書⑪ After Dark/アフターダーク
・翻訳者:Jay Rubin
・洋書出版年:2007
村上春樹の洋書⑫ 1Q84/1Q84
・翻訳者:Jay Rubin (Book 1-2)/Philip Gabriel (Book 3)
・洋書出版年:2011
デザインを合わせたい場合は、Book 1-2とBook 3に分かれてしまいますが、こちらのエディションもおすすめです。
村上春樹の洋書⑬ Colorless Tsukuru Tazaki and His Years of Pilgrimage/色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
・翻訳者:Philip Gabriel
・洋書出版年:2014
村上春樹の洋書⑭ Killing Commendatore/騎士団長殺し
・翻訳者:Philip Gabriel/Ted Goossen
・洋書出版年:2018
カバーデザインは好みで選ぼう
村上春樹作品の洋書のポイントの一つが、その洗練されたカバーデザインです。そしてニューヨークにあるVintage Booksという出版社から出た内容が同じ英語版でも、複数の種類の表紙が存在します。現在書店やAmazonで最も目にするデザインが、以下の2種類です。


一つが白黒赤の3色でデザインされた日本風のデザイン、もう一つが抽象的なカラフルデザインのものです。現在、Amazonでは前者の日本風統一デザインの洋書(上の写真)が売られています。僕は個人的にもう一方のポップなデザインのもの(下の写真)が欲しかったので書店をめぐって、全巻揃えました。素材も若干異なっているので、デザインの違いも含めて好みの洋書を選ぶと良いでしょう。
村上春樹の長編を洋書で読む:まとめ
以上が、村上春樹の長編小説を英語で読む魅力と、洋書の一覧リストでした。さらに英語学習にぴったりな一冊も紹介しました。
これを機に英語の愛読書ができたり、別の角度から作品を楽しめたり、英語力の向上につながることを願っています!
▽短編集の洋書も読みたい方は、こちらの全作品リストをチェックしてみてください!▽
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