今年10月にオープンしたばかりの村上春樹ライブラリーに行ってきたので、その感想を残しておきたいと思います。
数年前の設立情報が公開されて以来、待ちに待った念願の村上春樹ライブラリー(早稲田大学国際文学館)。当面は完全予約制(追記:2023年10月現在、予約不要となっています)とのことですが、僕は運良く予約開始のニュースを目にし、予約を取ることができました。
村上さんご自身がライブラリーの設立に関わり、執筆関係資料や書籍、レコードなどを寄贈されただけあって、その世界観はまさに純正の村上春樹ワールドでした。
村上春樹ライブラリーが気になっている人、さらにはこれから足を運ぶ人に向けて、かんたんに展示の紹介と入館までの具体的な流れをここに記しておきます。
村上春樹の世界を味わう
特徴的な建物の外観で、到着してすぐにこれが村上春樹ライブラリーだとわかりました。ちなみに村上春樹ライブラリーに最も近く、裏口的な東門からひっそり入るアクセス方法は本記事の後半で詳しく記載しています。
早稲田大学4号館を村上春樹ライブラリー(正式名称:早稲田大学国際文学館)にリニューアルするにあたって、あの隈研吾さんが設計を担当。4号館はかつて学生運動で学生が占拠した因縁の建物なんだとか。
ちなみに隣には村上さんが学生時代に通ってシナリオを読み込んだ坪内博士記念演劇博物館が立っています。
来館予約は10:15~11:45のタイムテーブルだったので、ちょうど10時頃から並んでくださいという案内がありました。9:40くらいには到着していたので、来館した人が並ぶ前にゆっくりと建物を撮ることができました。人が写らず建物を撮影したい方は、予約の20~30分前に到着しておきたいですね。
10:15になると並んだ順に案内され、館内で入館証を受け取り、その後は完全に自由行動となります。
いよいよ待ちに待った村上春樹ライブラリーを探検です!
ここからは主な展示をセクションごとに紹介します。写真とともに紹介しますが、伝わる魅力はほんの一部だと思うので、自身で足を運ぶと楽しみは何倍にもなること間違いなしです。
魅力① 階段本棚 (1F)
なんといっても村上春樹ライブラリー最大の魅力は、そのシンボル的な存在「階段本棚」です。階段の左右で多様なテーマが展開がされています。オープン時の第1回の企画テーマは「村上春樹とその結び目」。
特に面白かったのが「現在から未来に繋ぎたい世界文学作品」。 『クラウド・アトラス』などで知られるイギリスの作家・デイヴィッド・ミッチェルや『Memorial』などを代表作に持つアメリカのブライアン・ワシントンなど村上さんが注目する現代作家が紹介されています。日本人では村上さんと親交のある柴田元幸さんや川上未映子さんも取り上げられています。村上春樹ファンにとっては、これ以上ないほど贅沢なブックガイドと言えます。
もちろん全ての書籍は手にとって読むことができます。階段なので、夢中になりすぎて踏み外してしまわないようにご注意ください。何人か転びそうになっている方を見かけましたし、僕も何度かひやっとしました。
さらに「村上作品に登場する文学作品」のコーナーには、小説に登場する本が実際に網羅して展示されていました。『バートン版 千夜一夜物語』や夏目漱石作品のラインナップを見て、『海辺のカフカ』でカフカ少年が甲村記念図書館で読む情景を思い出さずにはいられませんでした。
逆側の棚には「世界を肯定する」「芸術に触れる」などのユニークなテーマでの選書がされていて、こちらも興味深い展示です。
魅力② ギャラリーラウンジ (1F)
ギャラリーラウンジにはこれまで出版された村上作品は綺麗にラインナップされている。初版のデザインなどが置かれているので、まるで美術品を見ているかのようでした。
さらに中央に置かれた読書用テーブルを挟んで反対側には、出版年代別に村上作品や翻訳作品、さらには外国語の翻訳などがずらりと並んでいます。
奥にいるのは、村上さん本人が描いた羊男です。強い視線を感じながら、ここに座って読書するには相当な集中力が要りそうです。
ギャラリーの奥には、プライベート空間を感じれる読書椅子が4つほど置かれています。美術館のようで忘れていましたが、「ここはライブラリーなんだ」とこの返却シェルフを見て思い出しました。みなさん恐れ多いのか、手に取った本は自ら棚に戻していたようで、返却シェルフはまだ空っぽでした。
さらにその奥には、壁一面に描かれた村上春樹年表があります。著作の出版から受賞歴まで整理されています。改めて見ると、あれだけの作品をよくもこんなに残せるなと感心せずにはいられません。
魅力③ オーディオルーム (1F)
村上春樹さんと言えば音楽レコードとは切り離せない存在ですが、この村上春樹ライブラリーにも理想の視聴空間を形にしたオーディオルームが設計されました。小説に出てくる数々のレコードや、村上さん自身がかつて経営していたジャズ喫茶「ピーターキャット」に触れることができる空間です。
壁面に展示された20枚のレコードとは別に、ジャズ喫茶「ピーターキャット」のスタンプが押されたレコードも寄贈されています。かわいい。
魅力④ 書斎 (B1F)
驚かされたのが、この村上春樹さんの自宅の書斎を完全再現した書斎の展示です。残念ながら現時点での入場はできませんが、実際に執筆している環境を目の当たりにできて光栄でした。自身の書斎と同じ間取りで、床に使われている木にもこだわったそうです。
書斎は階段本棚を降りてすぐに左手から覗くこともできますし、予約無しでの一般開放のカフェからも見ることができます。
魅力⑤ 展示室 (2F)
2Fは展示室となっていて、村上春樹に関わるテーマだけでなく、さまざまな企画で展示内容が変わっていくそうです。2021年10月1日から2022年2月4日までの最初のテーマは「建築のなかの文学、文学のなかの建築」で、やはり隈研吾さん設計の本館が主に取り上げられていました。
今回の展示のテーマである「建築」に関連した書籍が並んでいるのも嬉しいですね。
2Fからは階段本棚の天井に達するアーチが綺麗に見えます。さらにその奥には、『風の歌を聴け』に登場するTシャツのイラストが描かれています。これは奥まで足を向けないと、意外と見落としてしまうかもしれません。
魅力⑥ カフェ「橙子猫 -Orange Cat-」(B1F)
最後に絶対立ち止まるべきは、B1Fに併設されたカフェ「橙子猫 -Orange Cat-」です。この「オレンジキャット」という名前は、 村上さんが命名したんだそうです。学生時代に経営していたジャズ喫茶「ピーターキャット」の由来にもなっているピーターという猫がオレンジキャットという種類だったという由来があるそうです。
美術館に来たらお土産も、という気持ちにもなりますが、この早稲田大学国際文学館にはその代わりにこのカフェがあります。コーヒーはもちろん、面白いのがフードメニューです。村上作品にゆかりのあるドーナツをはじめ、パニーニには「WONDER LAND」(『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』)や「WIND-UP」(『ねじまき鳥クロニクル』)など小説のタイトルの一部が名付けられています。
僕はハンドドリップコーヒーとトマトとチーズのパニーニ「WIND-UP」を注文しました。
カフェ内には飲食スペースのあるラウンジがあり、外にもテラス席があります。カフェ「橙子猫 -Orange Cat-」を含む村上春樹ライブラリーB1Fは一般開放されているので、来館予約が無くても入ることができます。ラウンジにはかつてジャズ喫茶「ピーターキャット」で使用されていたピアノや、村上春樹×蜷川幸雄の奇跡のコラボと言われた舞台『海辺のカフカ』で使用された土星の舞台装置が展示されています。
つまり来館予約が取れない方でも、カフェ「橙子猫 -Orange Cat-」、書斎、階段本棚(下から)、その他いくつかの展示物を楽しむことができるのです。
営業時間:平日 10:00-17:00/土日祝 10:00-15:00
カフェ「橙子猫 -Orange Cat-」公式ウェブサイト:http://orangecat-wihl.com/
村上春樹ライブラリーへの行き方
ここからは早稲田大学を初めて訪れる方向けに、村上春樹ライブラリーまでの行き方を具体的に解説していきます。ここで紹介するのは村上春樹ライブラリーに最も近く、比較的ひっそりしている東門を目指すルートです。
公式サイトでもアクセス情報は掲載されていますが、MAPの絵だけなので少し不安だという方もいるでしょう。
多くの人が利用するであろうJR山手線や東京メトロ東西線でのアクセスもできますが、それとは違ったルートです。まず都電荒川線の早稲田駅をスタートにします。JR山手線高田馬場駅からは徒歩20分ほどとかなりの距離がありますが、都電荒川線早稲田駅からは徒歩5分です。
写真に矢印を付ける形で紹介していきます。
つまり都電荒川線早稲田駅を降りて村上春樹ライブラリーに着くまでに、3回しか曲がるポイントがないシンプルさです。僕はこのルートで誰にも人に会わず、逆に不安でしたが。
早稲田大学構内も広いので、入ってすぐに見えるというのも魅力的なルートです。
村上春樹ライブラリーの予約方法
追記:2023年10月現在、なんと予約不要となっています。20名以下の入館は予約がいらないということなので、個人での来館ならその日に行ってよほど混雑などしていない限りそのまま入れます!
村上春樹ライブラリーは開館から予約が必須となっています。オープン時点では以下のように1日4回の来館に区切られていて、1回に30名程度の受け入れをしています。
- ①10:15~11:45
- ②12:00~13:00 (※早稲田大学学生の優先入館時間帯)
- ③13:30~15:00
- ④15:15~16:45
来館予約は先着順で、来館希望日の1ヶ月前の0時0分より予約受付が開始となります。かなりの人気ですぐに予約が埋まってしまうので、この予約開始の時間帯を狙いたいですね。
予約はこちらから:https://www.waseda.jp/culture/wihl/other/357
村上春樹ライブラリーオープンに際して
2021年10月1日に「物語を拓こう、心を語ろう」というコンセプトを基に開館された村上春樹ライブラリー(早稲田大学国際文学館)。2018年11月に国際文学研究拠点設置構想を公表し、隈研吾さん設計により旧4号館を村上春樹ライブラリーとしてリニューアル。オープン前の2021年9月22日には村上春樹さんが登壇された記者会見が開催されました。
会見には、村上春樹さんに加え、国際文学館構想を支援する株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長・柳井正氏さん、改築設計を務めた隈研吾さん、田中愛治早稲田大学総長、十重田裕一国際文学館館長が登壇。以下の公式サイトでは会見内容の詳細が見れます。
オープン前のTBSによる独占取材の動画もあります。
村上春樹ライブラリー公式ウェブサイト:https://www.waseda.jp/culture/wihl/
最後に
いかがでしたでしょうか。ついにオープンとなった村上春樹ライブラリーですが、一度足を運んでも、1時間30分では足りないほどの充実感でした。今後も企画テーマが変わるのが楽しみです。
さらに係りの方に村上さんの原稿資料やメモなどを展示する予定はあるのかを伺ったところ、「すでに資料などは預かっているので、機会があれば展示するでしょう」というわくわくする回答をいただきました。
最後に以下に紹介するのは、村上春樹さんが早稲田大学国際文学館設立にあたって送った言葉です。
息をするのと同じように
学ぶというのは本来、呼吸をするのと同じです。教室の中であれ、外であれ、僕らは息をするのと同じように、日々多くのものごとを自然に、当たり前に学び取っています。このささやかなライブラリーが、学校や国境の壁を自由に抜けて、あなたにとって「息をしやすい学びの場」となることを、心から祈っています。
予約が取れた際には、ぜひ楽しんでください!
完全に余談ですが、村上春樹ライブラリーからのは早稲田通りを通って帰ったのですが、途中で見つけた古書店で思わぬ出会いが。ギャラリーで羨ましく見ていた村上作品の旧デザインの表紙たち。それが何気なく古書店やに並んでいたのです。古本好きの方は、ぜひ帰り道にいくつかある古書店を巡ってみてはいかがでしょう。
それでは楽しい読書ライフを!
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