村上春樹が翻訳したおすすめのアメリカ小説BEST10

村上春樹翻訳のおすすめアメリカ小説

小説家としては知らない人はいないであろう村上春樹さんですが、実は翻訳者としても数多くの実績を残しています。そんな村上春樹が翻訳したおすすめの厳選10作品を紹介します。

翻訳家としても一流の仕事をこなしてきた村上さんの翻訳の特徴はとても読みやすく、本人が愛読していたか、間違いなく面白いと思った作品のみを選んでいる点です。

その中でも特におすすめな村上春樹翻訳の海外作品BEST10を紹介していきたいと思います。

・村上春樹の小説を読破し、新作が待ち遠しく感じてる人
・海外の小説に興味があるけど、どんな作品から読み始めればよいかわからない人

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村上春樹好きにおすすめな作家

翻訳家としての村上春樹

村上春樹さんが初めて翻訳書を発表したのが1981年で、フィッツジェラルドの作品集『マイ・ロスト・シティー』でした(正確には1980年に文芸誌「海」に掲載されたのが最初)。自身のデビュー小説『風の歌を聴け』が出版されたのが1979年なので、作家としての活動と同じくらい長い間翻訳活動を続けていることになります。

もともと愛読していたフィッツジェラルドやサリンジャーなどのアメリカ文学作品を中心に、今なお現役で執筆活動を続ける作家の作品も翻訳を手がけており、今では100近くの海外作品を日本に送り出しています

そんな村上さんの翻訳への熱はただならぬものを感じます。以下は本人による翻訳についての考えを引用した言葉です。

うまく説明はできないけど、とにかく翻訳という作業が好きで、小説を書いている時期であっても、時間が余ればつい手が伸びてしまう。好きな音楽を聴きながら、好きなテキストを翻訳していると、とても幸福な気持ちになれる。(村上春樹『村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事』「まえがき」より)

村上春樹が翻訳した海外小説のおすすめ10選

1. グレート・ギャツビー (The Great Gatsby)

グレート・ギャツビー
グレート・ギャツビー

アメリカ文学の最高傑作、そして村上春樹さんが最も愛する小説の一つとされる『グレート・ギャツビー』は、村上春樹翻訳作品の中でも突出した一冊です。村上さんは「僕にとってきわめて重要な意味を持つ作品で、怖くてなかなか手を出すことができず」と、すぐに翻訳に着手できなかった心理を語っています。名作には複数の翻訳があるべきと言われていますが、このフィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』にも七種類も日本語訳があります。モダン・ライブラリーが発表した20世紀の名作ランキングベスト100の「Modern Library 100 Best Novels」では堂々の2位に選ばれたことでも有名です。とにかく村上春樹が手がけた翻訳作品を選ぶ際には欠かせない一冊であることが間違いありません。

著:F・スコット・フィッツジェラルド
出版年(原書):1925年
出版年(村上訳):2006年

2. キャッチャー・イン・ザ・ライ (The Catcher in the Rye)

キャッチャー・イン・ザ・ライ
キャッチャー・イン・ザ・ライ

村上春樹さんによる翻訳書で圧倒的におすすめなのが、J・D・サリンジャーの長編小説『キャッチャー・イン・ザ・ライ』です。言わずと知れた青春小説の最高峰といえるでしょう。契約上の都合により日本では白水社からしか翻訳が出版できませんが、最初に出版された野崎孝による訳『ライ麦畑でつかまえて』のタイトルで馴染みがある人も多いでしょう。出版当時から若者のバイブル的な存在だった本書は、時代を超えて今でも世界的に読み継がれています。本書でのサリンジャーの語り口は魔術的で、その世界観に魅了される読者があとを絶ちません。ジョン・レノンを暗殺した男が『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の主人公・ホールデンにのめり込んでいたというのは有名な話です。本書の魅力はその危険性にあるというわけではありませんが、それほどまでに強い何かがそこにあると感じられるはずです。『キャッチャー・イン・ザ・ライ』はまだ読んだことのない全ての読書家はもちろんですが、野崎孝訳『ライ麦畑でつかまえて』のみを読んだことがある人にもぜひ読むことをおすすめしたい一冊です。

著:J・D・サリンジャー
出版年(原書):1951年
出版年(村上訳):2003年

3. ティファニーで朝食を (Breakfast at Tiffany’s)

ティファニーで朝食を
ティファニーで朝食を

ティファニーで朝食を』はタイトルだけ聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。20世紀中頃に活躍したアメリカの小説家トルーマン・カポーティの代表作がこの『ティファニーで朝食を』です。1961年にオードリー・ヘプバーン主演で映画化されたことでも有名ですが、小説とは内容が大きく異なります。村上さんは「できれば、映画のイメージからは離れたところでこの小説を味わっていただきたい」と語っています。『ティファニーで朝食を』には全4作品の短編が収録されていて、表題作ではニューヨークに住む一人の女性ホリーに焦点が当てられます。日本では1960年に龍口直太郎訳が出版されましたが、翻訳にも「賞味期限」があり、やはり今読むなら村上訳がおすすめです。

著:トルーマン・カポーティ
出版年(原書):1958年
出版年(村上訳):2008年

4. 大聖堂 (Cathedral)

大聖堂
大聖堂

レイモンド・カーヴァーを愛する村上春樹訳による作品全集の刊行が決定し、最初に出版されたのが『大聖堂』でした。アメリカ生粋の短編作家であるカーヴァーの傑作選ともいえる13作品が『大聖堂』には収録されています。訳者は「解題」の中で「創作の気力と文章的技術とこの作家独自の持ち味が最高のレベルでぴたっと重ねあわされて、まさに知情意の三拍子が揃った見事な出来となっている」とまで評しています。村上春樹自身の小説を愛読している方なら、カーヴァーの文体はとても自然に溶け込んでくることと思います。

著:レイモンド・カーヴァー
出版年(原書):1987年
出版年(村上訳):1990年

5. 頼むから静かにしてくれ (Will You Please Be Quiet, Please?)

頼むから静かにしてくれ
頼むから静かにしてくれ

やはり村上春樹の翻訳作品を語るうえで欠かせない存在がレイモンド・カーヴァーで、最高傑作『大聖堂』も先ほど紹介しました。同時にカーヴァーにとっての一冊目の短編集頼むから静かにしてくれ』も紹介せずにはいられません。短いストーリーのなかで「どうなっていくんだろう」とと思わされるのがカーヴァーの魅力です。村上春樹 翻訳ライブラリーの『頼むから静かにしてくれ』は二分冊されていて、それぞれ13作品と9作品で構成されています。また両巻末には村上さんによる贅沢な全作品解説が収録されています。

著:レイモンド・カーヴァー
出版年(原書):1976年
出版年(村上訳):1991年

6. ニュークリア・エイジ (The Nuclear Age)

ニュークリア・エイジ
ニュークリア・エイジ

ニュークリア・エイジ』はアメリカの戦争小説作家であるティム・オブライエンの代表的な長編小説です。これは村上春樹さんが個人的に「とにかく作品に惚れ込んで訳した」作品です。戦場の風景を真っ正直に描くこの作家は実際にベトナム戦争に従軍した過去を持ちます。村上さんは本作に対して「従来の戦争小説とはまったく違うアプローチをしているところがすごい」とコメントしています。最初の単行本では上下巻で出版されましたが、今では新たに一冊となった文庫が手に入ります。

著:ティム・オブライエン
出版年(原書):1985年
出版年(村上訳):1989年

7. マイ・ロスト・シティー (My Lost City)

マイ・ロスト・シティー
マイ・ロスト・シティー

村上春樹さんの最初の翻訳作品集として出版されたのでこのフィッツジェラルドの『マイ・ロスト・シティー』です。フィッツジェラルドは村上さんが翻訳を始めたきっかけにもなったアメリカ作家です。『マイ・ロスト・シティー』には、それほど翻訳の難度が高くないものや、当時まだ翻訳されていなかった短編やエッセイが収録されています。具体的にはフィッツジェラルドの短編5作品とエッセイ1編+村上春樹のエッセイ1編という構成です。村上春樹の翻訳活動の歴史を振り返るうえでも、欠かせない一冊です。

著:F・スコット・フィッツジェラルド
出版年(原書):1981年(村上春樹が選んだ日本語オリジナルの短編集)
出版年(村上訳):1981年

8. ロング・グッドバイ (The Long Goodbye)

ロング・グッドバイ
ロング・グッドバイ

レイモンド・チャンドラーは村上春樹さんが愛読するアメリカの探偵小説作家で、この『ロング・グッドバイ』はシリーズお馴染みのフィリップ・マーロウを主人公とした二つ目の作品です。日本での最初の翻訳は1958年の清水俊二によって出版された『長いお別れ』ですが、村上訳は『ロング・グッドバイ』というタイトルとして2007年に刊行されました。村上さんは「やっぱりチャンドラーの長篇の中では、『ロング・グッドバイ』が圧倒的に優れていると思う」と本作を評しています。また、チャンドラーの文体が『羊をめぐる冒険』に影響を与えたように「チャンドラーは僕の原点でもある」とまで述べています。村上ファン、探偵小説ファンともに楽しめる作品であること間違いなしです。

著:レイモンド・チャンドラー
出版年(原書):1953年
出版年(村上訳):2007年

9. 熊を放つ (Setting Free the Bears)

熊を放つ
熊を放つ

熊を放つ』は現代アメリカ有数の作家・ジョン・アーヴィングのデビュー小説です。村上さんはこの長編が最初に読んだアーヴィング作品だと語っています。『ガープの世界』や『ホテル・ニューハンプシャー』などの大ベストセラーが他にある中で、村上さんが『熊を放つ』を訳したのは、「他の人がやらないようなものを翻訳したい」という方針によるものだそうです。『熊を放つ』は三部から構成される大長編青春小説で、現在簡単に手に入る「村上春樹 翻訳ライブラリー」バージョンだと計700ページを超える上下巻となっています。下巻の「訳者あとがき」にて「アーヴィングは僕の小説の構築法にかなりの影響を与えた」と語られているように、村上ファンにとっても必読の作家といえるのがジョン・アーヴィングなのです。

著:ジョン・アーヴィング
出版年(原書):1968年
出版年(村上訳):1986年

10. ワールズ・エンド(世界の果て) (World’s End)

ワールズ・エンド(世界の果て)
ワールズ・エンド(世界の果て)

今でこそ多くの作品が日本でも翻訳されているポール・セローですが、『ワールズ・エンド(世界の果て)』という短編集は村上さんがたまたま手にとってすごく気に入ったことから翻訳が決まった作品です。日本での出版時期は1987年なので、訳者の翻訳生活の初期にあたります。ポール・セローは小説の他にも旅行記が有名な作家ですが、この『ワールズ・エンド(世界の果て)』に収録されている作品もロンドンやプエルトリコなどを舞台に、エネルギッシュな悲喜劇が展開されます。その奇想天外な物語の中には実話も含まれているそうです。ちなみにポール・セローの息子であるマーセル・セローの『極北』も「すごく面白い」ということで村上さんによって2012年に翻訳されています

著:ポール・セロー
出版年(原書):1968年
出版年(村上訳):1987年

まとめ

いかがでしたでしょうか。村上春樹さんによる翻訳作品のセレクションが名作揃いなのに加え高品質の翻訳で読めてしまうのも大きな魅力です。また自然と文体が村上作品に似ていたり、各訳書の巻末に村上さんにより解説がついていたりと、村上ファンにはたまらないはずです。

「村上春樹の新作まだかな〜」と待ち遠しく思っている方も、村上春樹による翻訳書に目を向けてみてはいかがでしょうか。

それでは楽しい読書ライフを!

▽以下の記事では、村上春樹さんが愛し、翻訳したアメリカ人作家たちを紹介します▽

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