村上春樹が愛し、翻訳したアメリカ人作家たち

村上春樹が翻訳したアメリカ人作家

作家としてだけでなく、翻訳家としても精力的に活動している村上春樹さん。そんな村上さんの主な翻訳対象はアメリカの小説です。村上さんがかねてから海外文学、特にアメリカ文学を好んで読んできたことは知られていますが、具体的にどの作家ようなに特別な思い入れがあるのでしょうか。

ここでは村上春樹さんが長い間愛読し、自らの手で翻訳するほど愛着をもったアメリカ人作家を紹介します。

ハルキストのみなさんや最近村上作品を読み始めたという人が、次に読む作家選びの助けにもなると思います。特に村上さん自身が訳した作品は、なんとなく文体が似ていることも少なくないので、以下で紹介する作家は村上ファンにはいっそうおすすめです。

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村上春樹好きにおすすめな作家

村上春樹が翻訳した作家① スコット・フィッツジェラルド (F. Scott Fitzgerald)

スコット・フィッツジェラルド
スコット・フィッツジェラルド

言わずと知れたアメリカ人作家スコット・フィッツジェラルドは、村上さんが最も愛する作家の一人です。ヘミングウェイなどと並んで、「失われた世代」と称されることもあります。フィッツジェラルドを訳したいというのが、村上さんが翻訳を始めたきっかけとまで語っています。

現在出版されているフィッツジェラルドの長編は5作と多くはありませんが、名作揃いといえます。中でもやはり1925年に出版された『グレート・ギャツビー』は別格で、日本でも7つほどの異なる翻訳が出版されています。村上春樹訳は比較的新しいもので、やはりフィッツジェラルドの最重要作品である『グレート・ギャツビー』から読むことをおすすめします。この作品は村上さんにとっても、高校時代から繰り返し読んできた特別な思い入れのある作品なんだそうです。

『マイ・ロスト・シティー フィッツジェラルド作品集』『ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック』『バビロンに帰る ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック2』『グレート・ギャツビー』『冬の夢』『ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集』『最後の大君』

村上春樹が翻訳した作家② レイモンド・カーヴァー (Raymond Carver)

レイモンド・カーヴァー
レイモンド・カーヴァー

村上春樹の翻訳活動を語る上で欠かせないのが、このレイモンド・カーヴァーという作家の存在です。根っからの短編小説家で、特に日常の何気ない出来事に注目して描写される世界がカーヴァーの特徴です。カーヴァーを訳すことについて村上さんが「僕はわりに波長が合う」と言うように、簡潔で鋭い文体で語られる物語が見事に心地よい文章に置き換えられています。

村上作品の長編のようなスケールの大きな物語の展開はありませんが、合間で語られる日常生活の部分にフォーカスしたものがカーヴァーの短編作品にどこか通ずるものがあります。カーヴァーが50歳のときにガンで死亡したという知らせを聞いて、村上さんは「彼の作品はとにかく全部、自分で訳そう」と決めたそうですが、レイモンド・カーヴァー全集全8巻をはじめ、隅から隅まで翻訳がなされています。まずは短編集第一作目の『頼むから静かにしてくれ』や、傑作『大聖堂』から読み始めるとよいでしょう。

 

『ぼくが電話をかけている場所』『夜になると鮭は‥‥』『ささやかだけれど、役にたつこと』『頼むから静かにしてくれ』『愛について語るときに我々の語ること』『大聖堂』『ファイアズ (炎)』『水と水とが出会うところ / ウルトラマリン』『象 / 滝への新しい小径』『英雄を謳うまい』『必要になったら電話をかけて』『カーヴァー・カントリー』『Carver’s Dozen レイモンド・カーヴァー傑作選』『必要になったら電話をかけて』『ビギナーズ』

村上春樹が翻訳した作家③ J・D・サリンジャー (J. D. Salinger)

J・D・サリンジャー
J・D・サリンジャー

村上春樹が愛し、翻訳してきた作家の中でも最も知名度がある作家がJ・D・サリンジャーでしょう。1951年に発売された当初から若者の間でバイブル的存在として君臨した『キャッチャー・イン・ザ・ライ』は、日本でも『ライ麦畑でつかまえて』という邦題で野崎孝さんの訳が1964年に出版されて以降定着してきました。そのような名訳があるにもかかわらず、村上さんが新しい翻訳バージョンを出すことは相当な覚悟が必要だったはずです。

しかし「名作にはいくつかの翻訳の選択肢があった方が良い」という村上さんの考えもあって、2003年に村上訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』が実現しました。野崎孝訳『ライ麦畑でつかまえて』と読み比べるのも面白いのでおすすめです。生涯を通して謎も多く、発表した作品の数は多いとはいえないサリンジャーですが、そのどれもが名作で読むに値するものです。村上さんによる翻訳は『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』の2冊ですが、いつか『ナイン・ストーリーズ』も村上春樹訳で読んでみたいものです。

『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』

村上春樹が翻訳した作家④ ティム・オブライエン (Tim O’Brien)

ティム・オブライエン
ティム・オブライエン

地位を確立した他の作家たちと比べると、ティム・オブライエンの知名度はとても有名とは言えないかもしれません。そんなアメリカ人作家が日本でこれほどの存在感を持っているのは、村上さんが翻訳を通して日本に「輸入」したからに他なりません。村上さんは恐縮しながらも「僕が発見した、僕の作家だという感じがすごく強い」と述べています。最初に翻訳した『ニュークリア・エイジ』についても、「とにかく作品に惚れ込んで訳した」と語っています。

自らベトナム戦争に従軍した経験を持ち、一貫してベトナム戦争を小説のテーマに置いてきたティム・オブライエン。リアリズムと反リアリズムの融合という点で、村上春樹に小説と共感する部分がある作家です。それだけ村上さんを入れ込ませた作家に興味を持たない村上ファンはいないでしょう。まずは長編小説『ニュークリア・エイジ』、もしくは短編集『本当の戦争の話をしよう』を読んでみてはいかがでしょうか。

『ニュークリア・エイジ』『本当の戦争の話をしよう』『世界のすべての七月』

村上春樹が翻訳した作家⑤ レイモンド・チャンドラー

レイモンド・チャンドラー
レイモンド・チャンドラー

村上春樹の初期作品から影響を与え、自身も日本での人気を確立しつつあるアメリカ人作家がレイモンド・チャンドラーです。チャンドラーが生み出した主人公・フィリップ・マーロウは、今ではハードボイルド系の私立探偵の代名詞的な存在となっています。村上さんはチャンドラーの推理小説から多くのことを学んだと言います。

村上さんの第3作目『羊をめぐる冒険』が、チャンドラーの文体をモデルにした最初の作品で、その後 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』や『ノルウェイの森』、さらには『ねじまき鳥クロニクル』や『海辺のカフカ』にまでその影響は及んでいるそうです。チャンドラーの中では『ロング・グッドバイ』が最も優れた作品であるとしながら、『さよなら、愛しい人』も個人的に好きな作品だと村上さんは語っています。

『ロング・グッドバイ』『さよなら、愛しい人』『リトル・シスター』『大いなる眠り』『高い窓』『プレイバック』『水底の女』『フィリップ・マーロウの教える生き方』

村上春樹が愛し、翻訳したアメリカ人作家たち:まとめ

洋書

村上春樹という偉大な日本人作家に影響を与えてきた作家や名著などは数多くあるでしょう。今回紹介したアメリカ人作家たちは世界的にも評価が高く、有名どころに絞りました。どの作家の作品を読んでも間違いないと言えるでしょう。

より新しい世界に出会うため、または村上作品をより深く味わうためにも、これらの作家たちに触れてみてはいかがでしょうか。

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