村上春樹の十作目の長編小説『海辺のカフカ』に登場する本や作家を一挙に紹介します。『海辺のカフカ』は村上春樹作品でも最も世界的な評価を得ている長編の一つで、その作品中には世界文学や国内文学の名作がずらりと顔を並べます。
またとある図書館が舞台となっているように、「本」や「読書」が大きなテーマとなっています。数十もの本や作家に言及していく『海辺のカフカ』は、まさに村上春樹による読書案内、もしくはこの作品自体がある種の図書館としての役割を果たしているとも言えるでしょう。
それではどのような場面でどのような作品が言及されているのか、一つずつ解説していきたいと思います。
- 1 『海辺のカフカ』と読書の関係
- 2 『海辺のカフカ』に出てくる本【一覧】
- 2.1 1. 太陽
- 2.2 2. バートン版 千夜一夜物語
- 2.3 3. 饗宴
- 2.4 4. 聖書
- 2.5 5. 城
- 2.6 6. 審判
- 2.7 7. 変身
- 2.8 8. 流刑地にて
- 2.9 9. 夏目漱石全集
- 2.10 10. 源氏物語
- 2.11 11. ムーミン・シリーズ
- 2.12 12. 虞美人草
- 2.13 13. 坑夫
- 2.14 14. 三四郎
- 2.15 15. こころ
- 2.16 16. マクベス
- 2.17 17. 勧酒
- 2.18 18. イーリアス(イリアス)
- 2.19 19. ロミオとジュリエット
- 2.20 20. アンナ・カレーニナ
- 2.21 21. エレクトラ
- 2.22 22. うつろな人々
- 2.23 23. オイディプス王
- 2.24 24. 雨月物語
- 2.25 25. 物質と記憶
- 2.26 26. 「陸自特殊車両操作教本」
- 2.27 27. 精神現象学
- 2.28 28. アラジンと魔法のランプ
- 2.29 29. ピーナッツ
- 2.30 30. 人間不平等起源論
- 2.31 31. 三匹の子豚
- 2.32 32. ベートーヴェンとその時代
- 2.33 33. ハムレット
- 2.34 34. ヘンゼルとグレーテル
- 2.35 35. 「アドルフ・アイヒマンの裁判について書かれた本」
- 2.36 36. 「1812年のナポレオンのロシア遠征について書かれた本」
- 3 『海辺のカフカ』に出てくる作家【一覧】
- 4 その他本や作家に関連する気になる描写
- 5 『海辺のカフカ』登場本: まとめ
『海辺のカフカ』と読書の関係
村上春樹作品には多くの小説や作家の名前が登場しますが、中でもこの『海辺のカフカ』は本や読書というテーマが最も大きく物語に作用する作品の一つです。
まずタイトルからもわかるように、『海辺のカフカ』および主人公の「田村カフカ」は、あの村上春樹も愛読するフランツ・カフカが由来となっています。
「僕 (田村カフカ)」は15歳にして、かなりの読書家です。小さい頃から図書館で時間をつぶしていたという「僕」は「図書館は僕の第二の家のようなものだった」と語っています。「僕」は物語を通して小説はもちろん、歴史書、科学書、さらには民俗学や神話学、社会学、心理学の本なども読んでいる様子が伺えます。
物語の舞台として、香川県の甲村記念図書館というまさに本や読書を象徴するかのような場所が重要な役割を果たします。そこに勤める「大島さん」という方も大変な読書家で、「僕」との会話でも多くの本や作家についての言及が見られます。
図書館に関して他にも、中野区立図書館や高松市立図書館なども登場人物たちと接点を持ちます。
『海辺のカフカ』に出てくる本【一覧】
以下に『海辺のカフカ』に出てくる本を画像に一覧でまとめましたので、ざっと目を通したい方はこちらの画像をご参照ください。さらにその後は、各作品や作家の解説や登場シーンに続きますので、最後までぜひご覧ください。
1. 太陽
【『海辺のカフカ』での登場】
僕は以前、甲村記念図書館の写真を雑誌『太陽』で見たことがあり、それ以来強く心をひかれて訪れてみたいと思っていたと語ります。
2. バートン版 千夜一夜物語
【『海辺のカフカ』での登場】
僕が甲村記念図書館で最初に選んだ本が『バートン版 千夜一夜物語』でした。装丁の美しい数冊揃いの『バートン版 千夜一夜物語』から一冊を選んで閲覧室に持っていきます。中でも「道化者アブ・アル・ハサンの話」という形で具体的な章の名前も明示されています。
3. 饗宴
【『海辺のカフカ』での登場】
大島さんはカフカ少年が学校に行かずに甲村図書館にいることについて、登校拒否かと尋ねます。そして大島さん自身も社会的な問題を抱えていることを示唆するためか、人間の性別についての話をします。昔の人間は「男男と男女と女女」の三種類に区別されたというプラトンの『饗宴』に出てくるアリストパネスの説を口にします。
4. 聖書
【『海辺のカフカ』での登場】
大島さんは僕との会話の中で、神様が人間を男と女に分けた理由として、聖書のアダムとイブが受けた罰のようなものだったのかもしれないと推測します。アダムとイブの罪と罰というのは、神はアダムとイブに善悪の知識の木の実を食べることを禁じましたが、イブが蛇にそそのかされて木の実を食べ、アダムもそれに従いました。そして二人は楽園から追放されてしまいます。
5. 城
【『海辺のカフカ』での登場】
僕が大島さんに名乗る時に、その名前からカフカの小説は読んだことがあるかと聞かれて、僕は『城』『審判』『変身』を読んだことがあると答えます。
6. 審判
【『海辺のカフカ』での登場】
上記「城」の項目を参照。
7. 変身
【『海辺のカフカ』での登場】
上記「城」の項目を参照。
8. 流刑地にて
【『海辺のカフカ』での登場】
僕が読んだことのあるカフカ作品として、『城』『審判』『変身』に加え、タイトルこそ出てこないものの「不思議な処刑機械の出てくる話」と『流刑地にて』を示す内容を口にします。大島さんはそのタイトルを言い当て、「僕の好きな話だ」「カフカ以外の誰にもあんな話を書けない」と言います。僕もカフカの短編では『流刑地にて』が一番好きだと述べます。
9. 夏目漱石全集
【『海辺のカフカ』での登場】
僕は甲村記念図書館に通い、『バートン版 千夜一夜物語』を読み終え、次に選んだのが『夏目漱石の全集』でした。『海辺のカフカ』では、漱石の具体的なタイトルが次々に登場していきます。
10. 源氏物語
【『海辺のカフカ』での登場】
アメリカ陸軍情報部報告書の中で、塚本重則教授は、ナカタ少年について意識不明だということを除けば健全な状態だったと語りました。まるで身体を最低限機能させておき、本人は幽体離脱をしてどこかでべつのことをしているみたいだったといいます。その状態を『源氏物語』に出てくる「生き霊」のようだと表現しました。また僕が佐伯さんの幽霊を見たことを大島さんに話すと、それは「生き霊」と呼ばれるものだと説明されます。その際に大島さんは『源氏物語』に出てくる生き霊の話をします。
11. ムーミン・シリーズ
【『海辺のカフカ』での登場】
僕は意識を失い、気づいたら服が血だらけのになっていて、まず頼ったのがバスで出会ったさくらさんでした。そしてさくらさんの家で使われていたマグカップに描かれていたのがムーミン一家でした。
12. 虞美人草
【『海辺のカフカ』での登場】
僕は大島さんにこの図書館で何を読んでいるのか聞かれ、夏目漱石を全作品読破したいほど気に入っていると答えます。そして今読んでいるのが『虞美人草』だと教えます。
13. 坑夫
【『海辺のカフカ』での登場】
僕がこの甲村記念図書館で『虞美人草』の前に読んだ漱石作品が『坑夫』でした。夏目漱石の全作品を刊行順に読んでいることが伺えます。そして一般的には漱石作品の中では評判がよくない『坑夫』の魅力を「なにを言いたいのかわからない」部分だと話します。
14. 三四郎
【『海辺のカフカ』での登場】
僕が読んで気に入った『坑夫』の特徴を大島さんと話す際に、比較として引き合いに出されたのが、近代教養小説としての『三四郎』でした。また不完全な『坑夫』とは対照的に、完成された作品として大島さんが挙げたのが『こころ』と『三四郎』でした。
15. こころ
【『海辺のカフカ』での登場】
大島さんは、夏目漱石に関して『坑夫』のようなある種の不完全さを持った作品は人間の心を強く引きつけると考え、一方で完成された作品として『こころ』や『三四郎』を挙げています。
16. マクベス
【『海辺のカフカ』での登場】
ナカタさんの目の前でジョニー・ウォーカーは衝撃的な光景を見せます。そしてマクベスの「のたうつ波も、この手をひたせば、紅一色、緑の大海原もたちまち朱と染まろう」「ああ、おれの心のなかを、さそりが一杯はいずりまわる!」という台詞を引用します。
17. 勧酒
【『海辺のカフカ』での登場】
ジョニー・ウォーカーがナカタさんがよく知る猫を残酷な方法で手にかけていく中で、「花に嵐のたとえもあるぞ、さよならだけが人生だ」という言葉を口にします。これは唐代の詩人于武陵の詩『勧酒』を井伏鱒二が訳したものとしてよく知られています。
18. イーリアス(イリアス)
【『海辺のカフカ』での登場】
大島さんが連れて行ってくれた山奥の小屋で過ごすこと4日目に、大島さんが僕のもとへやってきます。大島さんと僕との会話の中で、僕が大島さんの発言を「不吉な予言みたい」だと言い、それに対して大島さんは「カッサンドラ」と返します。「カッサンドラ」といえばギリシア神話に登場するイーリオスの王女ですが、読書好きの大島さんは古代ギリシアの吟遊詩人であるホメロスの『イーリアス(イリアス)』の物語を参照したと思われます。
19. ロミオとジュリエット
【『海辺のカフカ』での登場】
大島さんは佐伯さんの過去について僕に教えます。佐伯さんは小学校のころから決まった恋人がいたと話し、それを「ロメオとジュリエットみたいにね」と表現しました。
20. アンナ・カレーニナ
【『海辺のカフカ』での登場】
大島さんは佐伯さんの過去について話す際、「幸福は一種類しかないが、不幸は人それぞれに千差万別だ」というトルストイの指摘を引き合いに出します。これはトルストイの『アンナ・カレーニナ』の冒頭の一文から来ていると思われます。
21. エレクトラ
【『海辺のカフカ』での登場】
甲村記念図書館に女性の立場から施設の調査を行う二人の女性がやってきます。そこで性別の話になったときに、大島さんはソフォクレスの『エレクトラ』について言及し、「素晴らしい戯曲です」と評します。
22. うつろな人々
【『海辺のカフカ』での登場】
大島さんは自らの性的マイノリティについて、さらに差別されることがどんなに辛いことかを述べた上で、それよりもうんざりさせられるのは「想像力を欠いた人々だ」と語ります。図書館を訪れたフェミニズム運動に関わるあの二人組の女性について、まさにそのような「T・Sエリオットの言う『うつろな人間たち』」にほかならないと怒りを口にします。T・S・エリオットの詩には「うつろな人々」(The Hollow Men)という作品があります。
23. オイディプス王
【『海辺のカフカ』での登場】
大島さんは僕が現在置かれている状況がソフォクレスの『オイディプス王』に見られるような美質から生じる悲劇につながりうることを示唆します。オイディプス王について「その勇敢さと正直さによってまさに彼の悲劇はもたらされる」と述べています。少年が父と対立し母(姉)に性愛のような感情を抱くという点で、『海辺のカフカ』はこの『オイディプス王』の物語がベースとなっていることは明らかで、著者も認めている点でもあります。
24. 雨月物語
【『海辺のカフカ』での登場】
僕が大島さんに生き霊について尋ねる場面で、大島さんは『雨月物語』の「菊花の約」という話を引き合いに出します。またカーネル・サンダースと星野青年との会話の中でも『雨月物語』が登場します。そのカーネル・サンダース(の姿をとった神でも仏でも人間でもない存在)が「我今仮に化をあらはして話るといへども、神にあらず仏にあらず、もと非情の物なれば人と異なる慮あり」という「貧福論」からの引用をします。
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25. 物質と記憶
【『海辺のカフカ』での登場】
カーネル・サンダースから紹介された娼婦のような女性が、星野青年に対して引用した一節が「純粋な現在とは、未来を喰っていく過去の捉えがたい進行である。実を言えば、あらゆる知覚とはすでに記憶なのだ」という『物質と記憶』からのものでした。
26. 「陸自特殊車両操作教本」
【『海辺のカフカ』での登場】
娼婦の女の子に『物質と記憶』は読んだことがあるかと聞かれた星野青年は、本なんてほとんど読まず、読んだ本といえば、自衛隊時代に『陸自特殊車両操作教本』くらいだと語ります。
27. 精神現象学
【『海辺のカフカ』での登場】
星野青年と寝た女の子は大学で哲学を専攻しており、星野青年にもっと哲学のような引用をしてくれないかと頼まれます。そこで彼女は「ヘーゲルはおすすめよね」と言いながら「自己意識」についての引用をします。「<私>は関連の内容であるのと同時に、関連することそのものでもある」という一節は、ヘーゲルの主著『精神現象学』からのものだと思われます。
28. アラジンと魔法のランプ
【『海辺のカフカ』での登場】
星野青年がナカタさんと話す場面で、「入り口の石」を開けることができたら何が起こるか想像しようとします。そして『アラジンと魔法のランプ』に出てくる精のようなものが現れるのかと口にします。
29. ピーナッツ
【『海辺のカフカ』での登場】
僕が移動中常に身にかついでいる大きなリュックをみて「それじゃまるで、チャーリー・ブラウンの漫画に出てくる男の子が肌身はなさずに持っている毛布みたいじゃないか」とあきれて言います。なぜ「スヌーピーが出てくる漫画」でも「チャールズ・シュルツの描いた漫画」でもなく、「チャーリー・ブラウンの漫画」と表現したかは不明ですが、チャーリー・ブラウンを主人公にした漫画は言うまでもなく『ピーナッツ』シリーズです。そこに出てくるいつも毛布を持っているキャラクターは、ルーシーという主要女性キャラクターの弟のライナス・ヴァンペルトを指します。
30. 人間不平等起源論
【『海辺のカフカ』での登場】
大島さんは僕に自由と不自由についての話をします。そして柵という不自由さがあったからこそ人類が文明を生み出せたというルソーの考えについて言及します。そして大島さんは「結局のところこの世界では、高くて丈夫な柵をつくる人間が有効に生き残るんだ」と結論づけます。
31. 三匹の子豚
【『海辺のカフカ』での登場】
星野青年が重くなった石を動かしたことでビールも飲みきれないほどに疲労を感じます。そしてその状態を「3匹の子豚の兄貴のほうが作った出来そこないの家になったみてえな気分だ」と表現します。
32. ベートーヴェンとその時代
【『海辺のカフカ』での登場】
ナカタさんと甲村記念図書館を訪れた星野青年が手に取ったのは、ベートーヴェンの伝記として登場する『ベートーヴェンとその時代』でした。その少し前に入った喫茶店で彼はクラシック音楽に目覚めつつありました。
33. ハムレット
【『海辺のカフカ』での登場】
星野青年に出会った大島さんは、フランスの作曲家ベルリオーズの「もしあなたが『ハムレット』を読まないまま人生を終えてしまうなら、あなたは炭坑の奥で一生を送ったようなものだ」という言葉を引用しています。またシェイクスピアの名前は、山奥の小屋で過ごしていた僕が読んでいた作家としても挙げられています。
34. ヘンゼルとグレーテル
【『海辺のカフカ』での登場】
物語の終盤に僕は森に入り、奥の方まで進むことを決意します。そこで帰り道がわかるように木々にスプレーで印をつけていきます。その際に『ヘンゼルとグレーテル』で目印にパンくずが使われたのをは違って、鳥に食べられる心配はないと考えます。
35. 「アドルフ・アイヒマンの裁判について書かれた本」
【『海辺のカフカ』での登場】
大島さんが連れて行ってくれた山奥の小屋に置かれていた本棚には数百もの本が収納されています。そこからまず僕が選んだのが「アドルフ・アイヒマンの裁判について書かれた本」でした。
36. 「1812年のナポレオンのロシア遠征について書かれた本」
「1812年のナポレオンのロシア遠征について書かれた本」という登場のしかたをする一冊ですが、『海辺のカフカ』が出版された2002年時点で読めたナポレオンのロシア遠征に関連する書籍として、例えば以下のような本が挙げられます。しかし「1812年のナポレオンのロシア遠征について書かれた本」という手がかりで一冊に特定するのは難しいのですが、あえて「1812年の」と年号を書いていることから、『1812年の雪 モスクワからの敗走』あたりがあやしいと思うのですが、どうでしょう。
・1980年に筑摩書房から出版された両角良彦著『1812年の雪 モスクワからの敗走』
・1981年に時事通信社から出版されたアルマン・ドゥ・コレンクール著『ナポレオン ロシア大遠征軍潰走の記』
・1982年に原書房から出版されたカール・フォン・クラウゼヴィッツ著『ナポレオンのモスクワ遠征』
【『海辺のカフカ』での登場】
僕は再び大島さんの案内で、念のため警察の目が届かない場所である高知の山奥にいきます。小屋で僕は「1812年のナポレオンのロシア遠征について書かれた本」を読みます。
『海辺のカフカ』に出てくる作家【一覧】
1. スティーブン・キング
【『海辺のカフカ』での登場】
僕が最初に甲村記念図書館を訪れた際に、図書館の概要を大島さんから聞きます。所蔵されている書籍は特殊な専門書が中心で、スティーブン・キングを読みに来る人はまずいないと大島さんは説明します。僕のような若い来訪者が読みそうな一般向けの作家の代表例としてスティーブン・キングを出したと思われます。
2. 若山牧水
【『海辺のカフカ』での登場】
大島さんによると、甲村家は江戸時代から酒屋を営み、先代が書籍の蒐集していたそうです。そんな甲村家を多くの文人が訪れたそうで、具体的に挙げられた作家が若山牧水、石川啄木、そして志賀直哉でした。
3. 石川啄木
【『海辺のカフカ』での登場】
上記「若山牧水」の項目を参照。
4. 志賀直哉
【『海辺のカフカ』での登場】
「若山牧水」の項目を参照。
5. アリストパネス
【『海辺のカフカ』での登場】
上記「饗宴」の項目を参照。
6. 種田山頭火
【『海辺のカフカ』での登場】
佐伯さんは始めて甲村記念図書館を訪れた人にツアーを行います。その説明によると、甲村家の当主は代々優れた鑑識眼をもって優れた書物を蒐集してきたといいます。一方で優れた作家にもかかわらず、しかるべき処遇を受けれなかった作家もおり、その代表例として種田山頭火の名前を挙げます。
7. 谷崎潤一郎
【『海辺のカフカ』での登場】
佐伯さんの説明では、僕が検分していた甲村記念図書館の洋室にある椅子には志賀直哉も谷崎潤一郎も座ったといいます。
8. ゲーテ
【『海辺のカフカ』での登場】
僕は大島さんが言う「自分をある程度その『坑夫』の主人公にかさねている」ことを否定します。しかし大島さんは「でも人間はなにかに自分を付着させて生きていくものだ」と譲りません。その際にゲーテの「世界の万物はメタファーだ」という言葉が引用されます。「世界の万物はメタファーだ」という考えは、ゲーテの代表作『ファウスト』の中の以下のような言葉からも見てとれますーAlles Vergängliche ist nur ein Gleichnis (すべての過ぎ去るものはただの象徴にすぎない)。
9. エウリピデス (ユーリピデス)
【『海辺のカフカ』での登場】
大島さんは僕に対して「ユーリピデスなりアイキュロスなりの戯曲」を読むようすすめます。「そこには我々の時代の持つ本質的な問題点がとても鮮明に描かれている」と言います。
10. アイキュロス
【『海辺のカフカ』での登場】
「エウリピデス (ユーリピデス)」の項目を参照。
11. アリストテレス
【『海辺のカフカ』での登場】
大島さんは女性運動を行う女性二人組に図書館についての問題点を指摘されます。そしてあらを探すような方法で問題点を指摘されたことに対して、大島さんはそれらがいかに的外れであるかを示すためにさまざまな「アナロジーのすりかえ」を行います。そしてアリストテレスは「アナロジーのすりかえ」を「雄弁術にとってもっとも有効な方法のひとつであると述べています」と主張します。
12. イェーツ (イェイツ)
【『海辺のカフカ』での登場】
僕は父親が殺されたという記事を読み、大島さんに父親とのことについて話します。その中で、僕は自分が父親を殺した可能性について考え、「夢の中で責任が始まる」というイェーツの詩を引用します。
13. ジークムント・フロイト
【『海辺のカフカ』での登場】
僕は奇妙な霊体験をした後で、大島さんに生き霊について尋ねます。大島さんは「怪奇なる世界というのは、つまりは我々自身の心の闇のことだ」と答えます。そしてそんな深層意識に分析の光をあてたのがフロイトやユングだと仄めかします。
14. カール・ユング
【『海辺のカフカ』での登場】
上記「ジークムント・フロイト」の項目を参照。
15. アントン・チェーホフ
【『海辺のカフカ』での登場】
カーネル・サンダースは星野青年との会話の中でチェーホフについて言及します。カーネル・サンダースが引用した「もし物語の中に拳銃が出てきたら、それは発射されなくてはならない」は、「チェーホフの銃」という原則で、星野青年が探し求めていた例の石はチェーホフのいうところの「銃」だと言っています。
16. ガルシア・ロルカ
【『海辺のカフカ』での登場】
大島さんは僕との会話の中でスペイン戦争について言及し、その時代について「ロルカが死んで、ヘミングウェイが生き残った」と言います。
17. アーネスト・ヘミングウェイ
【『海辺のカフカ』での登場】
上記「ロルカ」の項目を参照。
18. チャールズ・ディケンズ
【『海辺のカフカ』での登場】
ナカタさんたちが滞在している高松の旅館の部屋からは、隣のうらぶれたビルの裏側が見えました。三人称の視点で、そのような建物をディケンズなら「10ページくらい描写を続けることができただろう」という描写が見られます。
その他本や作家に関連する気になる描写
『グリム童話』の「かえるの王さま」
「カエルの王子がディープ・キスをする」とか「火星人のエサにされちまう」というような突飛な想像をします。この「カエルの王子がキスをする」というエピソードは、『グリム童話』の「かえるの王さま」を示唆していそうです(実際には王女がカエルにキスをするバージョンや、カエルを壁に投げつけるバージョンなどがあるそうです)。
H.G.ウェルズの『宇宙戦争』
「火星人のエサにされる」というのは、しばしば村上作品に出てくるH.G.ウェルズの『宇宙戦争』というSF小説を連想させます。
福沢諭吉の『福翁自伝』
星野青年がナカタさんに対して言う「地獄でホットケーキ」というのは、福沢諭吉の『福翁自伝』に見られる「地獄に仏」という表現を連想させます。
『世界の猫』
『世界の猫』という写真集が登場しますが、探してみたところ同タイトルの写真集がこれまで出版された形跡は見られませんでした。猫好きの村上春樹はこの類の写真集を本当に持っていそうなものですが、厳密には『世界の猫』は架空の書籍ということになります。
「家具の写真集」
ナカタさんが手に取った「家具の写真集」というのは、その情報だけでは特定が不可能でした。
『村上朝日堂 はいほー!』
ジョニー・ウォーカーが口笛で吹くのは、ディズニー映画『白雪姫』で七人の小人たちが歌う「ハイホー!」です。余談ですが、「ハイホー!」といえば、村上春樹のエッセイ集『村上朝日堂 はいほー!』を思い出しますね。
『海辺のカフカ』登場本: まとめ
上記のとおり、図書館が舞台となっていることもあって、『海辺のカフカ』には村上春樹作品の中でも最多クラスの本や作家の名前が登場します。
また主人公の田村カフカに加え、甲村記念図書館に勤める大島さんも大の読書家で、カフカや夏目漱石を含む近現代の作家から、『源氏物語』や古代ギリシアの悲劇まで網羅する古典への関心は驚くばかりです。
物語的には、霊怪異譚を集めた『雨月物語』や、心と身体を区別して考える『物質と記憶』など、霊というテーマに結びつくような書籍が重要な役割を果たしています。
また本作に登場する詩『海辺のカフカ』はもちろん創作ですが、タイトルがなにかの作品を表すことも特徴的でした。多くの読者は『海辺のカフカ』から読書の関心が広がり、さらに深い読書体験へ誘われることでしょう。
【村上春樹の長編に登場する本や作家のまとめリスト一覧】
→第2作『1973年のピンボール』に出てくる小説や作家まとめ
→第4作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に出てくる小説や作家まとめ
→第6作『ダンス・ダンス・ダンス』に出てきる小説や作家まとめ
→第10作『海辺のカフカ』に出てくる小説や作家まとめ
→第13作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』に出てくる小説や作家まとめ
以下、村上春樹関連の記事をまとめたので、興味がありましたら、ぜひご一読ください。
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