『アフターダーク』に出てくる小説や作家まとめ【登場本一覧】

『アフターダーク』登場本

村上春樹の11作目の長編小説『アフターダーク』に登場する本や作家をまとめて紹介します。

作中で多くの小説や作家の名前に言及する村上春樹ですが、『アフターダーク』では例外的に登場する本や作家の数が極端に少ないです。決定的な具体的書籍の名前は皆無です、があの有名な作家は登場します。

『アフターダーク』を読むと、本に限定せずに、音楽や映画、絵画など多様な文化に積極的に触れている印象を持ちます。しかし数少なくとも、本作の雰囲気に合った世界観を持つ作家名は登場し、作品にとって重要なスパイスになっていることも事実です。

ではいったい『アフターダーク』ではどの作家が登場するのでしょう。またその作家に関連を持つ本を挙げるとするとどの作品が該当するのでしょうか。『アフターダーク』の世界をくまなく味わい尽くしましょう。

『アフターダーク』と読書の関係

物語の冒頭からデニーズで本を読む主人公の「マリ」が描かれますが、その本にはブックカバーがかけられており、タイトルは伏せられます。これが象徴するかのように、『アフターダーク』では具体的な書籍名は一切登場しません。

どちらかといえば、本よりも音楽に関連した固有名詞が多数出てきます。「高橋」がバンド活動をしていることもあって、ローリング・ストーンズ、エリック・クラプトン、ジミ・ヘンドリックスなどの名前が登場します。

また『スター・ウォーズ』や『アルファヴィル』のような映画作品についても言及されます。『ブレードランナー』という名前こそ出てきますが、その原作となったフィリップ・K・ディックによるSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』については語られません。

『アフターダーク』に出てくる本【一覧】

アフターダーク 登場本一覧

1. 白雪姫

白雪姫

これは本を指すのか、映画など他のフォーマットを指すのかは定かではありませんが、『白雪姫』は『グリム童話』に収録されるれっきとした物語で、19世紀初頭に本として出版されています。本作では物語の内容について焦点が当てられており、本か映像作品かは論点になっていませんが、一応ここにリストアップしておきました。

【『アフターダーク』での登場】

マリは美しい容姿を持つ姉のエリについて「白雪姫みたいなお姉さん」と表現します。またマリは自分が病気ひとつしたことがない丈夫さを持っているのに対し、エリについては「感じやすい白雪姫」とも述べています

『アフターダーク』に出てくる作家【一覧】

1. ジョージ・オーウェル

ジョージ・オーウェル『1984年』

ジョージ・オーウェル『動物農場』

『アフターダーク』中に登場する唯一の決定的な作家名がジョージ・オーウェルです。村上春樹の『1Q84』のタイトルにインスパイアを与えた『1984年』という代表作を持つイギリスの作家です。また『動物農場』も有名なオーウェルの小説です。オーウェルがこれらの作品を通して、独裁政治や全体主義による支配への恐怖を描きました。この『アフターダーク』でジョージ・オーウェルの名前が登場するのは偶然ではありません。ジョージ・オーウェルの代表作『1984年』で舞台となるのは、ディストピア的な陰鬱な雰囲気が漂う近未来世界で、この『アフターダーク』の世界観と同じトーンを持ちます。『アフターダーク』で浅井エリの眠りから始まる描写風景を俯瞰するのは宙に浮いたカメラの視点で、これはまさに『1984年』の世界を支配する「ビッグ・ブラザー」もしくは監視システムとしての双方向スクリーンを連想させます。『アフターダーク』に続く長編『1Q84』はまさにこのオーウェルの小説から影響を受けたタイトルですが、作中に登場する「リトル・ピープル」は明らかに「ビッグ・ブラザー」と対をなす存在として描かれます。つまりジョージ・オーウェルは、特にこの時期の村上作品と深い関連性を持ちます。

【『アフターダーク』での登場】

デニーズで高橋が好んでチキンサラダを頼むのだと言うと、マリは外で出されるチキンは機械的に処理され、人工物を多く含むという理由で嫌悪感を示します。そのような意見に対して、高橋は「ジョージ・オーウェル風サラダ・チキン」と返します。

2. イマヌエル・カント

カント『純粋理性批判』

カント『実践理性批判』

カント『判断力批判』

イマヌエル・カントは作家というよりも、18世紀のドイツの哲学者という肩書きのほうが先にくるような偉人ですが、『純粋理性批判』、『実践理性批判』、『判断力批判』などの歴史的著作を遺していることも事実です。他の村上作品におけるカントに関しては、『1973年のピンボール』にて『純粋理性批判』が登場しました。

【『アフターダーク』での登場】

コオロギはマリに「人間ゆうのは、記憶を燃料にして生きていくもの」という持論を述べます。そしてどのような記憶かはあまり関係なく燃料になるということを、火を燃やすのに「読売新聞」も「カントの哲学書」も関係なく燃料になるという喩えを持ち出します

『アフターダーク』登場本: まとめ

まとめると、『アフターダーク』に登場する物語は『白雪姫』のみで、作家についてはイギリスのディストピア作家ジョージ・オーウェルと18世紀を代表する哲学者イマヌエル・カントに限られました。

オーウェルとカントについては具体的な書籍名には言及されませんでしたが、本記事では二人の代表的な作品を紹介しました。

『アフターダーク』の刊行順は村上春樹の長編小説としては、『海辺のカフカ』と『1Q84』という重要な作品に挟まれて位置しており、互いに影響し合ってるともいえます。この前後の二作品には数十の本や作家が登場し、『アフターダーク』との関連で読んでいくのも面白いと思います。

ぜひ以下から他作品もチェックしてみてください。

【村上春樹の長編に登場する本や作家のまとめリスト一覧】

第1作『風の歌を聴け』に出てくる小説や作家まとめ

第2作『1973年のピンボール』に出てくる小説や作家まとめ

第3作『羊をめぐる冒険』に出てくる小説や作家まとめ

第4作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に出てくる小説や作家まとめ

第5作『ノルウェイの森』に出てくる小説や作家まとめ

第6作『ダンス・ダンス・ダンス』に出てきる小説や作家まとめ

第7作『国境の南、太陽の西』に出てくる小説や作家まとめ

第8作『ねじまき鳥クロニクル』に出てくる小説や作家まとめ

第9作『スプートニクの恋人』に出てくる小説や作家まとめ

第10作『海辺のカフカ』に出てくる小説や作家まとめ

第11作『アフターダーク』に出てくる小説や作家まとめ

第12作『1Q84』に出てくる小説や作家まとめ

第13作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』に出てくる小説や作家まとめ

第14作『騎士団長殺し』に出てくる小説や作家まとめ

第15作『街とその不確かな壁』に出てくる小説や作家まとめ


以下、村上春樹関連の記事をまとめたので、興味がありましたら、ぜひご一読ください。

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