村上春樹の幻の中編小説「街と、その不確かな壁」の存在は知っているでしょうか。今では入手困難な「街と、その不確かな壁」を手軽に入手して読む方法を解説していきます。
村上春樹の第十五作目の長編小説として『街とその不確かな壁』が2023年に出版されました。タイトルからも分かるように、これは中編「街と、その不確かな壁」を習作として40年以上の時を経て書き直した作品です。ほぼ一から書き直したと言っていいほどの分量になっているので、ぜひともに読み比べをしてみましょう。
その街に行かなくてはならない。なにがあろうと――〈古い夢〉が奥まった書庫でひもとかれ、呼び覚まされるように、封印された“物語”が深く静かに動きだす。魂を揺さぶる純度100パーセントの村上ワールド。
「街と、その不確かな壁」について
「街と、その不確かな壁」は『文學界』1980年9月号に掲載された村上春樹さんの中編小説です。しかし他の多くの作品とは異なり、著者の意向等により「街と、その不確かな壁」は単行本化、文庫化はされていません。村上さんによると「うまくいかなかった作品」との評価を与えられていますが、同時に「あの中には何かがあると思った」と言うように、後に書かれる名作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に多大な影響を与えた作品でもあります。

確かに「街と、その不確かな壁」を何とか書き直そうと思ったということはあったんです。あれはうまくいかなかった作品だけれど、あの中には何かがあると思った。(出典:村上春樹「この十年」『村上春樹ブック』、1991年、46ページ)
そんな「うまくいかなかった作品」でも、村上春樹ファンなら読んでみたいと思う方も多いでしょう。一方で「街と、その不確かな壁」が掲載された『文學界』1980年9月号を手に入れようと思うと、新品で手に入れることは困難です。中古でもプレミア価格が上乗せされていたり、お金を払っても中古の雑誌の質は担保されていません。
「街と、その不確かな壁」を入手する方法
そこで最も手軽かつ確実に「街と、その不確かな壁」を入手する方法が、国立国会図書館の複写サービスです。国立国会図書館は国会に属する唯一の国立の図書館で、日本国内で出版されたすべての出版物を収集・保存しています。
もちろん雑誌のアーカイブも貯蔵されていて、読むことができるほか複写もできます。さらには現地に行かなくても遠隔複写サービスというものが提供されています。今回は「街と、その不確かな壁」を、国立国会図書館の遠隔複写サービスで依頼する方法を詳しく解説していきます。
国立国会図書館の遠隔複写サービスの利用方法
ステップ① 国立国会図書館オンラインの登録
まずは国立国会図書館オンライン(https://ndlonline.ndl.go.jp)の利用者登録をします。まずはホームページの画面右上の「ログイン」をクリックし、左下の「新規利用者登録」から登録を進めます。


必要情報を入力し、登録が完了すると登録確認のメールが届きます。あらためて国立国会図書館オンラインのホームページにて、届いた登録利用者IDとパスワードでログインしましょう。
国立国会図書館の利用者登録についての詳細はこちら。
ステップ② 複写希望箇所の申請
利用者登録ができたら、遠隔複写サービスの申請を行います。本来は複写を依頼する該当箇所を調べる必要がありますが、今回は「街と、その不確かな壁」の掲載位置が確定しているので、以下の説明に従って入力すればOKです。
まずはホームページの検索窓で「街と、その不確かな壁」と検索します。

次に検索結果から『文學界』1980年9月号を探し、タイトル名をクリックします。ここでは「文學界」34(9)というのが『文學界』1980年9月号です。

そして「文學界」34(9)のページの右下の青いボタン「遠隔複写」というボタンをクリックします(ログインをしないとこのボタンは出てきません)。

ちなみに同ページの右上のオレンジ色のボタン「デジタル」を押すと雑誌内の目次が確認でき、依頼するページ数を調べることができます。

申請ステップ③で「遠隔複写」を押すと、依頼内容の入力画面に進みます。以下のように入力してください。
記事・論文名:街と、その不確かな壁
著者名:村上春樹
巻号、ページ:文學界 1980年9月号 pp.46~99
ぼくは雑誌の雰囲気も味わいたかったので、表紙と目次もお願いしました。欲しい場合は画面下部の「表紙」と「目次」をクリックします。
最後に画面下部にある青いボタン「申込カートに追加」を押します。

次にホームページの右上にあるカートマークのボタンをクリックし、青いボタン「申込手続に進む」を押します。

いよいよ最終段階です。申込内容や、発送先住所、メールアドレスなどを確認し、必須項目である「使用目的」の「調査研究の用に供するため」にチェックをいれます。注意事項にもあるように、今回の申込目的はあくまで個人が作品を読むことを楽しむためです。
そしてその下にある青いボタン「注意事項に同意して申込内容の確認へ」をクリックします。

以上が「街と、その不確かな壁」を国立国会図書館の遠隔複写サービスで申請する方法になります。残るステップは書類の到着、利用料金の支払いのみです。
ステップ③ 到着後料金を支払い

遠隔複写サービスの概要ページには「お申込み受付から発送までに10日~2週間程度かかっております」とありますが、ぼくの場合は申請して家に届くまで7開館日ほどでした。
しっかり複写書類がビニールに梱包されていて、複写精度も小説を読むにはじゅうぶんでした。


「街と、その不確かな壁」を評しと目次を含めて遠隔複写を依頼した際の利用料金は、1,262円でした。入手困難な「街と、その不確かな壁」を丸々手に入れることを思えばリーズナブルな金額ではないでしょうか。
遠隔複写サービスの料金内訳は、
・書類:電子資料A4×30枚=720円
・発送事務手数料:200円
・消費税:92円
・送料:250円
計1,262円
到着した書類に請求書や払込取扱票が含まれています。20日以内に支払うよう記載されています。忘れないうちに早めに払っておきましょう。
支払い方法はコンビニや郵便局での支払いや銀行振込も可能です。詳しくは受け取った書類をご確認ください。
まとめ
以上が単行本化していない幻の村上春樹中編小説「街と、その不確かな壁」を国立国会図書館の遠隔複写サービスで手に入れる方法でした。
簡単にまとめると、
雑誌・『文學界』1980年9月号に掲載された「街と、その不確かな壁」の30ページ弱の複写を約1,200円で頼み、10日間弱くらいで受け取れる、という紹介でした。
あとはじっくり味わって読むだけです。村上さん自身がこの作品を今でも広く読まれることをどう思っているのかは正確にはわかりませんが、著者のこれまでの製作過程も楽しみたいという村上春樹ファンがいることも事実です。
「街と、その不確かな壁」がもとになった『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と読み比べるのも一興でしょう。
それでは楽しい読書ライフを!
▽さらに詳しい国立国会図書館の利用方法はこちら▽
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