村上春樹の九作目の長編小説『スプートニクの恋人』に登場する小説や作家をまとめて紹介します。
『スプートニクの恋人』は一冊に収まる中編小説的なボリュームにもかかわらず、村上春樹作品らしく世界的名著や文豪の名前が多数登場します。まとめてラインナップを見てみると、特に村上春樹自身の趣向が反映されているような作品群が見てとれます。
それぞれの小説や作家について、そしてそれらがどのように『スプートニクの恋人』に登場するのかについて解説していきます。
『スプートニクの恋人』と本の関係
『スプートニクの恋人』は本、とりわけ小説を主題の一つとして取り扱います。「小説はぼくにとって純粋に個人的な喜びであり、勉強や仕事とは別の場所にこっそりととっておくべきものだった」と語られています。
主要登場人物である「すみれ」は小説家を目指しており、彼女の好きな作家や小説についても言及されます。その「すみれ」と主人公の「ぼく」は「息をするのと同じくらい自然に、熱心に本を読んだ」と語られているほどの読書家です。あらゆる種類の小説を読み、有名な神田の古本屋街では一日中時間をつぶすことができたともいいます。
ぼくが旅先で出会って一夜をともにしたのも、いつも本を複数冊持ち歩いて旅行する本好きな女性です。
また新宿の紀伊国屋書店も登場します。まさに『スプートニクの恋人』は本というものと切り離せない関係にあるといえます。
『スプートニクの恋人』に出てくる本【一覧】
こちらが『スプートニクの恋人』に出てくる小説や作家の一覧です。以下、一つずつ作品についての紹介です。
1. オン・ザ・ロード
【『スプートニクの恋人』での登場】
すみれは初めてミュウに会ったときに、ジャック・ケルアックの小説の話をしたと語られています。当時のすみれはケルアックにはまっていて、『オン・ザ・ロード』と『ロンサム・トラヴェラー』を上着のポケットに入れ、暇があれば読んでいたといいます。
2. ロンサム・トラヴェラー
【『スプートニクの恋人』での登場】
すみれは『オン・ザ・ロード』とともに、暇さえあればページをめくっていた『ロンサム・トラヴェラー』の中でも、山火事監視の話に心を惹かれたといいます。その部分の一節も三行にわたって引用されています。
3. 三四郎
【『スプートニクの恋人』での登場】
ぼくが大学に入って初めての夏休みに北陸に一人旅した際に、八つ年上の本好きな女性と出会い、一夜をともにします。その経験を振り返り、「なんだか『三四郎』の冒頭の話みたいだな」と表現しました。
4. ジェーン・エア
【『スプートニクの恋人』での登場】
すみれはミュウから仕事に来ていく用に、高価な服や靴をもらって来ます。そしてその洋服を着てすみれはぼくにその経緯を話し、「『ジェーン・エア』みたいな話だ」とぼくは言います。
5. エヴゲーニイ・オネーギン
【『スプートニクの恋人』での登場】
ぼくは本が好きなのにも関わらず、文学ではなく歴史学を専攻している理由について、「小説はぼくにとって純粋に個人的な喜びであり、勉強や仕事とは別の場所にこっそりととっておくべきものだった」と語っています。本を読んでものを考えるのは好きな一方で、学者向きの人間ではなかったと結論づけ、プーキシンの『エヴゲーニイ・オネーギン』から以下のような一節を引用します。
「諸国の歴史の出来事の
うずたかい塵の山など
あさる気はなかったけれど」
6. バルザック全集
【『スプートニクの恋人』での登場】
すみれが姿を消し、ぼくはそのすみれと失われた側のミュウがいるであろう「あちら側」の世界について思い馳せます。そしてその世界にぼくの居場所はあるだろうかと自問し、すみれとミュウが愛を交わしている間、ぼくは一人で「バルザック全集でも読みながら時間をつぶしていることだろう」と想像します。
7. オデュッセイア
【『スプートニクの恋人』での登場】
ぼくは、ギリシャの島で姿を消したすみれを探すために出た旅から帰って来ます。そしてあるとき、ぼくのもとで電話のベルが鳴ります。受話器の向こうから聞こえることは、なんとすみれでした。「ねえ帰ってきたのよ」「いろいろと大変だったけど、それでもなんとか帰ってきた。ホメロスの『オデッセイ』を50字以内の短縮版にすればそうなるように」と言います。『オデュッセイア(オデッセイ)』ではオデュッセウスが長きにわたる漂泊の様子が描かれ、それは姿を消して「あちら側」を漂うすみれの存在と重なります。
『スプートニクの恋人』に出てくる作家【一覧】
1. ポール・ニザン
【『スプートニクの恋人』での登場】
ぼくとすみれが親しく話をするようになるきっかけになったのが「ポール・ニザンの小説」でした。大学近くのバス停でぼくが古本屋でみつけたポール・ニザンの小説を読んでいるところに、すみれが今どきニザンなんか読んでいる理由を知りたがったのでした。
2. スコット・フィッツジェラルド
【『スプートニクの恋人』での登場】
すみれはミュウと出会った結婚式の二週間後の日曜日の夜明け前に、ぼくに電話をかけてきます。そしてぼくはあたりがまだ真っ暗なのを認識し、「かつてスコット・フィッツジェラルドが『魂の暗闇』と呼んだ時刻に近いらしい」と推測します。
3. グルーチョ・マルクス
【『スプートニクの恋人』での登場】
すみれは、ぼくよりもミュウのことが好きで、なによりも強く彼女のことを手に入れたいのだと打ち明けます。それに対してぼくは以下のような「グルーチョ・マルクスの台詞」を紹介します。「彼女はわたしに激しく恋をしていて、おかげで前後の見境がつかなくなっている。それが彼女がわたしに恋をした理由だ!」
4. ジョゼフ・コンラッド
【『スプートニクの恋人』での登場】
ぼくはミュウから電話ですみれに何かが起きたためギリシャに来てほしいと言われます。そしてぼくは「ジョゼフ・コンラッドの小説を二冊」を荷物に入れます。成田空港からアムステルダムに向かう飛行機の上で、ぼくは集中してコンラッドを読んでいました。
『スプートニクの恋人』登場本: まとめ
『スプートニクの恋人』でも素敵な小説がたくさん言及されていることがおわかりになったと思います。
フィッツジェラルド、ケルアック、コンラッドなど村上春樹作品ではお馴染みの英米文学の作家と作品が登場しました。また当初は日本の文壇とは距離を置き、海外の小説に没頭してきた村上春樹でも、夏目漱石はお気に入りの作家だと語っています。本作でも漱石の『三四郎』が喩えとして登場しますが、村上春樹作品の英訳を務めるジェイ・ルービンも『三四郎』を英語に翻訳し、村上春樹はそこに序文を寄せています。
【村上春樹の長編に登場する本や作家のまとめリスト一覧】
→第2作『1973年のピンボール』に出てくる小説や作家まとめ
→第4作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に出てくる小説や作家まとめ
→第6作『ダンス・ダンス・ダンス』に出てきる小説や作家まとめ
→第9作『スプートニクの恋人』に出てくる小説や作家まとめ
→第13作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』に出てくる小説や作家まとめ
以下、村上春樹関連の記事をまとめたので、興味がありましたら、ぜひご一読ください。
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