村上春樹の長編第六作にして、初期三部作(鼠三部作)の続編でもある『ダンス・ダンス・ダンス』に登場する本や作家をまとめました。
相変わらず他の村上春樹の小説と同様、『ダンス・ダンス・ダンス』にも世界の名作をはじめとする多くの小説や作家名が登場します。タイトルが言及されない本などもありますが、なるべく特定できそうな本は予想してみました。
出てくる本や作家について知って、『ダンス・ダンス・ダンス』をより深く味わいましょう!
▽全作品リストと本&作家の登場回数ランキングをまとめた記事がこちらです!▽
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- 1 『ダンス・ダンス・ダンス』と本の関係
- 2 『ダンス・ダンス・ダンス』に出てくる本【一覧】
- 3 『ダンス・ダンス・ダンス』に出てくる作家【一覧】
- 4 『ダンス・ダンス・ダンス』登場本: まとめ
『ダンス・ダンス・ダンス』と本の関係
『風の歌を聴け』から『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』と続くこのシリーズですが、やはり主人公の「僕」がまず読書家です。『ダンス・ダンス・ダンス』では札幌を訪れるために、移動中などに海外文学を読むシーンが多々登場します。
僕が調べ物に訪れた「札幌でいちばん大きい図書館」や、『川崎市立図書館員の伝記』など図書館に関する記述もいくつか見られます。
また村上春樹らしく比喩の中で作家名や作品名が言及されることも少なくありません。他の村上春樹作品にも繰り返し出てくる作家や小説などもいて、それらの間に関連性があるのかどうかを考えるのも一興でしょう。
では具体的に『ダンス・ダンス・ダンス』にはどのような本や作家が登場するのか、見ていきましょう!
『ダンス・ダンス・ダンス』に出てくる本【一覧】
それでは具体的に、『ダンス・ダンス・ダンス』に登場する本や作家について、それぞれ詳しくみていきましょう。
1. ジャック・ロンドンの伝記
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕は『羊をめぐる冒険』に続いているかホテルを再び訪れるべく札幌へ向かいます。その際函館駅近くの書店で買った「ジャック・ロンドンの伝記」を列車の中で読みます。
▽絶版ですが、日本語訳もあります。▽
▽日本語でジャック・ロンドンを知るなら白水Uブックスの『マーティン・イーデン』がおすすめです。『ジャック・ロンドン自伝的物語』はすでに絶版で買おうと思うと定価より少し高いかもしれません。▽
2. ガリバー旅行記
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕は札幌にてあてもなく時間を潰します。適当な店でランチを食べた後、雪が降り出しそうなぴくりとも動かない雲を見て、「『ガリバー旅行記』に出てくる空に浮かぶ国」に喩えます。
3. 響きと怒り
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕がユキを連れて東京に帰ろうとする空港では、悪天候のため遅延したフライトを待ちます。その間、僕はフォークナーの『響きと怒り』の文庫本を読みます。また僕はフォークナーとフィリップ・K・ディックの小説について「神経がある種のくたびれかたをしているときに読むと、とても上手く理解できる」と語っています。
4. クリスマス・キャロル
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
ユミヨシさんが僕をユキに紹介するときに、「大丈夫。悪いひとじゃないから」と言います。そしてユキの「まあ仕方ない」というような様子なのを見て、僕はひどいことをしている気になり、「なんだかスクルージ爺さんになったような気分」になります。しかし後にレンタカーで音楽を聴きながらドライブして少し仲良くなると、「僕もまだ捨てたものではない。僕はスクルージ爺さんではないのだ」と思います。
5. 荒地
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕はキキと五反田君が出演する映画「片想い」を繰り返し見て三月が過ぎ去っていく。そして「エリオットの詩とカウント・ベイシーの演奏で有名な四月がやってきた」と語る。
6. 87分署シリーズ
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
トルーマン・カポーティの美しい文章に喩えた四月の初め、僕は台所でコーヒーを飲みながらエド・マクベインの「87分署」シリーズの新刊を読みます。「もう十年くらい前からそんなもの読むのはやめようと思っているのだが、新刊が出るとつい買ってしまう」と語っています。僕は「87分署」シリーズをあまり格式のある作品だとは思ってないようですが、その面白さは評価しているのがわかります。
7. BRUTUS (ブルータス)
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕は取り調べ室で「漁師」に煙草をすすめられ、断ります。その警察とは一線を画すかように「先端的都市生活者は煙草を吸わないと『ブルータス』に書いてあった」「彼らは『ブルータス』なんか読まないのだ」と内心で語ります。
8. 世界
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
取り調べ中に一筋縄ではいかない僕に対して、「漁師」は「ものの見方がひねくれているんだね。警察が嫌いなんだ。朝日新聞をとって『世界』を読んでいるんだ」と決めつけます。僕は新聞もとっていないし、『世界』も読んでいないと答えます。
9. 審判
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
キキとコンビを組んでいたメイが殺された件で、刑事の漁師と文学から取り調べを受けた際に、前の晩に読んでいたカフカの『審判』の詳細を説明しています。無意味なことを理不尽にやらされている僕は、まるでカフカの小説のようだと考えます(『審判』の中では、主人公のKは何の罪かも言われぬままやっかいな訴訟に巻き込まれていきます)。また僕はカフカの小説は二十一世紀まで生き残れるかどうか心配しています(2024年に没後100年を迎えたカフカの存在感は今なお衰えることはありません)。
▽『訴訟』はもちろんカフカの代表作『変身』なども含む「ポケットマスターピース」シリーズもおすすめです。▽
10. プレイボーイ
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕はハワイでジェーンと寝て、そのことでユキに失望されます。その午後に近所のスーパーマーケットで買った『プレイボーイ』を読みながら日光浴をします。
11. 王様の耳はロバの耳
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
五反田君は僕を相手に、世の中の気に入らない人間の愚痴を言います。そして「ずいぶんすっきりした」と言う五反田君に対し、僕は「『王様の耳はロバの耳』みたいだ。穴を掘って怒鳴るんだ。口に出しちゃえばすっとする」と答えます。
12. 「シャーロック・ホームズ」シリーズ
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕は身の回りで起きているさまざまな出来事を整理するために、人間関係を図に書き出します。それを見つめながら、「アガサ・クリスティの小説みたい」と表現しつつ、「これはむずかしいぜ、ワトソン君」とコナン・ドイルの『シャーロック・ホームズシリーズ』でお馴染みのホームズの真似をつぶやきます。
13. 不思議の国のアリス
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕はユキを箱根に送り届けた際、彼女の母親アメに食事に誘われます。しかし彼女たち二人と食事をすることに耐えられず毎回断ります。「『不思議の国のアリス』に出てきる気違い帽子屋のお茶会の方がずっとましだった」とその嫌悪感の高さが表されます。
14. 鏡の国のアリス
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕はユキを迎えていく道中、運転しながら林間学校での昼寝の時間を思い出します。僕は寝ることができず、一時間ずっと天井を見ていて、「『鏡の国のアリス』のように価値の転換した上下の世界」を連想したと振り返ります。
その他特定が難しい本など
15.「川崎市立図書館員の伝記」
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕がジャック・ロンドンの伝記を読む場面があります。ジャック・ロンドンといえば、壮絶な体験をもとに執筆をする作家として知られていますが、そんな作家の伝記とは対照的に、平和な生涯を過ごした人の伝記など誰も読まない、という文脈で「川崎市立図書館員の伝記」が言及されます。
16. 「スペイン戦争についての本」
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
すっかり変わり果ててしまったいるかホテルにて、僕は「ジャック・ロンドンの伝記」を読み終えて、次に「スペイン戦争についての本」に取りかかります。
17.「佐藤春夫の短編」
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕はハワイから東京に戻り、五反田君と会う約束をし、ユキの父である牧村拓への請求書類を整理します。その後ビールとつまみをたしなみながら、「佐藤春夫の短編」を久し振りにゆっくり読みかえします。
『ダンス・ダンス・ダンス』に出てくる作家【一覧】
1. ジャック・ケルアック
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕は赤の他人である十三歳の少女ユキを東京に連れて帰るように頼まれます。そのときにユキが着ていたトレーナーには「TALKING HEADS」と書かれており、そのバンド名について「ケラワックの小説の一節みたいな名前だ」と考えます。それが具体的にどの作品を指すのかはわかりませんが、「TALKING HEADS」という名前が持つ文学的な響きや、ケルアックの作品に見られる特徴的なリズムと言語の使い方、ビート世代の影響を連想させるためかもしれません。ケルアックはアメリカのビートジェネレーションの代表的な作家であり、彼の自由形式の散文は非常にリズミカルで即興的なスタイルを持っています。
2. フィリップ・K・ディック
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
ウィリアム・フォークナーと並べて、僕はフィリップ・K・ディックの小説は「神経がある種のくたびれかたをしているときに読むと、とても上手く理解できる」と語っています。陰鬱としたディストピア世界が舞台のディックの小説ならではでしょう。
3. トルーマン・カポーティ
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕は四月初頭の日々の時の流れを「トルーマン・カポーティの文章のように繊細で、うつろいやすく、傷つきやすく、そして美しい四月のはじめの日々」と表現します。
4. 三島由紀夫
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕が初めて「文学」を見たときに抱いた印象が、一昔前の文学青年のようで「やはり三島だよ」と言ったりしそうな雰囲気を持っているというものでした。
5. サマセット・モーム
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕はユキと一緒に彼女の母アメに会うためにハワイに行きます。そこでアメとそのボーイフレンド的存在であるディック・ノースに通されたリビングを見て、僕は「何となくサマセット・モームの小説に出てきそうな部屋だった」という感想を抱きます。
6. ロバート・フロスト
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕はハワイで何度かユキをアメのもとへ連れていき、彼女たちは親子で過ごす一方で、僕は片腕の詩人ディック・ノースを散歩したり泳いだりして過ごしました。そして一度ディック・ノースがロバート・フロストの詩を朗読するのを聞いたと振り返ります。
7. アガサ・クリスティ
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
僕は周囲でさまざまな出来事が起こる中で、キキやメイ、ユキとその両親、五反田君、羊男などあらゆる人物の相関図を書いて状況を整理しようとします。僕はそんなまともとは思えない交遊関係を見て、「アガサ・クリスティの小説みたいだった」と内心でつぶやきます。「わかった、執事が犯人だ」と実際に口にも出してみます。
8. カール・ユング
【『ダンス・ダンス・ダンス』での登場】
物語の終盤、僕は五反田君とシェーキーズに行きビールとピッツァを口にします。五反田君は三日前からピッツァが食べたくて夢にまで見たと話します。オーブンの中で焼けているピッツァをただじっと見ているだけの夢を見て、ユングだったらどう解釈するだろうと言います。
『ダンス・ダンス・ダンス』登場本: まとめ
『ダンス・ダンス・ダンス』でもたくさんの小説や作家の名前が登場しました。「僕」は洋書を読んでいるのではと思わされる場面もありましたね。「僕」が実際に読んでいたフォークナーの『響きと怒り』やカフカの『審判』あたりの世界的名作は読んでおいて損はないでしょう。『ダンス・ダンス・ダンス』をより深く味わうためのヒントも隠されているかもしれません。ぜひ一読してみてはいかがでしょうか。
【村上春樹の長編に登場する本や作家のまとめリスト一覧】
→第2作『1973年のピンボール』に出てくる小説や作家まとめ
→第4作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に出てくる小説や作家まとめ
→第6作『ダンス・ダンス・ダンス』に出てきる小説や作家まとめ
以下、村上春樹関連の記事をまとめたので、興味がありましたら、ぜひご一読ください。
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