【登場本一覧】『ノルウェイの森』に出てくる小説や作家まとめ

ノルウェイの森 登場本

村上春樹作品で最も売れた小説『ノルウェイの森』にはたくさんの小説や作家の名前が出てきますが、それらを一挙にまとめて紹介します

『ノルウェイの森』は村上春樹の五作目の長編小説です。他の村上作品にも多数の書物への言及がありますが、このリアリズム文体で書かれた『ノルウェイの森』には特に多くの本が登場します。村上春樹の小説の中でこれだけ多くの(といっても4人程度ですが)日本の近現代の作家名が出てくる作品も珍しいでしょう。

その中のいくつかの背景知識を持っておけば、『ノルウェイの森』の物語をさらに深く味わうためのヒントになるかもしれません。具体的なタイトルが明示されない場合でも、与えられた情報を基にできる限り特定しようと試みました。

それでは『ノルウェイの森』に登場する本や作家の一覧と、各作品の解説をお楽しみください。

『ノルウェイの森』と本の関係

村上春樹にとっては珍しい100%のリアリズム文体で書かれたこの『ノルウェイの森』には、たくさんの本や作家名が登場しますが、そのどれもが実在するものです。

主人公の「僕(ワタナベ)」はたくさんの本を読むのではなく、気に入った本を何度も読み返すタイプの読書家ですし、先輩の「永沢さん」も古典的名著を愛する人物です。「永沢さん」は、死語三十年を経ていない作家の本は信用できないと言います。また緑」は書店を経営する一家の娘で、当然本の話に発展することもあります。

また僕は会話の中で突飛と思える比喩を持ち出すことがありますが、実はそれは古典的な和歌や物語からの引用であることも少なくありません。意識していないと読み飛ばしてしまうかもしれません。

時代背景も関係しているでしょうが、このように読書好きな登場人物が多数出てくるのも『ノルウェイの森』の特徴です。

『ノルウェイの森』に出てくる本【一覧】

『ノルウェイの森』登場本一覧

それではここから『ノルウェイの森』に出てきた本を具体的なタイトルや登場シーンとともに見ていきましょう。

1. エレクトラ

エレクトラ

『エレクトラ』は古代ギリシャの詩人エウリピデスのギリシア悲劇の一つです。エウリピデスはアテナイのアイスキュロス、ソポクレスとともに三大悲劇詩人として知られています。ちくま文庫の『ギリシア悲劇 IV エウリピデス 下』にエレクトラが収録されています。

【『ノルウェイの森』での登場】

僕がとっている『演劇史II』の講義はエウリピデスについてのものです。大学近くの小さなレストランで初めて緑に話しかけられたときに、僕は彼女とどこで会ったのか思い出せず、緑が「エウリピデス」と返答します。そして「エレクトラ」という劇名と「いいえ、神様だって不幸なものの言うことには耳を貸そうとはなさらないのです」という引用をします

2. ケンタウロス

ケンタウロス

『ケンタウロス』はギリシア神話を下敷きにしたジョン・アップダイクの自伝的小説で、作家の父親をモデルにした高校教師と芸術家を目指すその息子の物語です。ジョン・アップダイクは『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』などにも登場する作家で、ピューリッツァー賞、全米図書賞、全米批評家協会賞という全米三大文学賞を全て受賞しました。

【『ノルウェイの森』での登場】

僕が十九歳の当時に好きだった作家としてジョン・アップダイクが挙げられており、さらに、十八歳の彼にとって最高の書物だったのがアップダイクの『ケンタウロス』だったと述べています。しかしその後読み返す中で、そのベストの座はフィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』に明け渡すことになったとも語られています。

3. グレート・ギャツビー

グレート・ギャツビー

F・スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』はロストジェネレーションを代表するだけでなく、歴代のアメリカ文学を代表するほどの小説です。20世紀に英語で出版された小説の中からモダン・ライブラリーが選ぶ「100 Best Novels」の第二位にランクインしていることが有名です。『華麗なるギャツビー』『偉大なギャツビー』などの邦訳でも知られ、映画化もするなど話題が尽きない作品です。2006年には村上春樹自身の手による翻訳が出版されています。

【『ノルウェイの森』での登場】

僕が十九歳の当時に好きだった作家としてスコット・フィッツジェラルドが挙げられており、さらに彼の最高の書物だったとされるアップダイクの『ケンタウロス』に変わって、その後ずっと最高の小説であり続けたのがフィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』だと語られています。本作のわずか3ページに9回もタイトルが繰り返されることからも分かる通り、村上春樹にとっても特別な作品なことは言うまでもないでしょう。

4. ロード・ジム

ロード・ジム

『ロード・ジム』は1899年から1900年にかけて発表されたイギリスの小説家による代表的な小説です。現在のメジャーな日本語訳としては2021年に河出文庫から出版された柴田元幸訳が挙げられます。コンラッドは村上作品でも複数登場しますが、『ロード・ジム』自体も前作「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」で登場しました。

【『ノルウェイの森』での登場】

僕が緑と出会ってすぐにまた会う約束をしますが、当日に緑は現れません。そんな中で彼が読み切ってしまった作品が永沢さんに借りたのコンラッド『ロード・ジム』でした。コンラッドはバルザックやディケンズとともに、永沢さんの好きな作家として挙げられていた作家でもあります。

5. 戦争と平和

戦争と平和

『戦争と平和』は、『アンナ・カレーニナ』などと並んでロシアの巨匠レフ・トルストイの代表的な長編小説の一つです。トルストイは村上作品にはよく出てしますが、『戦争と平和』自体もデビュー作『風の歌を聴け』に登場しました。名作だけに岩波文庫、新潮文庫、光文社古典新訳文庫など楽しめる翻訳の選択肢は豊富です。

【『ノルウェイの森』での登場】

緑が実家の「小林書店」についてやや自虐的に説明するときに、「『戦争と平和』もないし、『性的人間』もないし、『ライ麦畑』もないの」と僕に言います。立派な書店には当然あるべきものがないというニュアンスで言っていることから、それらが読むに値する本だとみなしていることがわかります。

6. 性的人間

性的人間

『性的人間』は1963年に出版された大江健三郎の中編小説です。より多くの人に普及する文庫版が発売されたのが1968年なので、『ノルウェイの森』での登場とはほぼ同時期の作品とも言えるでしょう。英語でのタイトルは主人公の名前をとって『J』となっているのも印象的です。

【『ノルウェイの森』での登場】

上記「5. 戦争と平和」の項目を参照。大江健三郎という作家名については、他の箇所でも僕は読まないけど周りの人間は読んでいたという文脈で言及されています

7. ライ麦畑でつかまえて

ライ麦畑でつかまえて

高校を転々とする17歳の少年ホールデン・コールフィールド真冬にニューヨークをあてもなくさまよう物語です。1964年に野崎孝が『ライ麦畑でつかまえて』というタイトルで訳し、それを参照して本作でも「ライ麦畑」と呼ばれています。ただし、2003年に満を持して村上春樹自身が『キャッチャー・イン・ザ・ライ』というタイトルで翻訳を出しました。この村上春樹訳は、最近でいうと新海誠の映画作品に登場するなど脚光を浴び続けています。

【『ノルウェイの森』での登場】

上記「5. 戦争と平和」の項目を参照。「ライ麦畑」という略称で言及されています。

8. 魔の山

魔の山

『魔の山』は20世紀前半のドイツを代表する小説家トーマス・マンの長編小説です。この作品が大きな要因となって、1929年にノーベル文学賞も受賞しています。マンの妻カタリーナは肺の病気を患い森の中のサナトリウム(療養所)で過ごしていたそうですが、そんな経験もこの『魔の山』には反映されていると言われています。まさに直子が京都の療養所に入っていた状況と重なります。日本語訳では新潮文庫と岩波文庫のものがあり、どちらも上下巻構成です。

【『ノルウェイの森』での登場】

僕は永沢さんと珍しく女の子を捕まえられなかった夜、始発の電車を待つために喫茶店に入ってトーマス・マンの『魔の山』を読みます。そこに二人の女の子が相席するわけですが、彼の中で『魔の山』を読むことは、きちんとした身なりをしていたりしっかり髭を剃っていることと並列に扱われています。また直子の療養所を訪れた際にも、この本を持って行って読んでします。前述の通り、『魔の山』を執筆したマンの背景と、療養所に入っている直子を気にかける僕の姿は重なり合います

9. 千夜一夜物語

千夜一夜物語

『千夜一夜物語』はイスラム世界の説話をまとめたペルシャの時代の物語集です。『ノルウェイの森』ではこの書物名が明言されるわけではありませんが、会話に出てくる「シエラザード」とは『千夜一夜物語』の語り手なのです。また村上春樹は2014年に「シェエラザード」というタイトルの短編小説を発表し、その一部はアカデミー賞にも輝いた映画『ドライブ・マイ・カー』にも取り入れられた。

【『ノルウェイの森』での登場】

レイコさんが自分の過去を僕に打ち明ける際に、その話が長いために一回では話しきれません。そして気になるところで打ち切られた話の続きは翌日にしてあげると言われた僕は、「まるでシエラザードですね」と返します。長い話を女性が語るという点で『千夜一夜物語』の語り手である王妃シェエラザードの名前を出したと考えられます。

10. 資本論

資本論

1867年から刊行されたドイツの社会主義者カール・マルクスの経済学書です。『ノルウェイの森』の設定である1968-1969年はまさに全共闘運動の真っ最中で、この『資本論』をはじめとするマルクスの思想は、学生たちが政治的変革を求める左翼運動に大きな影響を与えました。彼らはこの本から資本主義がいかに労働者の労働力を商品として扱い、資本家が労働者から剰余価値を搾取するシステムであるかを学びました。また『羊をめぐる冒険』ではマルクスの『ドイツ・イデオロギー』も主人公が読んだ一冊として挙げられていました。『資本論』には戦前からとても多くの日本語訳が存在し、岩波文庫(全9巻)や角川選書(全8巻)あたりが今読まれていますが、2024年からちくま学芸文庫からも『マルクス・コレクション』版を全面改訳して出版されています。

【『ノルウェイの森』での登場】

緑は大学入学当初に入ったクラブでマルクスの『資本論』を読まされて、よく理解できなかったと言います。そして僕に読んだことがあるか、理解できたかと尋ね、全部は読んでないけど大抵に人と同じように読み、理解できるところもあったりできないところもあったと答えています。

▽『資本論』を比較的短時間で解説してくれるのが「NHK100分de名著」シリーズです!▽

▽まんがでまず全体像をつかむのもありです!▽

11. 八月の光

八月の光

『八月の光』は1932年に発表された20世紀のアメリカの小説家ウィリアム・フォークナーによる長編小説です。ミシシッピ州の架空の土地「ヨクナパトーファ郡」を舞台にしたフォークナーの長編シリーズの第五作目にあたります。日本語訳は新しいものだと2016年の岩波文庫(上下巻)や2018年の光文社古典新訳文庫などで読めます。

【『ノルウェイの森』での登場】

亡くなった緑の父親のこと考えていた日曜日に、僕は新宿の混み合った紀伊國屋書店でフォークナーの『八月の光』を買い、ジャズ喫茶でコーヒーを飲みながら読みますこのとき僕が買ったと思われるのは、1967年に出版された新潮文庫版でしょう(「フォークナー全集」もしくは「世界文学全集」からの単巻という可能性もありますが、気軽に持ち運べる文庫だと思います)。

12. 金槐和歌集

金槐和歌集

『金槐和歌集』鎌倉時代に編まれた源実朝の家集です。『ノルウェイの森』にて、この和歌集の名前が出てくるわけではありませんが、僕の緑に対する言葉が、『金槐和歌集』の掉尾の歌の引用と思われます。

【『ノルウェイの森』での登場】

僕は緑に「すごく可愛い」と言い、「すごくってどれくらい?」と聞かれると、「山が崩れて海が干上がるくらい可愛い」という一風変わった比喩を持ち出します。これは『金槐和歌集』掉尾の「山はさけ 海はあせなむ 世なりとも 君にふた心 わがあらめやも」からの引用だと思われます。

13. 車輪の下

車輪の下

『車輪の下』はドイツ生まれスイス育ちの作家ヘルマン・カール・ヘッセの代表作の一つで、自伝的な側面も持つ。『ガラス玉演戯』などの小説が評価され1946年にノーベル文学賞も受賞するが、小説だけでなく詩人としても知られる。

【『ノルウェイの森』での登場】

僕は緑の家を訪れ、緑が寝てしまったあとに、小林書店の在庫の中で読みたい本を探す。「その大半は既に読んだことのあるもの」と言いつつ、選んだのは「背表紙の変色したヘルマン・ヘッセの『車輪の下』」でした。もはや機能してないこの書店に、しっかりその分のお金を置いていくのは村上春樹の主人公らしいですね。彼が『車輪の下』を初めて読んだのは中学校に入った年で、「いささか古臭いところがあるにせよ、悪くない小説だった」と語っている

14. ちびくろサンボ

ちびくろサンボ

『ちびくろサンボ』はスコットランドの児童文学作家ヘレン・バンナーマンの絵本童話で、1899年の出版以来世界的に広く読まれている作品です。ちなみに村上春樹も代表作『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を翻訳したサリンジャーの有名な短編小説「バナナフィッシュにうってつけの日」でも、『ちびくろサンボ』の虎の話が出てきます。

【『ノルウェイの森』での登場】

物語の後半に僕に不信感を抱いた緑は、どれくらい自分のことが好きか僕に問います。そして僕は「世界中のジャングルの虎がみんな溶けてバターになってしまうくらい好きだ」とまたしても奇妙な比喩を使います。『ちびくろサンボ』の有名なシーンとして、虎が木の周りを走り回ってバターになってしまう場面があります。

『ノルウェイの森』に出てくる作家【一覧】

次に『ノルウェイの森』にて、タイトルこそ明記されていないものの、言及されている作家をリストアップしました。それぞれの代表作などとともに、一人ずつ確認していきます。

1. ジャン・ラシーヌ

ジャン・バティスト・ラシーヌは17世紀のフランスの劇作家です。日本語では1950年前後から『フェードル』『ブリタニキュス』『アンドロマク』などの作品から翻訳されてきました。村上作品でしばしば登場するスタンダールが『ラシーヌとシェイクスピア』という著作を遺していたりしますね。

【『ノルウェイの森』での登場】

僕はルームメイトの突撃隊に自分の専攻の話をする際に、演劇の研究について説明します。ラシーヌとかイヨネスコとかシェイクスピアの戯曲を読むのだと。しかし僕が熱心に関心を持っているかというとそういうわけでもなさそうで、講義要項にそう書いてあっただけだと弁明しています。

2. ウジェーヌ・イヨネスコ

ウジェーヌ・イヨネスコは20世紀に活躍したルーマニアの劇作家ですが、主な活動拠点はフランスでした。不条理演劇の代表的な作家として知られています。興味がある方は、白水社から出ている『ベスト・オブ・イヨネスコ 授業/犀』がおすすめです。

【『ノルウェイの森』での登場】

上記「1. ジャン・ラシーヌ」の項目を参照。

3. ウィリアム・シェイクスピア

ウィリアム・シェイクスピアは誰もが知るイギリスの劇作家で、『ハムレット』『リア王』『ロミオとジュリエット』『ヴェニスの商人』など多数の有名な作品を遺しています。戯曲を学ぶ上でシェイクスピアは避けて通れないと言えます。

【『ノルウェイの森』での登場】

上記「1. ジャン・ラシーヌ」の項目を参照。

4. ポール・クローデル

ポール・クローデルは、駐日フランス大使を務めるなど日本とも縁があったフランスの劇作家です。今読めるクローデルの主要どころの本は、岩波文庫から出ている『繻子の靴』や駐日大使時代に本国に送った外交書簡集『孤独な帝国 日本の一九二〇年代』あたりでしょうか。

【『ノルウェイの森』での登場】

大学の授業、僕が十八から十九になったと語られている部分で、日曜日は直子とデートする一方で大学の授業では、クローデルやラシーヌ、エイゼンシュテインを読んでいたと語られています。しかし「それらの本は僕に殆んど何も訴えかけてこなかった」と評しています。

5. セルゲイ・エイゼンシュテイン

セルゲイ・エイゼンシュテインは20世紀前半に活躍したソ連の映画監督です。十月革命を題材にした『十月』やロシアの基礎を築いたイヴァン4世を描いた『イワン雷帝』などの映画、および『映画の弁証法』などの著作で知られています。

【『ノルウェイの森』での登場】

上記「4. ポール・クローデル」の項目を参照。

6. トルーマン・カポーティ

トルーマン・カポーティは村上春樹自身も愛読してきたと語るアメリカの天才的な小説家です。初めて読んだ時からその文体の美しさに魅せられたそうです。『ティファニーで朝食を』や『遠い声、遠い部屋』は村上春樹によって翻訳されています。実際に起きた一家殺人事件を題材に加害者にもインタビューをすることによって完成させたノンフィクション『冷血』も有名です。村上春樹が地下鉄サリン事件の関係者に取材をした『アンダーグラウンド』『約束された場所で』とも重なります。

【『ノルウェイの森』での登場】

僕が十九歳の当時に好きだった作家として挙げられている一人

7. レイモンド・チャンドラー

レイモンド・チャンドラーは村上春樹が愛するアメリカの探偵小説家で、1939年の『大いなる眠り』にデビューして以来、ハードボイルド探偵フィリップ・マーロウシリーズ全七作で知られています。その全七作は村上春樹によって翻訳されています。特に傑作とされるのが『さよなら、愛しい人(さらば愛しき女よ)』や『ロング・グッドバイ(長いお別れ)』です。

【『ノルウェイの森』での登場】

僕が十九歳の当時に好きだった作家として挙げられている一人

8. 高橋和巳

高橋和巳は1962年に『悲の器』でデビューした作家で、まさに村上春樹が肌で感じてきた全共闘世代の間で多くの読者を得た小説家です。中国文学者という顔も持ちますが、1969年の大学闘争の際にはその運動を支持して助教授の職を辞しています。

【『ノルウェイの森』での登場】

僕が愛読する作家を挙げる一方で、自分とは合わない周りが読んでいた作家として挙げられるのが、高橋和巳、大江健三郎、三島由紀夫そして「現代のフランス作家」です。

9. 大江健三郎

大江健三郎は、現代日本文学を語る上で欠かせない存在です。二作目の『1973年のピンボール』のタイトルは大江健三郎の『万延元年のフットボール』のもじりだと村上春樹自身も認めています。『羊をめぐる冒険』でもその名は登場し、やはり主人公が大学時代に出会った女の子が読んでいたのが大江健三郎でした。

【『ノルウェイの森』での登場】

上記「9. 高橋和巳」の項目を参照。また別のシーンで緑が大江健三郎の『性的人間』に言及する箇所もあります。

10. 三島由紀夫

三島由紀夫は戦後の日本文学を象徴する小説家の一人で、代表作には『潮騒』『金閣寺』『豊饒の海』などがあります。45歳の1970年に自衛隊のクーデターを促す演説をした後に割腹自決したことで有名です。『羊をめぐる冒険』では三島由紀夫が自決したまさにその日に、主人公がテレビでその様子を見ていました。

【『ノルウェイの森』での登場】

上記「9. 高橋和巳」の項目を参照。

11. オノレ・ド・バルザック

オノレ・ド・バルザックはフランス文学を代表する19世紀の作家です。『ゴリオ爺さん』や『谷間の百合』などで知られる「人間喜劇」はバルザックの作品群全体を指す名前です。この「人間喜劇」にも含まれる『農民』は村上春樹の他作品『1973年のピンボール』や『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』でも登場します。

【『ノルウェイの森』での登場】

「死後三十年を経ていない作家の本を原則として手にとろうとしなかった」永沢さんが好きな作家として挙げたのが、バルザック、ダンテ、コンラッド、ディケンズでした

12. ダンテ・アリギエーリ

ダンテ・アリギエーリは、13-14世紀にかけてのイタリアの哲学者であり詩人。中でもダンテの『神曲』はイタリア文学最大の古典として知られている。

【『ノルウェイの森』での登場】

上記「12. オノレ・ド・バルザック」の項目を参照。

13. チャールズ・ディケンズ

チャールズ・ディケンズは村上春樹作品では度々言及されるイギリス文学を代表する作家です。19世紀の作家で、『オリバー・ツイスト』『クリスマス・キャロル』あたりが広く知られている名前ですが、『デイヴィッド・コパフィールド』『二都物語』『大いなる遺産』など名作を多く遺しています。

【『ノルウェイの森』での登場】

永沢さんが好きな作家とし挙げられている作家の一人です。さらに、永沢さんが僕との会話の中で「十年だか二十年だか経ってからまたどこかで出会いそうな気がするんだ」と言い、僕が「まるでディッケンズの小説みたいな話ですね」と返します。具体的なタイトルは明言されませんが、長い時間を経ての再会というテーマについては、『二都物語』や『大いなる遺産』あたりの小説を指していそうです。

14. 太宰治

太宰治は言わずと知れた20世紀前半を代表する文豪の一人で、教科書などにも取り上げられる作家です。『走れメロス』『人間失格』など有名な作品を多数生み出しました。

【『ノルウェイの森』での登場】

直子が僕に黙って引っ越していることが判明し、彼は心の空洞を埋めるかのように、永沢さんと町に出て女の子と寝るようになります。その中の一人が僕についてあらゆることを知りたがり、浴びせた質問の一つが太宰治の小説を読んだことがあるか、というものでした

15. テネシー・ウィリアムズ

テネシー・ウィリアムズはアメリカ南部で活動した20世紀の劇作家で、村上作品ではしばしばその名前が見られます。テネシー・ウィリアムズに関しては、他にも『風の歌を聴け』では戯曲『熱いトタン屋根の猫』が登場し、次作『1973年のピンボール』でも作家名と引用文が出てきます。

【『ノルウェイの森』での登場】

会っているときも上の空だったことに腹を立てている緑を見かけたのが、戯曲の講義でした。その内容は「テネシー・ウィリアムズの戯曲についての総論・そのアメリカ文学における位置」というものでした。

16. ジョルジュ・バタイユ

ジョルジュ・バタイユは20世紀のフランスの哲学者であり作家です。ミシェル・フーコーやジャック・デリダなどに影響を及ぼしました。著作としては『眼球譚』や『内的体験』が知られてますか、本作では具体的な書物のタイトルは言及されません。

【『ノルウェイの森』での登場】

僕は孤独な時期にあるバイト先のレストラン同じ年の伊東と出会います。美大生の伊東はフランスの小説が好きで、中でもジョルジュ・バタイユとボリス・ヴィアンを好んで読むと語られている

17. ボリス・ヴィアン

ボリス・ヴィアンは20世紀中盤に活躍したフランスの作家兼詩人です。小説では『日々の泡』や『北京の秋』などで知られ、心臓に問題を抱えていたヴィアンは39歳という若さで亡くなりました。

【『ノルウェイの森』での登場】

ボリス・ヴィアンはジョルジュ・バタイユとともに伊東の好きな作家として登場します。さらに僕は伊東からボリス・ヴィアンを何冊か借りて読んでいます

その他の本や作家

その他にも、僕の周りの学生が読んでいた本として高橋和巳や大江健三郎、三島由紀夫らとともに、「現代のフランス作家」とだけ言及されていました。具体的な作家名は述べられません。19世紀以前でいうと、村上作品には頻出のバルザックやフローベール、スタンダールなどがいますが、当時の現代フランス作家というと、プルースト、カミュ、サルトルあたりでしょうか

『ノルウェイの森』登場本: まとめ

『ノルウェイの森』に登場する小説

以上が『ノルウェイの森』に登場する本と作家の一覧でした。中でも物語と密接に関わり合うかのような背景を持つとトーマス・マンの小説『魔の山』あたりを読むとさらに面白く『ノルウェイの森』が読めるでしょう。また、ジョン・アップダイクや、フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』やサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』など、村上春樹自身も特に愛読してきたアメリカの小説が一堂に会している点にも注目です。

【村上春樹の長編に登場する本や作家のまとめリスト一覧】

第1作『風の歌を聴け』に出てくる小説や作家まとめ

第2作『1973年のピンボール』に出てくる小説や作家まとめ

第3作『羊をめぐる冒険』に出てくる小説や作家まとめ

第4作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に出てくる小説や作家まとめ

第5作『ノルウェイの森』に出てくる小説や作家まとめ

第6作『ダンス・ダンス・ダンス』に出てきる小説や作家まとめ

第7作『国境の南、太陽の西』に出てくる小説や作家まとめ

第8作『ねじまき鳥クロニクル』に出てくる小説や作家まとめ

第9作『スプートニクの恋人』に出てくる小説や作家まとめ

第10作『海辺のカフカ』に出てくる小説や作家まとめ

第11作『アフターダーク』に出てくる小説や作家まとめ

第12作『1Q84』に出てくる小説や作家まとめ

第13作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』に出てくる小説や作家まとめ

第14作『騎士団長殺し』に出てくる小説や作家まとめ

第15作『街とその不確かな壁』に出てくる小説や作家まとめ


以下、村上春樹関連の記事をまとめたので、興味がありましたら、ぜひご一読ください。

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