【登場本一覧】『羊をめぐる冒険』に出てくる小説や作家まとめ

羊をめぐる冒険 登場本

1982年に出版された村上春樹の第三作目の長編小説『羊をめぐる冒険』に登場する本や作家の名前を一覧にして紹介します

文庫本では上下巻で構成される『羊をめぐる冒険』には、実に多くの書籍名や作家名が登場します。架空の本もありますが、その大半は実在する小説や作家です。

村上春樹が強く影響を受けてきた世界的な名著も含まれているので、村上作品を深く理解する上でのブックガイドにもなるでしょう。

ぜひ村上春樹の『羊をめぐる冒険』をより楽しむために、この登場本リストをお役立てください。

『羊をめぐる冒険』と本の関係

まず『羊をめぐる冒険』は、村上春樹初期三部作『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』に続く話であり、主人公「僕」が翻訳事務所で働いていたり、後に作家として活動する人物です。それだけにたくさんの小説や作家の名前が登場します。

また物語の冒頭で触れられる「誰とでも寝る女の子」(というのが彼女の名前だと言及されています)が、僕の大学近くの喫茶店でいつも同じ席に座り本を読んでいたとも語られています。

『風の歌を聴け』では「おそろしく本を読まない」とされていた「鼠」も、今では読書を嗜んでいるようです。

『羊をめぐる冒険』に出てくる本【一覧】

『羊をめぐる冒険』登場本一覧

それではさっそく、『羊をめぐる冒険』にて言及される小説や、詩集、雑誌などの本のタイトルや、作家などを詳しく見ていきましょう。

1. ギンズバーグ詩集

ギンズバーグ詩集

ギンズバーグ詩集はアメリカの詩人アレン・ギンズバーグの作品集です。アレン・ギンズバーグは『路上 (オン・ザ・ロード)』で知られるジャック・ケルアックと同じくビート・ジェネレーションに属する一人です。『ギンズバーグ詩集』は1969年に思潮社から諏訪優訳で刊行され、1991年には『ギンズバーグ詩集 増補改訂版』として復刊しました。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

ミッキー・スピレインや大江健三郎という作家名と並んで、「誰とでも寝る女の子」がいつも喫茶店で読んでいた本の一冊として紹介されています。

2. 闇の奥

闇の奥

コンラッドの有名な小説として『闇の奥』や『ロード・ジム』が挙げられますが、この陰鬱として鼠の潜伏地に登場する本としては、コッポラの映画『地獄の黙示録』の原作となった『闇の奥』が妥当だと推測します。ちなみに、村上春樹はかつて、文芸誌『海』にて「同時代としてのアメリカ」という評論を書いており、その中で『地獄の黙示録』についても語っています。『闇の奥』は1958年以来岩波文庫から中野好夫訳が親しまれてきましたが、2022年に新潮文庫から高見浩による新訳を読むことができます。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

山荘のベッドのサイドテーブルには鼠が読んでいたとされる「コンラッドの小説」が登場します。

3. 失われた時を求めて

失われた時を求めて

『失われた時を求めて』は、フランスの小説家マルセル・プルーストの言わずと知れた大長編小説。1913年から1927年にわたって全7篇が刊行されました。村上春樹の長編『1Q84』では、タマルが青豆に薦めるのも『失われた時を求めて』でした。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

耳のモデルをしている女の子から自分のことを話してと言われた僕が、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』は揃いで持っているけど、半分しか読んでいないと述べます。

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4. シャーロック・ホームズの事件簿

シャーロック・ホームズの事件簿

『シャーロック・ホームズの事件簿』はイギリスの小説家コナン・ドイルの有名なシャーロック・ホームズシリーズの一つで、五つある短編集の中でも最後の作品です。シャーロック・ホームズシリーズは創元推理文庫から全集が出ている他、新潮文庫などでも読むことができます。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

耳モデルの彼女が部屋で身支度をしている際に、僕はソファに座って『シャーロック・ホームズの事件簿』を読んでいます。冒頭の「私の友人ワトスンの考えは、せまい限定された範囲のものではあるが、きわめて執拗なところがある」という文章が引用されています。

5. シャーロック・ホームズの冒険

シャーロック・ホームズの冒険

『シャーロック・ホームズの冒険』はシャーロック・ホームズシリーズの中でも最初に刊行された短編集です。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

山上の家で彼女が消えてしまった後、僕はベッドに潜り込んで『シャーロック・ホームズの冒険』を読んでいます。僕が読んでいる作品として先に、シャーロック・ホームズシリーズ最後の短編集『シャーロック・ホームズの事件簿』が登場しますが、また最初の短編集に戻っていると考えると、僕はシャーロック・ホームズシリーズを何度も繰り返し読んでいるのだろうと想像できます。

6. プルターク英雄伝

プルターク英雄伝

『プルターク英雄伝』とは、2世紀初頭頃にギリシャ・ローマ時代の哲学者、歴史家、そしてアポロン神の司祭であるプルタルコス(英語名ではプルターク)によって書かれた、有名な男性48人の伝記集です。『対比列伝』、『英雄伝』という名前でも知られています。日本語訳は、岩波文庫(全12巻)やちくま学芸文庫(全3巻)で出版されましたが、現在では西洋古典叢書(全6巻)や講談社文芸文庫の『プリューターク英雄伝』が手に入れやすいでしょう。潮出版社にて全3巻で漫画も出版されています。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

一週間前まで鼠がいた形跡のある家で、おそろしいほどの数の古書が書棚に収められています。たいていの無価値な本とは別に、風化をまぬがれた本として『プルターク英雄伝』と『ギリシャ戯曲選』が挙げられています

7. ギリシャ戯曲選

本作で登場する「ギリシャ戯曲選」という著作名では、特定できませんでした。ギリシャの戯曲を取り扱った本なら存在しますが、完全一致で同タイトルの書籍を見つけるのは難しそうです。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

山上の家に置かれていた古書として『プルターク英雄伝』とともに言及されているのが「ギリシャ戯曲選」です。ですが実在の本を特定するのは難しそうです。

8. 亜細亜主義の系譜

こちらも「亜細亜主義の系譜」という名前で登場するものの、具体的にどの一冊を指しているか、実際に存在したのかという特定は難しい現状です。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

「戦争中に発行された本」だという手がかりは得られますが、それ以上の特定は難しそうです。

9. カラマーゾフの兄弟

カラマーゾフの兄弟

『カラマーゾフの兄弟』は、ロシアの文豪フョードル・ドストエフスキーの言わずと知れた最後の長編小説です。『カラマーゾフの兄弟』は村上春樹がしばしば言及し、「世の中には二種類の人間がいる。『カラマーゾフの兄弟』を読破したことのある人と、読破したことのない人だ。」とまで言わしめる彼の中でも最も重要な小説のひとつです。この大作を読了した者だけが入会できる、「『カラマーゾフの兄弟』読了クラブ」なるものを村上春樹が提案して、一部のファンの間で話題となりました。主な日本語訳を古い順に並べると、岩波文庫(全4巻)が1957年、新潮文庫(全3巻)が1978年、光文社古典新訳文庫(全5巻)が2006年、となっています。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

例の羊を探し出すように言われた帰りの車の中で、僕は『カラマーゾフの兄弟』と『静かなドン』を三回読んだと言っています。どちらもロシア文学における超大作で、その長い小説を三回も読んでいるというのはものすごい読書家であることがわかります。

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10. 静かなドン

静かなドン

『静かなドン』はソ連時代の代表的な小説家ミハイル・ショーロホフによる小説です。『静かなドン』は、ロシア革命前後のドン地方における階級闘争を描き、ショーロホフは1965年にノーベル文学賞を受賞しました。日本語訳は1959年に岩波文庫から全8巻で刊行されました。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

こちらも『カラマーゾフの兄弟』と同様に、例の羊を探し出すように言われた帰りの車中で、僕は『静かなドン』を三回読んだと言っています。

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11. ドイツ・イデオロギー

ドイツ・イデオロギー

青年ヘーゲル派の運動を批判した若きマルクスとエンゲルスによる共著。労働運動に強い影響を与えた二人が近代のパラダイムを超える世界観を定礎したとされる一冊。現在では岩波文庫から『ドイツ・イデオロギー 新編輯版』、マルクス主義原典ライブラリーから『新訳 ドイツ・イデオロギー』などを読むことができます。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

『カラマーゾフの兄弟』と『静かなドン』は三回読んだと言っているのと同時に、僕は『ドイツ・イデオロギー』だって一回読んだ、と言っています。

12. anan(アンアン)

ananはマガジンハウスが出版する言わずと知れた女性週刊誌です。『羊をめぐる冒険』の時代背景では、まだ月2回の刊行だったそうです。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

「いるかホテル」に滞在時に、彼女が言った「小さくてさっぱりしたホテル」という表現を、僕は『anan(アンアン)』の旅行ページに出てきそうな文句だと考えます

13. 北海道全図

北海道全図

本作で示されている「北海道全図」を特定するのは難しそうですが、興味がある方は、地勢社から出ている『昭和49年度復刻版北海道全図』などを読むと面白そうです。本作が1978年を舞台にしており、昭和49年は1974年と遠くない時間軸に当たるからです。また普段は作品執筆のために事前取材などはしない村上春樹ですが、『羊をめぐる冒険』では羊についての調査などのために北海道を事前に訪れています。その際にも実際に「北海道前図」は買っていそうですね。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

旅行先でその土地の地理から歴史までをじっくり学んでいくのは村上春樹作品らしいですが、今回も例に漏れず北海道を訪れてすぐに「北海道全図」を購入しています。

14. 北海道の山

『北海道の山』は広く共通認識を有するような小説とは違うので特定が難しいですが、実在した本を指しているのだとすれば、物語の設定である1978年に、俵浩三, 今村明信 共編『北海道の山 昭和53年版』という書籍が出版されています。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

僕が探している羊が写った写真には、手がかりになりそうな山も写っているわけですが、そこから場所を特定しようと「北海道全図」とともに『北海道の山』という本を購入しています。本書から「山はそれを見る角度、季節、時刻、あるいは見るものの心持ちひとつでがらりとその姿を変えてしまうのです。」というような引用もしています。

15. 白鯨

白鯨

アメリカ文学の傑作『白鯨』は1851年に発表されたハーマン・メルヴィルによる小説です。ひたすら鯨という生き物に焦点を当て、さらに難解だということから、読破したことのある人もそれほど多くないでしょう。ですが名作だけに翻訳の選択肢は豊富で、1952年に田中西二郎訳で新潮文庫(全2巻)が、1956年に、富田彬訳で角川文庫(全2巻)が出版されましたが、意外にも岩波文庫(全3巻)が新しく2004年に八木敏雄訳で出しているものがあります。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

「いるかホテル」のフロント係(兼オーナー)が、ドルフィン・ホテルと名付けたのはこのメルヴィルの『白鯨』にいるかの出てくるシーンがあったからだと語っています。鯨はあまりイメージがよくないために、いるかになったそうです。

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16. スイスのロビンソン

スイスのロビンソン

『スイスのロビンソン』は、スイスの牧師ヨハン・ダビット・ウィースによる児童文学作品。1812年に出版され、ダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』をベースにしています。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

僕が鼠の別荘の朽ちているその建物とは対象的に成長している樹木を見て、「『スイスのロビンソン』に出てくる樹上家屋のように建物をすっぽり包んでいた」と表現しています

その他『羊をめぐる冒険』に出てくる作家など

ミッキー・スピレイン

ミッキー・スピレインはアメリカの作家で、『裁くのは俺だ』で始まるマイク・ハマーを主人公とするハードボイルド探偵シリーズで知られる。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

「誰とでも寝る女の子」が、いつも喫茶店で読んでいた作家の一人として紹介されています。

大江健三郎

大江健三郎は、日本を代表する作家としてしばしば村上春樹と並んで論じられることもありますが、前作の『1973年のピンボール』のタイトルは大江健三郎の『万延元年のフットボール』のもじりだと著者自身も認めています。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

こちらもミッキー・スピレイン同様、「誰とでも寝る女の子」がいつも喫茶店で読んでいた作家の一人として紹介されています。

三島由紀夫

三島由紀夫は戦後の日本文学を象徴する小説家の一人で、代表作には『潮騒』『金閣寺』『豊饒の海』などがあります。45歳の1970年に自衛隊のクーデターを促す演説をした後に割腹自決したことで有名です。村上作品にも度々名前が現れます。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

僕が「誰とでも寝る女の子」とICUまで散歩し、ラウンジのテレビに三島由紀夫が何度も繰り返し映し出されます。これが登場する章のタイトルは「1970/11/25」で、その日こそまさに三島由紀夫が演説の直後に割腹自殺を遂げた日です。「我々にとってはどうでもいいこと」と語られていますが、全共闘世代を近くで感じてきた村上春樹があえてこのシーンを登場させることには強いメッセージを感じます。

エラリー・クイーン

エラリー・クイーンはアメリカの推理小説作家で、世界中のミステリーファンの間では知らない人はいないでしょう。そんな有名な作家ですが、フレデリック・ダネイとマンフレッド・ベニントン・リーの二人の共同ネームだったということはご存じでしょうか。

【『羊をめぐる冒険』での登場】

プルーストの『失われた時を求めて』についての言及と同じシーンで、耳のモデルをしている女の子との会話中に、「エラリー・クイーンの小説の犯人は全部覚えている」と語っています。30冊はくだらない推理小説の犯人を全て覚えているというのは、よっぽどのファンですね。

その他

他にも、タイトルこそ言及されていませんが、昔僕が読んだアメリカの小説として「妻に家出された夫が、食堂の向いの椅子に彼女のスリップを何ヵ月もかけておく話」という筋が紹介されています。

また、「十二滝町の歴史」という本が登場しますが、十二滝町が架空の町なのでこの書籍も架空のものということになります。いずれにしてみ訪れた土地について本で学ぶという姿勢は真似したいものです。

『羊をめぐる冒険』登場本: まとめ

『羊をめぐる冒険』と『カラマーゾフの兄弟』と『白鯨』

以上が『羊をめぐる冒険』に出てくる本と作家の一覧でした。ドストエフスキーなどのロシア文学やメルヴィルなどのアメリカ文学をはじめとする世界的な名著は、村上春樹が学生時代から日本国内の小説よりも親しんできたとされており、やはりその言及も多岐にわたります。

「いるかホテル」の名前の由来となった『白鯨』なんかは村上春樹ファンなら読んでみたいと思うかもしれませんが、その難解さに読み進めるのが難しいかもしれません。

ですが、読み手との相性もあると思うので、気になった一冊を積極的に読んでみてはいかがでしょうか。

【村上春樹の長編に登場する本や作家のまとめリスト一覧】

第1作『風の歌を聴け』に出てくる小説や作家まとめ

第2作『1973年のピンボール』に出てくる小説や作家まとめ

第3作『羊をめぐる冒険』に出てくる小説や作家まとめ

第4作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に出てくる小説や作家まとめ

第5作『ノルウェイの森』に出てくる小説や作家まとめ


以下、村上春樹関連の記事をまとめたので、興味がありましたら、ぜひご一読ください。

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