1982年に出版された村上春樹の第三作目の長編小説『羊をめぐる冒険』に登場する本や作家の名前を一覧にして紹介します。
文庫本では上下巻で構成される『羊をめぐる冒険』には、実に多くの書籍名や作家名が登場します。架空の本もありますが、その大半は実在する小説や作家です。
村上春樹が強く影響を受けてきた世界的な名著も含まれているので、村上作品を深く理解する上でのブックガイドにもなるでしょう。
ぜひ村上春樹の『羊をめぐる冒険』をより楽しむために、この登場本リストをお役立てください。
- 1 『羊をめぐる冒険』と本の関係
- 2 『羊をめぐる冒険』に出てくる本【一覧】
- 3 『羊をめぐる冒険』登場本: まとめ
『羊をめぐる冒険』と本の関係
まず『羊をめぐる冒険』は、村上春樹初期三部作『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』に続く話であり、主人公「僕」が翻訳事務所で働いていたり、後に作家として活動する人物です。それだけにたくさんの小説や作家の名前が登場します。
また物語の冒頭で触れられる「誰とでも寝る女の子」(というのが彼女の名前だと言及されています)が、僕の大学近くの喫茶店でいつも同じ席に座り本を読んでいたとも語られています。
『風の歌を聴け』では「おそろしく本を読まない」とされていた「鼠」も、今では読書を嗜んでいるようです。
『羊をめぐる冒険』に出てくる本【一覧】
それではさっそく、『羊をめぐる冒険』にて言及される小説や、詩集、雑誌などの本のタイトルや、作家などを詳しく見ていきましょう。
1. ギンズバーグ詩集
【『羊をめぐる冒険』での登場】
ミッキー・スピレインや大江健三郎という作家名と並んで、「誰とでも寝る女の子」がいつも喫茶店で読んでいた本の一冊として紹介されています。
2. 闇の奥
【『羊をめぐる冒険』での登場】
山荘のベッドのサイドテーブルには鼠が読んでいたとされる「コンラッドの小説」が登場します。
3. 失われた時を求めて
【『羊をめぐる冒険』での登場】
耳のモデルをしている女の子から自分のことを話してと言われた僕が、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』は揃いで持っているけど、半分しか読んでいないと述べます。
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4. シャーロック・ホームズの事件簿
【『羊をめぐる冒険』での登場】
耳モデルの彼女が部屋で身支度をしている際に、僕はソファに座って『シャーロック・ホームズの事件簿』を読んでいます。冒頭の「私の友人ワトスンの考えは、せまい限定された範囲のものではあるが、きわめて執拗なところがある」という文章が引用されています。
5. シャーロック・ホームズの冒険
【『羊をめぐる冒険』での登場】
山上の家で彼女が消えてしまった後、僕はベッドに潜り込んで『シャーロック・ホームズの冒険』を読んでいます。僕が読んでいる作品として先に、シャーロック・ホームズシリーズ最後の短編集『シャーロック・ホームズの事件簿』が登場しますが、また最初の短編集に戻っていると考えると、僕はシャーロック・ホームズシリーズを何度も繰り返し読んでいるのだろうと想像できます。
6. プルターク英雄伝
【『羊をめぐる冒険』での登場】
一週間前まで鼠がいた形跡のある家で、おそろしいほどの数の古書が書棚に収められています。たいていの無価値な本とは別に、風化をまぬがれた本として『プルターク英雄伝』と『ギリシャ戯曲選』が挙げられています。
7. ギリシャ戯曲選
【『羊をめぐる冒険』での登場】
山上の家に置かれていた古書として『プルターク英雄伝』とともに言及されているのが「ギリシャ戯曲選」です。ですが実在の本を特定するのは難しそうです。
8. 亜細亜主義の系譜
【『羊をめぐる冒険』での登場】
「戦争中に発行された本」だという手がかりは得られますが、それ以上の特定は難しそうです。
9. カラマーゾフの兄弟
【『羊をめぐる冒険』での登場】
例の羊を探し出すように言われた帰りの車の中で、僕は『カラマーゾフの兄弟』と『静かなドン』を三回読んだと言っています。どちらもロシア文学における超大作で、その長い小説を三回も読んでいるというのはものすごい読書家であることがわかります。
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10. 静かなドン
【『羊をめぐる冒険』での登場】
こちらも『カラマーゾフの兄弟』と同様に、例の羊を探し出すように言われた帰りの車中で、僕は『静かなドン』を三回読んだと言っています。
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11. ドイツ・イデオロギー
【『羊をめぐる冒険』での登場】
『カラマーゾフの兄弟』と『静かなドン』は三回読んだと言っているのと同時に、僕は『ドイツ・イデオロギー』だって一回読んだ、と言っています。
12. anan(アンアン)
【『羊をめぐる冒険』での登場】
「いるかホテル」に滞在時に、彼女が言った「小さくてさっぱりしたホテル」という表現を、僕は『anan(アンアン)』の旅行ページに出てきそうな文句だと考えます。
13. 北海道全図
【『羊をめぐる冒険』での登場】
旅行先でその土地の地理から歴史までをじっくり学んでいくのは村上春樹作品らしいですが、今回も例に漏れず北海道を訪れてすぐに「北海道全図」を購入しています。
14. 北海道の山
【『羊をめぐる冒険』での登場】
僕が探している羊が写った写真には、手がかりになりそうな山も写っているわけですが、そこから場所を特定しようと「北海道全図」とともに『北海道の山』という本を購入しています。本書から「山はそれを見る角度、季節、時刻、あるいは見るものの心持ちひとつでがらりとその姿を変えてしまうのです。」というような引用もしています。
15. 白鯨
【『羊をめぐる冒険』での登場】
「いるかホテル」のフロント係(兼オーナー)が、ドルフィン・ホテルと名付けたのはこのメルヴィルの『白鯨』にいるかの出てくるシーンがあったからだと語っています。鯨はあまりイメージがよくないために、いるかになったそうです。
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16. スイスのロビンソン
【『羊をめぐる冒険』での登場】
僕が鼠の別荘の朽ちているその建物とは対象的に成長している樹木を見て、「『スイスのロビンソン』に出てくる樹上家屋のように建物をすっぽり包んでいた」と表現しています。
その他『羊をめぐる冒険』に出てくる作家など
ミッキー・スピレイン
【『羊をめぐる冒険』での登場】
「誰とでも寝る女の子」が、いつも喫茶店で読んでいた作家の一人として紹介されています。
大江健三郎
【『羊をめぐる冒険』での登場】
こちらもミッキー・スピレイン同様、「誰とでも寝る女の子」がいつも喫茶店で読んでいた作家の一人として紹介されています。
三島由紀夫
【『羊をめぐる冒険』での登場】
僕が「誰とでも寝る女の子」とICUまで散歩し、ラウンジのテレビに三島由紀夫が何度も繰り返し映し出されます。これが登場する章のタイトルは「1970/11/25」で、その日こそまさに三島由紀夫が演説の直後に割腹自殺を遂げた日です。「我々にとってはどうでもいいこと」と語られていますが、全共闘世代を近くで感じてきた村上春樹があえてこのシーンを登場させることには強いメッセージを感じます。
エラリー・クイーン
【『羊をめぐる冒険』での登場】
プルーストの『失われた時を求めて』についての言及と同じシーンで、耳のモデルをしている女の子との会話中に、「エラリー・クイーンの小説の犯人は全部覚えている」と語っています。30冊はくだらない推理小説の犯人を全て覚えているというのは、よっぽどのファンですね。
その他
他にも、タイトルこそ言及されていませんが、昔僕が読んだアメリカの小説として「妻に家出された夫が、食堂の向いの椅子に彼女のスリップを何ヵ月もかけておく話」という筋が紹介されています。
また、「十二滝町の歴史」という本が登場しますが、十二滝町が架空の町なのでこの書籍も架空のものということになります。いずれにしてみ訪れた土地について本で学ぶという姿勢は真似したいものです。
『羊をめぐる冒険』登場本: まとめ
以上が『羊をめぐる冒険』に出てくる本と作家の一覧でした。ドストエフスキーなどのロシア文学やメルヴィルなどのアメリカ文学をはじめとする世界的な名著は、村上春樹が学生時代から日本国内の小説よりも親しんできたとされており、やはりその言及も多岐にわたります。
「いるかホテル」の名前の由来となった『白鯨』なんかは村上春樹ファンなら読んでみたいと思うかもしれませんが、その難解さに読み進めるのが難しいかもしれません。
ですが、読み手との相性もあると思うので、気になった一冊を積極的に読んでみてはいかがでしょうか。
【村上春樹の長編に登場する本や作家のまとめリスト一覧】
→第2作『1973年のピンボール』に出てくる小説や作家まとめ
→第3作『羊をめぐる冒険』に出てくる小説や作家まとめ
→第4作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に出てくる小説や作家まとめ
→第6作『ダンス・ダンス・ダンス』に出てきる小説や作家まとめ
→第13作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』に出てくる小説や作家まとめ
以下、村上春樹関連の記事をまとめたので、興味がありましたら、ぜひご一読ください。
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