村上春樹が大切にする10の仕事術

職業としての小説家

今回は日本ではもちろん世界的に著名な小説家である村上春樹さんの『職業としての小説家』を基に、生きていく上で、仕事をする上でどのようなことを心がけていれば成果を残すことができるかのヒントを紹介していきます。

以前は村上春樹さんの「継続するコツ」に焦点を当てて紹介しました(以下参考)。

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『走るときについて語るときに僕の語ること』村上春樹

本書は小説家としての村上春樹さんが、どのように小説家になったか、これだけの成果を残すにはどのようなことを意識して生活をしてきたかが書かれている、「村上春樹の自伝」的な本です。

『職業としての小説家』の魅力をこれ以上ないとばかりに語っているのが、アメリカ文学研究の権威でもあり村上さんとも親交がある東京大学名誉教授の柴田元幸さんです。柴田さんは本書の帯で以下のように述べています。

これは村上さんが、どうやって小説を書いてきたかを語った本であり、それはほとんど、どうやって生きてきたかを語っているに等しい。だから、小説を書こうとしている人に具体的なヒントと励ましを与えてくれることは言うに及ばず、生き方を模索している人に(つまり、ほとんどすべての人に)総合的なヒントと励ましを与えてくれるだろう−何よりもまず、べつにこのとおりにやらなくていいんだよ、君は君のやりたいようにやるのが一番いいんだよ、と暗に示してくれることによって。

柴田さんが言うように、なにかものを書こうと思っている人のためになるのはもちろんですが、小説を書くにあたって大切なことが他の仕事にも応用できるというのがポイントでもあります。長期的に大きな成果をあげるための秘訣が書かれているともいえるでしょう。

あらゆる人の仕事や生き方のためになると感じた箇所を10ポイントほどにまとめて紹介して生きます。仕事の本質的なことに触れているので、必ず今後の人生に役立つはずです!

1. 自分を納得させる

仕事において、誰かに評価されることは重要なことです。しかし仕事をする上で絶対条件ではありません。

机の前で懸命に頭をひねり、丸一日かけて、ある一行の文章的精度を少しばかり上げたからといって、それに対して誰が拍手をしてくれるわけでもありません。

村上さんは日々こんなことを考えながら文章を書いているそうですが、これと似た状況は自分の周りにもあるかもしれません。「これだけ頑張ったのに、誰からも評価されない」「これだけ時間をかけたのに、結局ボツになってしまった」という経験はあるでしょう

しかし重要なのは、仕事をすること、頑張ることは誰かのためではなく自分のためでしかありません。もし村上さんが、「どうせ誰も見ていないから、まあこのくらいでいいか」と一行を突き詰める作業をしなければ、ここまで文章力や感性が磨かれていたでしょうか。

今あなたが頭をひねって、時間をかけて努力していることは、自分のためです。自分の価値観と向き合い、自分が納得するまで突き詰めることを繰り返すことで成長をすることができます。

2. 苦労にも意味がある

村上さんは小説を書く前、ジャズバーを経営していたのは有名な話です。最初の小説『風の歌を聴け』も、お店を閉めてから深夜に書いていたそうです。当時はお店を維持するのにいっぱいいっぱいで借金を返すことに必死だったと言います。

「人生でできるだけ苦労をしろ」と言うつもりはないと述べつつも、

でもそういう苦しい歳月を無我夢中でくぐり抜け、大怪我をすることもなくなんとか無事に生き延び、少しばかり開けた平らな場所に出ることができました。一息ついてあたりをぐるりと見回してみると、そこには以前には目にしたことのなかった新しい風景が広がり、その風景の中に新しい自分が立っていた

と過去を振り返っています。「辛い経験をしたからこそ、今の自分がある」という経験を持つ方もいると思いますが、苦しい状況でも落ち込むことはありません。たしかにその時は苦しいかもしれませんが、将来的には苦労が自分を大きく前に進めてくれる糧となると勇気づけてくれる言葉です。

3. 自分の直感を大切にしよう

直感を大切にする、言い換えると自分の心の声に耳を傾けることの重要性について村上さんは述べています。それは村上さんが小説を書こうと思ったきっかけについての話です。それはある日神宮球場で野球を見ているときでした。

僕はそのときに、何の脈絡もなく何の根拠もなく、ふとこう思ったのです。「そうだ、僕にも小説が書けるかもしれない」と。

これほどの小説家が、その職業を目指すきっかけはこんな一瞬のことだったそうです。「それは空から何かがひらひらとゆっくり落ちてきて、それを両手でうまく受け止められたような気分でした」とそのときの感覚について説明しています。

こんなふとした瞬間が誰にでも起きるかもしれません。そんなときサッとスルーしてしまうのではなく、しっかり受け止め立ち止まって考えてみることが大切です。また、試合が終わってからすぐに原稿用紙と万年筆を買いに行ったという行動力も参考にしたいものです。

4. 諦めないで続けてみる

小説家としてこれ以上才能がある人はそういないのでは、とぼくを含め世間の人々は思うでしょう。そんな村上さんでも小説を書き始めたときは悩んだ時期があるそうです。

読んでいても面白くないし、読み終えて心に訴えかけてくるものがないのです。

「やっぱり僕には、小説を書く才能なんかないんだ」と落ち込みました。

普通の人はこんな挫折感を味わうと、よっぽどの思い入れがない限り諦めてしまうでしょう。これは向いてないから、また新しいことを始めようというふうに。その切り替えが大事な状況もたしかにあるかもしれません。

しかし、いったん自分がこれをやると強い気持ちで決めたなら、少し辛抱して続けてみることです。自分の直感に従って、継続してみるのです。村上さんほどの人でも、「才能がない」と思ってしまうのです。もう一踏ん張りしてから諦めることを考えるのでも遅くはないかもしれません。

5. ネガティブなこともポジティブに捉える

今でこそ国内外問わず高い評価を受ける村上春樹作品ですが、キャリアのはじめの方は批判をする人の方が多かったと言います。当時の状況についてこう語ります。

業界全体的にみれば「イエス」よりは「ノー」の声の方が圧倒的に大きかったと思います。当時もし僕が池で溺れかけていたおばあさんを、池に飛び込んで助けたとしても、たぶんだいたい悪く言われただろうと−半ば冗談で半ば本気で−思います。

かなり批判的でネガティブな評価を受けていたことがわかるでしょう。しかしネガティブな状況においても、村上さんはポジティブに捉えなおしたのです。そのような状況について、

しかしそれは、作品がオリジナルであることのひとつの条件になり得るかもしれない。僕は誰かに批判されるたびに、できるだけ前向きにそう考えるように努めてきました

このような姿勢は完全に気の持ちようです。どんなネガティブなことでも逆境でもポジティブになれる要素は隠されています。それを探そうとするかしないかで、つまりじぶんの 受け止め方次第で状況は一変するのです。

6. 本音で楽しむ

もしあなたが何か自分にとって重要だと思える行為に従事していて、もしそこに自然発生的な楽しさや喜びを見出すことができなければ、それをやりながら胸がわくわくしてこなければ、そこには何か間違ったもの、不調和なものがあるということになりそうです。そういうときはもう一度最初に戻って、楽しさを邪魔している余分な部品、不自然な要素を、片端から放り出していかなくてはなりません。

仕事や生涯を通して携わることで最も重要なことが、心から本音で楽しいと思えるかだと言います。誰もが好きで楽しくて今の仕事をしているわけではないと思います。しかし「仕事だから」と思考停止していては状況は何も変わりません。あなたの行動次第で状況を変えることはできます。まずは村上さんが言うように、何が邪魔をしているか、もっと言えばそれの何が嫌いかを冷静に考えてみましょう。

好きなことよりも嫌いなことを探すことで、自分の好きなことや得意なことが見えてくることもあります。それは就職や転職をはじめとする人生の転換期において、とても重要な判断基準となってくれるはずです。

7. それぞれの世代の特徴を理解する

「団塊の世代」「ゆとり世代」「スマホネイティブ世代」など、各世代がさまざまな特徴づけをされます。「今どきの若い者は」という言葉があるように(はるか昔から言われている言葉だそうです)、ある世代の人が違う世代の人を批判的にみることは珍しくないでしょう。しかしこの考えは一度見直す必要があります。

これは僕の昔からの持論ですが、世代間に優劣はありません。

それぞれに得意分野があり、苦手分野があるのです。

職場など上限関係がある環境では、多数派の世代が優れているという雰囲気になりがちで、マイノリティーの世代の人間は劣等感すら抱くこともあるでしょう。「昔は徹夜残業なんか当たり前だったぞ」という年長者の主張や、「そんな基本的なコンピュータの知識もないんですか?」という若い世代の言い分などを実際に聞く職場もあることでしょう。

しかしそれぞれの世代が、得意不得意を認識し、その上で得意分野に目を向ければ全体としての生産性は向上します。苦手なところばかりに目を向け、批判していても何も前に進みません。自分が若い世代であっても、年長の世代であっても、それぞれの世代の特徴を客観的に認識したいものです。

8. 他人からの指摘は一度受け入れる

人は自分のことや自分が作ったものなどを批判されると気持ちよくはありません。他人からの批判は的を外したものもあれば、自分の成長につながる指摘もあります。村上さんでさえ、文章に対して批判的な意見をもらうこともあるそうです。これほど成果を残した作家であれば、「お前に何がわかるんだ」と他人の言うことなんて聞かない向きもありそうです。しかし村上さんは違います。

「けちをつけられた部分があれば、何はともあれ書き直そうぜ」

これが村上さんのルールだそうです。批判や指摘を何でもかんでも鵜呑みにするのは問題外でしょう。しかし自分の頭で考えた上で、なにかしら学び、自分もしくは自分の作品に反映させていく。この意識によって、いまだに作家として成長を続けていけるのでしょう。

指摘された部分については、その指摘の方向性はともかく「何かしらの問題が含まれていることが多い」と言います。仕事でもプライベートでも批判を頭からはねつけるのではなく、一度考えてその通りに修正しなくても、自分なりに考えた何かしらのアップデートはすべきでしょう。

9. 時間をコントロールする

作家と言えば「締め切り」がついて回るものだと思いますよね。たしかに、そのような強制力はないと書けないという人はいるでしょう。しかし村上さんは、締め切りを設けた書き方をする作家ではありません。村上さん的に言えば、締め切りとは時間のコントロールを手放すことです。

時間を味方につけるには、ある程度自分の意志で時間をコントロールできるようにならなくてはならない、というのが僕の持論です。

こちらのスケジュールを積極的に、意図的に設定していくしかありません。つまり受け身になるのではなく、こちらから積極的に仕掛けていくわけです。

作家以外の仕事でも締め切りや期限というものは、基本的に設定されてしまうものです。上司や顧客に「これをいついつまでにお願いします」という状況は誰にでもあるでしょう。しかしそんな中でも自分で時間をコントロールすることは可能です。余裕が生まれるよう、その設定された期限よりも早く自分で目処をつけてしまう。または、他の仕事のスケジュールをしっかり管理して全体としてうまく回るようにするなどの手段はいくらでもあるはずです。

またこの自分の意志でコントロールすべきものは時間だけではないでしょう。例えば職場の環境は自分でもどうにもならないと思っているかもしれませんが、転職をすることや、場合によっては社内の環境を変えることだってできるかもしれません。何事も「積極的に仕掛けていく」姿勢を持つべきです。

10. 基礎体力を身につけよう

長期的に仕事で成果を生み出す原動力は、基礎体力に他なりません

基礎体力を身につけること。逞しくしぶといフィジカルな力を獲得すること。自分の身体を味方につけること。

作家といえば机に向かって文章を書き続ける、体力とは対極に位置する職業と思われがちです。しかし長期的に創作活動をするには持続力が必要だといいます。その持続力を身につけるには、体力をつけることなのです。

村上さんは日課として長距離を走ることで有名ですが、まさにマラソンによってついて体力も相まって、これだけ安定して長い歳月にわたって執筆を続けられるのでしょう。

これはどのような仕事でもあてはまることです。世の中が便利になるにつれて、身体を動かす機会は減っていくかもしれません。意識的に運動などを生活に取り入れていきたいですね。

村上春樹さんが走ること、小説を書くことについて語った『走るときについて語るときに僕の語ること』はこちら

『職業としての小説家』を行動に移す

『職業としての小説家』から学ぶべき、明日から始めたい行動内容は

自分が納得するまでその仕事を終わらせない

です。

「1. 自分を納得させる」で紹介したことですが、自分が成長し、結果的に大きな成果を生み出すためには、まず自分を納得させることです。地道でときには辛いこともあるかもしれません。しかしこの積み重ねこそが自分の成長につながると教えてくれる村上春樹流仕事術です。

本書では村上さんの仕事について惜しげもなく語られています。人によって得られることが千差万別でしょう。一流の仕事術、大きな成果を生む力を身につけたいと思っている方には本当におすすめの一冊です。文庫化もされていて手軽に手に入るようになりました!

それでは楽しい読書ライフを!

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