村上春樹作品の長編小説しか読んだことはない方はもちろん、短編集もほとんど読んでいる方でも、見逃している作品があるのではないでしょうか。
村上春樹の公式に公開されている短編小説は現時点で約100を数えますが、そのほとんどは短編集という形で単行本に収録され、手軽に入手可能な文庫化されています。
一方で、単行本化されなかった幻の中編小説「街と、その不確かな壁」の存在は有名ですが、その他にも雑誌などに掲載されたきり単行本化されなかった作品や、短編集以外の書籍に収録されているため見落とされがちな短編小説などもあります。
そこで今回は村上春樹作品を中編・短編小説すらも見逃したくないという方のために、見落とされがちな村上春樹作品一覧と、その入手方法をまとめました。もう買うことができない「単行本未収録4作品」と、見落とされがちな「短編集以外に収録された10作品」、「意外と未読な2作品」に分けて紹介していきます。
こちらが一目でわかる村上春樹短編小説の収録書籍一覧です↓
村上春樹の単行本未収録の中編・短編小説
まずは雑誌に掲載されて以来単行本化されなかった中編小説1作品と短編小説3作品のタイトルと入手方法を紹介します。最初に収録された雑誌を入手することは困難、もしくはプレミア価格がついているため手に入れづらいというのが現状です。
しかし、これらの単行本未収録作品は国立国会図書館の遠隔複写サービスを利用することで、気軽に手に入れて読むことができるということを知っているでしょうか。国立国会図書館は国内のあらゆる書籍が貯蔵されていて、閲覧や複写が可能です。
遠隔複写サービスの利用方法はこちらで紹介しています↓
読みたい本があるけど、もう絶版になってしまって手に入らない... でもなんとか読みたいし、手元に保存しておきたい... そう思ったことはありませんか? 実はその悩みは、国立国会図書館の遠隔複写サービスを使うことで解決できま[…]
以下では、国立国会図書館オンラインでの各作品の収蔵タイトルや書籍情報を明記しておきます。国立国会図書館オンラインでの検索は作品名や書籍名で簡単に行うことができますが、ヒットした検索結果が多い際に、作品を特定するのに役立ちます。
1. 街と、その不確かな壁 (中編小説)
収録:『文學界』1980年9月号
ページ数:pp.46~99
国立国会図書館書籍情報:文學界 34(9)/文藝春秋, 1980-09 <Z13-102>
村上春樹の幻の中編小説「街と、その不確かな壁」の存在は知っているでしょうか。今では入手困難な「街と、その不確かな壁」を手軽に入手して読む方法を解説していきます。 2023年4月13日に発売される村上春樹の新作長編のタイトルが『街と[…]
2. 鹿と神様と聖セシリア (短編小説)
ページ数:pp.6~10
国立国会図書館書籍情報:早稲田文学 [第8次] 復刊(61)/早稲田文学編集室 編. 早稲田文学会 <Z13-2091>
3. BMWの窓ガラスの形をした純粋な意味での消耗についての考察 (短編小説)
ページ数:pp.78~98
国立国会図書館書籍情報:In pocket 2(7)-2(12) 19840700-19841200/講談社 <Z13-2792>
4. 中断されたスチーム・アイロンの把手 (短編小説)
「中断されたスチーム・アイロンの把手」は『別冊 小説現代』1986年春号に収録されたほか、安西水丸著『POST CARD』でも単行本化されていますが、絶版となっています。
残念なことに、この「中断されたスチーム・アイロンの把手」に関しては、図書館の複写サービスでは半分のページのみの複写しか行えません。理由は以下で詳しく述べますが*、結局ぼくは少し値は張りましたがAmazonで中古の本を購入しました。
ページ数:pp.129~144(「中断されたスチーム・アイロンの把手①渡辺昇の登場と挫折」)/pp.145~158(「中断されたスチーム・アイロンの把手②渡辺昇・その伝説と栄光と二度めの挫折」)
国立国会図書館書籍情報:ポストカード/安西水丸 著. 学生援護会, 1987.5 <KH48-E16>
村上春樹の短編集以外に収録された短編小説
続いては、短編集以外に収録された短編小説を10作品と、その収録書籍を紹介します。これらの作品は絶版ではなく、普通に購入することができます。しかし、1983年に発売された最初の短編集『中国行きのスロウ・ボート』から2020年の『一人称単数』までの基本的な短編集に収録された作品以外の小説は見落としがちです。
短編集以外に収録された短編小説10作品のうち7つが「村上春樹全作品集」のいずれかの巻に収録されていて、やや高価です。こちらも国立国会図書館もしくはその他図書館の複写サービスを利用するのもありですが、「村上春樹全作品集」には本人が「自作を語る」と称した小冊子が同梱されていたりします。
まだ未読の村上春樹作品があるとわくわくする方もいるでしょう。ぜひこれを機に読んでみてはいかがでしょうか。
1. 雨の日の女 ♯241・♯242
2. あしか
3. 書斎奇譚
4. 月刊「あしか文芸」
5. おだまき酒の夜
6. ハイネケン・ビールの空き缶を踏む象についての短文
7. 青が消える (Losing Blue)
8. バースデイ・ガール
9. ふわふわ
10. 恋するザムザ
村上春樹の意外と忘れがちな短編小説
最後に意外と見逃しがちな短編小説を2作品紹介します。いずれも2009年に出版された短編集『めくらやなぎと眠る女』に収録されている作品です。『めくらやなぎと眠る女』はもともとアメリカで2006年に『Blind Willow, Sleeping Woman』として発売されたもので、多くはすでに他の短編集に収録された短編で構成されています。
そのため購入を見送ったという方もいるかもしれませんが、この短編集でしか単行本化されていない短編小説が2作品あるのです。
1. 人喰い猫
2. 蟹
結局どれを買えばいいの?
これまで紹介した村上春樹の短編集未収録作品を手に入れる方法は大きく分けて、国立国会図書館の遠隔複写サービスの利用と書籍購入の2通りです。
まず最初に紹介した単行本未収録の4作品のうち、「中断されたスチーム・アイロンの把手」を除く3作品については国立国会図書館の遠隔複写サービスを使うことになるでしょう(収録された雑誌をプレミア価格付きの中古で手に入れることができれば話は別ですが)。
そして著作権法上、単行本は半分のページしか複写ができないので、『POST CARD』に収録された「中断されたスチーム・アイロンの把手」については、該当書籍を購入するという選択肢もあるかと思います。
続いて、短編集以外に収録された10作品のうち、「バースデイ・ガール」「ふわふわ」「恋するザムザ」の3作品については通常の書籍価格なので、以下の収録書籍を購入することをおすすめします。
残りの7作品は各巻2,000~3,000円前後とそれなりに値が張る「村上春樹全作品」に収録されています。4編が収録された『村上春樹全作品 1979〜1989』第5巻は購入しても良いでしょう。
一方で、少しでも節約を考えるなら、各巻1編のみが収録されている「青が消える (Losing Blue)」(収録『村上春樹全作品 1990〜2000』第1巻)、「雨の日の女 ♯241・♯242」(収録『村上春樹全作品 1979〜1989』第3巻)、「ハイネケン・ビールの空き缶を踏む象についての短文」(収録『村上春樹全作品 1979〜1989』第8巻)の3冊については、国立国会図書館の遠隔複写サービスを利用した方がお財布にはやさしいですね。
なお著作権法上、短編集も複写できる範囲が「それぞれの作品・論文・執筆箇所の半分まで」と定められていますが、この判断はケースバイケースらしいので、国立国会図書館の該当係まで問い合わせてみるとよいでしょう。例えば、「ハイネケン・ビールの空き缶を踏む象についての短文」(収録『村上春樹全作品 1979〜1989』第8巻)を複写依頼したところ全文をコピーしてもらえました(2ページくらいしかない作品だからかな?)。
また、『めくらやなぎと眠る女』をまだ未購入な方は、「人喰い猫」や「蟹」の2作品が読めるので購入をおすすめします。
いかがでしたでしょうか。まだ読んでことのない作品に出会えたでしょうか。ぼくもすでに絶版となってしまった雑誌などを手に入れることができず悩んでいました。そこでいろいろ模索していたら、国立図書館の遠隔複写サービスという存在を知ることができました。
もちろん欲を言えば、本そのものが好きな読者としては、現物を手に入れたいところでしょう。しかし遠隔複写サービスの印刷クオリティがじゅうぶんだと気づき、今では重宝しています。
実際に利用する際の具体的な手順をここで説明しているので、ぜひ参考にして試してみてくださいね。
読みたい本があるけど、もう絶版になってしまって手に入らない... でもなんとか読みたいし、手元に保存しておきたい... そう思ったことはありませんか? 実はその悩みは、国立国会図書館の遠隔複写サービスを使うことで解決できま[…]
それでは楽しい読書ライフを!
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