【登場本一覧】『騎士団長殺し』に出てくる小説や作家まとめ

騎士団長殺し 登場本一覧

この記事では、2017年に出版された村上春樹の14作目の長編小説『騎士団長殺し』に登場する小説やその他の本、国内外の作家名などを網羅的に紹介します

『騎士団長殺し』には、村上春樹が愛読してきた本はもちろん、本作の物語上重要な役割を果たす書物の名前が登場します。『騎士団長殺し』に登場する本や作家を知ることで、読書好きの方はさらに読書の深みを出すための、村上春樹好きの方にはさらに『騎士団長殺し』の世界を深く味わうためのブックガイドとして作用することでしょう。

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登場本&作家まとめ

村上春樹の長編小説全15作に登場する本199冊+α全てを紹介します。 すべての読書家たちへ。ついに村上春樹の全長編小説に登場する本や作家をまとめあげました。 世界的作家である村上春樹の作品には実に多くの本が登場します。それは少年[…]

村上春樹の長編全15作に登場する本まとめ

『騎士団長殺し』と本の関係

「私」はドストエフスキーの小説の登場人物の名を即座に言い当てるなど読書家のようです。「免色」は上田秋成からプルーストやオーウェルなど各国の文学に精通しているような知識を披露します。また「秋川まりえ」の叔母「笙子」は、「私」が「まりえ」を絵に描く間、本を読んで待ちます

『騎士団長殺し』の怪異譚的な要素と深く密接している作家や作品が登場します。その筆頭が上田秋成の『春雨物語』や『雨月物語』で、免色によってしばしばその内容が語られます。

『騎士団長殺し』に出てくる本【一覧】

『騎士団長殺し』登場本リスト

1. メエルシュトレエムに呑まれて

メエルシュトレエムに呑まれて

「メエルシュトレエムに呑まれて」は1841年に発表されたエドガー・アラン・ポーの短編小説で、ノルウェーの漁師が恐ろしい大渦巻「メエルシュトレエム」に巻き込まれる経験を語る形で進行します。この体験により彼の髪は白くなり、彼の生涯にわたるトラウマとなります。『騎士団長殺し』ではこの作品のタイトルの言及こそないものの、「エドガー・アラン・ポーの短編小説」というてがかりと、「大渦巻きに遭遇して一夜で髪が白くなったあの漁師」という記述が見られます。この短編は現在、創元推理文庫の『ポオ小説全集 3』で読むことができます。

【『騎士団長殺し』での登場】

私は免色と対面して、彼の白髪のあまりの白さが尋常ではないと感じます。そしてエドガー・アラン・ポーの短編小説に出てくる漁師のように、免色もとても深い恐怖を経験して髪が白くなったのだろうかと思案します

2. 春雨物語

春雨物語

『春雨物語』は、江戸時代の作家上田秋成によって作られた読本です。全10編からなり、幽霊や妖怪、異世界の話が織り交ぜられています。物語は日本の伝統的な怪談文学に根ざしており、幻想的でありながらも人間の心理や社会の暗部を描いています。中でも本作で登場する「二世の縁」という一篇は免色がいうように、鉦の音やミイラが重要な役割を果たしており、『騎士団長殺し』の物語と深い関連性を持ちます。

【『騎士団長殺し』での登場】

私と免色は夜に聞こえる鈴の音の発信源を探りに行きます。そして免色はこれと似たような出来事を本で読んだことがあると話します。それが上田秋成の『春雨物語』に収録された怪異譚でした。さらにその話は「二世の縁」という不思議な一篇のことだということにまで言及します。

3. 雨月物語

雨月物語

『雨月物語』は、上田秋成が1776年に発表した怪談集です。全9編からなるこの作品は、日本の中世・近世を舞台に、幽霊や妖怪、奇異な出来事を描いています。物語の背景には、人間の欲望や執念、因果応報のテーマが織り込まれており、深い心理描写が特徴です。「白峯」「菊花の約」「浅茅が宿」などの名作が収められています。免色の説明通り、『雨月物語』は『春雨物語』の約40年前には完成しています。さらに免色の言葉を借りれば、『春雨物語』が秋成の思想性を重視しているのに対し、『雨月物語』は物語性を重視しているといえます。『雨月物語』は『海辺のカフカ』でも登場し、大きな存在感を示しました。

【『騎士団長殺し』での登場】

免色に『春雨物語』は読んだことがあるかと聞かれた私は、『雨月物語』なら読んだことがあると答えます。

4. 阿部一族

阿部一族

「阿部一族」は1913年に発表された森鴎外の短編小説です。熊本藩の家老である阿部弥一右衛門が阿部家の忠義を貫くために命を捧げる一族の悲劇的な運命を描いた作品です。

【『騎士団長殺し』での登場】

私は妻に別れを告げられた直後に放浪の旅に出ます。その際、ファミリー・レストランでとある女性と出会ったときに読んでいた本が森鴎外の『阿部一族』でした。自分で買った本ではなく、泊まっていた青森のユースホステルのラウンジに置いてあったものを持ってきたのだといいます。私は『阿部一族』を読み終え、もう一度読み返しているほどでした。

5. 不思議の国のアリス

不思議の国のアリス

ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』は、1865年に発表された児童文学の名作です。主人公のアリスが、白ウサギを追いかけて地下の奇妙な世界に迷い込み、さまざまな不思議なキャラクターと出会う冒険を描いています。チェシャ猫、帽子屋、ハートの女王など、個性的なキャラクターたちが登場し、奇想天外な出来事が次々と繰り広げられます。

【『騎士団長殺し』での登場】

私の妹であったコミこと小径は、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』の熱狂的なファンだったと、私は振り返っています。彼女のために少なくとも百回くらいは読まされたといいます。二人が富士の風穴を訪れた際、「あれってアリスの穴みたい」という発言をします。

6. 失われた時を求めて

失われた時を求めて

『失われた時を求めて』は、マルセル・プルーストが執筆した20世紀初頭のフランス文学の代表作で、全7巻からなる長編小説です。主人公の記憶と感覚を通じて、過去の出来事や人間関係を詳細に描き出しています。特に有名なのは、主人公がマドレーヌを紅茶に浸した瞬間に、その香りと味が幼少期の記憶を呼び覚まし、長い回想が始まるシーンです。このように、プルーストは微細な感覚や記憶の断片を丹念に描写することで、膨大な物語を紡ぎ出しました。本作ではプルーストの名前のみで、『失われた時を求めて』自体への言及はありませんが、それを特定できる情報が提示されています。『失われた時を求めて』は村上作品では、他にも『羊をめぐる冒険』や『1Q84』にも登場します。

【『騎士団長殺し』での登場】

免色は私を招いたディナーの場でマルセル・プルーストについて言及します。そして私は「マルセル・プルーストは、その犬にも劣る嗅覚を有効に用いて長大な小説をひとつ書き上げました」と言います。その小説とは言わずもがな『失われた時を求めて』ですが、この表現はプルーストの感覚や記憶力の鋭さを強調するための比喩だと思われます。

7. トレブリンカの反乱

トレブリンカの反乱

『トレブリンカの反乱』はポーランド生まれのサムエル・ヴィレンベルクによる1948年の手稿で、約40年たって1986年にはじめてヘブライ語版で刊行されました。『トレブリンカの反乱』の舞台であるトレブリンカ強制収容所はナチス・ドイツによるユダヤ人大虐殺が行われた施設で、著者のサムエル・ヴィレンベルクもそこに収容された一人でした。しかし彼は仲間とともに反乱を起こし、収容所の大半を放火し脱走し、最終的に生還して本書を出版するに至ります。現在日本語訳では2015年にみすず書房から出版された『トレブリンカ叛乱』を読むことができます。

【『騎士団長殺し』での登場】

第1部の最後の章「32 彼の専門的技能は大いに重宝された」は、丸ごとサムエル・ヴィレンベルクの『トレブリンカ叛乱』からの引用で構成されています。そのシーンでは、トレブリンカ強制収容所にてドイツ人の肖像画を描かされるワルシャワ出身の画家が登場します。まさに『騎士団長殺し』で肖像画を描く主人公と重なるテーマを持った一冊です。

8. 1984年

1984年

ジョージ・オーウェルの『1984年』は、全体主義国家による個人の監視と抑圧を描いたディストピア小説です。オーウェルはこの作品で、独裁政権の恐怖や情報操作などを通じて、個人の自由や真実の重要性を訴えました。『1984年』は、政治的警告として広く読まれ、現代社会にも影響を与え続けています。免色の説明通り、オーウェルは『1984年』をスコットランドのジュラ島で執筆しました。ジュラ島は人里離れた孤島で、オーウェルはこの静寂と孤立を求めて移住しました。彼は、島の厳しい自然環境と孤独な生活の中で、この暗い未来像を描く作業に没頭しました。ジュラ島での生活は過酷で、オーウェルの健康状態も悪化しましたが、この孤独な環境が『1984年』の陰鬱なトーンや緊迫感を強めるのに寄与したと考えられています。村上作品との関連でいえば、『1984年』は『1Q84』と深い関わりを持つことは言うまでもありません。

【『騎士団長殺し』での登場】

免色はウィスキーを飲みながら、名産地であるスコットランドのアイラ島について話します。さらにアイラ島の近くにあるジュラ島という小さな島にまで言及し、そこではジョージ・オーウェルが『1984年』を執筆したことについて私に説明します

9. 白鯨

白鯨

本作では作品名こそ直接言及されませんが、「エイハブ船長は鰯を追いかけるべきだったのかもしれない」「白い鯨を追い求めた」など、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』が間接的に登場します。ハーマン・メルヴィルの『白鯨』は、1851年に発表されたアメリカ文学の名作です。物語は、白鯨モビーディックに執念を燃やすエイハブ船長と、彼が指揮する捕鯨船ピクォッド号の冒険を描いています。語り手のイシュメールは、海と捕鯨の世界を通じて人間の存在や運命について深く探求します。エイハブの復讐心が全体を支配し、最終的には破滅を招く物語は、人間の狂気、執着、そして自然の力の前での無力さを象徴しています。『白鯨』は『羊をめぐる冒険』でも登場しました。

【『騎士団長殺し』での登場】

私のもとにやってきた人妻のガールフレンドは、「エイハブ船長は鰯を追いかけるべきだったのかもしれない」と言います。その発言に対して私は「世の中には簡単に変更のきかないこともある」という意味に解釈します。エイハブ船長は、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』の主人公であり、巨大な白鯨モビーディックに対する執念深い復讐に人生を捧げました。この発言は、エイハブのように無謀で危険な目標を追い求める代わりに、もっと現実的で達成可能な目標(鰯のような)に焦点を当てるべきだったが、そのような方向転換も一筋縄ではいかないという意味を含んでいるのだろうと思われます。また、私は雨田政彦に対して同じ言葉を引用します。

10. 悪霊

悪霊

ドストエフスキーの『悪霊』は、1872年に発表されたロシア文学の名作です。この作品はロシアの地方都市を舞台に、革命思想が広がる中での社会的、政治的混乱を描いています。『悪霊』はカリスマ的な指導者ニコライ・スタヴローギンを中心に、陰謀と暴力が渦巻く中で進行します。

【『騎士団長殺し』での登場】

私は、まりえの絵を描いている間は、叔母さんは居間で本を読んで待っているのだと政彦に話します。その直後、政彦はふとドストエフスキーの『悪霊』のことを思い出し、その中に出てくる拳銃自殺をする男の名前を私に尋ねます。そして私はそれが「キリーロフ」だと即答します。政彦はその名前が思い出せなくて、気になっていたと話します。さらに私はドストエフスキーの小説について「自分が神や通俗社会から自由な人間であることを証明したくて、馬鹿げたことをする人間がたくさん出てくる」と付け加えます。

11. うつろな人々

うつろな人々

『うつろな人々』は、本作では具体的な作品名として登場するわけではありませんが、免色の言う「T・S・エリオットの言うところの藁の人間」は、『うつろな人々』(The Hollow Men)のことだと思われます。アメリカ出身でイギリスを活動の場とした詩人T・S・エリオットは、1925年に詩集『うつろな人々』(The Hollow Men)を発表しました。「うつろな人々」(The Hollow Men)は岩波文庫の詩集『四つの四重奏』で読むことができますが、入手は困難な現状です。『うつろな人々』については、『海辺のカフカ』でも言及されました。

【『騎士団長殺し』での登場】

秋川まりえの叔母である笙子と特別な間柄になっていることを免色は私に告白します。さらに免色は「もう少しだけ正直に」なると言い、自分は「からっぽの人間」だと言います。「T・S・エリオットの言うところの藁の人間です」とたとえます。

12. ナショナル・ジオグラフィック

ナショナル・ジオグラフィック

「ナショナル・ジオグラフィック」誌は、1888年にナショナル・ジオグラフィック協会によって創刊されました。この雑誌は、自然科学、地理、歴史、文化に関する記事と、卓越した写真で世界的に知られています。毎月発行され、読者に対して深い知識と視覚的な美しさを提供しています。

【『騎士団長殺し』での登場】

免色に家に忍び込んだまりえは、ジムに置かれた日本語版の「ナショナル・ジオグラフィック」のバックナンバーを何冊か、潜伏場所のメイド用の居室に持ち帰って読みます。それらは免色が運動しながら読んでいるそうで、ところどころに汗のあとが見られました。

13. 「スペインの『無敵艦隊』についての本」

私が借りている家の持ち主である雨田具彦の持ち物である「スペインの『無敵艦隊』についての本」とは、どのタイトルを指すでしょうか。この物語が現代のものだとすると、『騎士団長殺し』が出版された2017年以前に出版された本だということは大前提です。雨田具彦は最近認知症が進行し養護施設に入ったということですが、「スペインの『無敵艦隊』についての本」を入手した時期の推測は難しく、よって、数多あるスペインの「無敵艦隊」に関する本の中で一冊を特定することが困難な現状です。以下、有力なタイトルを挙げておきます。

1968年に人物往来社から出版された赤井彰著『スペイン無敵艦隊の最期』
1981年に原書房から出版された石島晴夫著『スペイン無敵艦隊』
1996年に新評論から出版されたマイケル・ルイス著『アルマダの戦い スペイン無敵艦隊の悲劇』
2011年に原書房から出版されたアンガス・コンスタム著『図説 スペイン無敵艦隊 エリザベス海軍とアルマダの戦い』

【『騎士団長殺し』での登場】

まりえが姿を消し、私が免色と穴を見に行った次の朝。私はコーヒーとトーストとともに、読みかけだったスペインの「無敵艦隊」についての本を読みます。この本は雨田具彦の書棚で見つけた本だといいます。

『騎士団長殺し』に出てくる作家【一覧】

1. フランツ・カフカ

フランツ・カフカは、オーストリア=ハンガリー帝国のプラハで生まれたドイツ語作家であり、20世紀文学の重要な人物です。代表作には『変身』『審判』『城』などがあり、人間の孤独や疎外感、不条理な社会構造をテーマにしています。カフカの作品は、夢のような不安定な状況と、現実との奇妙な交錯を特徴としていますが、これは村上春樹作品にも見られる特徴です。カフカの作品は生前にはほとんど評価されず、死後に友人マックス・ブロートによって出版され、広く知られるようになりました。

【『騎士団長殺し』での登場】

私の前に現れた騎士団長は、会話の中で過去にフランツ・カフカのことをよく知っていたことを仄めかします。そして「フランツ・カフカは坂道を愛していた」と語ります。

2. イマヌエル・カント

イマヌエル・カント(1724-1804)はドイツの哲学者で、近代哲学の主要な人物の一人です。彼の代表作『純粋理性批判』は、認識論と形而上学に関する画期的な研究を行いました。カントは、人間の認識が経験に依存する一方で、経験を超えた先天的な認識もあると主張しました。カントの名は『1973年のピンボール』や『アフターダーク』で登場しました。

【『騎士団長殺し』での登場】

夕食中の私のもとへまりえが訪ねてきます。沈黙を埋めるために私はまりえに話を振ろうとしますが、彼女は反応を示しません。そんな彼女が意味のない発言にどんな反応をするのか気になり、私はイマヌエル・カントの規則正しい生活習慣について話したのでした

3. ジェイン・オースティン

ジェイン・オースティン (ジェーン・オースティン)は、イギリスの小説家であり、近代小説の先駆者とされています。彼女の作品は、18世紀末から19世紀初頭のイギリスの中流・上流社会を舞台に、人間関係や恋愛、結婚を鋭い洞察とユーモアを交えて描いています。代表作には『高慢と偏見』『分別と多感』『マンスフィールド・パーク』などがあります。オースティンの作品では、18世紀から19世紀初頭のイギリスの社交界や日常生活が描かれており、当時の女性の衣装であるコルセットや、移動手段としての馬車が登場します。

【『騎士団長殺し』での登場】

私は政彦にまりえについて説明する際に、付き添いの叔母さんと一緒に家に来るのだと話します。それに対し、政彦は「ジェーン・オースティンの小説みたいに」古風な土地柄だと言います。そして「まさかコルセットをつけて、二頭だての馬車に乗ってやってきたりはしないよな」と冗談を飛ばします。

4. スコット・フィッツジェラルド

「私は普通の人間ですと自己申告するような人間を信用してはいけない」という言葉が書かれているフィッツジェラルドの作品とは、いったいどの作品を指しているのでしょうか。同じ箇所の引用は、『ノルウェイの森』でも直子によって持ち出されています。最も有名な『グレート・ギャツビー』では、有名な冒頭のシーンで、相手が自分のように恵まれた立場にいるとは限らないから簡単に批判すべきでないというような趣旨の文章が見られます。ものごとをすぐに決めつけないという意味では一致しているようにも思えます。しかし村上春樹も愛する『グレート・ギャツビー』だったとしたら、そのタイトルを明記するのではないかと思います。フィッツジェラルドについてのエッセイや、村上春樹自身によって翻訳された二つの短編が収録された『ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック』には、『リッチ・ボーイ(金持の青年)』という作品が収められています。この『リッチ・ボーイ(金持の青年)』は村上春樹いわく、フィッツジェラルドの短篇ベスト3(もしくは控えめに言ってベスト5)を選ぶときにまず落とせない作品ということです。そして村上春樹訳のこの作品にはこんな一節があります。「『私はごく当り前の、包み隠すところのない、あけっぴろげの人間ですよ』と言う人に会うたびに、僕はこう思う。この男には、おそらくは身の毛もよだつようないかんともしがたい異常な部分があって、意識的にそれを押し隠そうとしているんだろう、と

【『騎士団長殺し』での登場】

政彦は私に、女性の顔が左右半分で違って見える、もっと言えば一人の女の中には二人の女が潜んでいるのだと思うと打ち明けます。そんな話をする政彦は自分を普通の人間だと言いますが、私は「私は普通の人間ですと自己申告するような人間を信用してはいけないと、スコット・フィッツジェラルドがどこかの小説に書いていた」と返します

その他

私は、まりえに接近するために免色が私を「トロイの木馬」のように利用したように感じるのだと話します。「トロイの木馬」とはトロイアの木馬のことで、ギリシャ神話に登場する有名なエピソードです。トロイア戦争において、巨大な木馬を作り、その中に精鋭兵士を隠すという策略として知られています。村上作品ではしばしば登場するホメロスの『イリアス』に該当のエピソードは含まれ、この「トロイアの木馬」を企てたのは、ホメロスの『オデュッセイア』の主人公オデュッセウスなのです。『騎士団長殺し』でもひそかにホメロスを忍び込ませているとも読めるでしょう。

『騎士団長殺し』登場本: まとめ

村上春樹の長編よろしく『騎士団長殺し』でも、上田秋成や森鴎外といった日本文学における重要な作家から、ドストエフスキーやジョージ・オーウェルなどの海外の文豪の作品まで幅広い小説が登場します。作家名だけですが、フランツ・カフカやスコット・フィッツジェラルドといった村上春樹に強い影響を与えた作家の名前にも言及されています。

特に『騎士団長殺し』では、上田秋成の『春雨物語』が物語の奇妙な現象の連続と見事に重なり合っていきます。『騎士団長殺し』における『春雨物語』は、まさに村上春樹の小説を味わい尽くすにはそこに登場した作品を理解することが重要、という考えを代表するような例です。

興味がある方は、ぜひ上田秋成の『春雨物語』や『雨月物語』の世界を探索し、村上春樹作品を読み解く手がかりを見つけ出してはいかがでしょうか。


以下、村上春樹関連の記事をまとめたので、興味がありましたら、ぜひご一読ください。

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