【登場本一覧】『風の歌を聴け』に出てくる小説や作家まとめ

『風の歌を聴け』登場本一覧

村上春樹作品にはたくさんの実在する作家や小説のタイトルが登場します。それはストーリーとは直接的にはあまり関係ないものもあれば、重要な役割を果たすものもあります。物語を読み解くための手がかりになったり、単純に次に読む本を決めるためのブックガイドとして活用することもできます。

この記事では、『風の歌を聴け』に登場する本をリストアップし、各作品簡単に解説します。そして「もっと『風の歌を聴け』の世界を掘り下げたい「村上春樹がどのような本や作家に影響されてきたかを知りたい」というような方の役に立てれば幸いです。

また『風の歌を聴け』は本や読書というものにどれほど密接に結びついているかについても考えてみたいと思います。

『風の歌を聴け』と本の関係

村上春樹のデビュー長編小説 (実質的には中編程度の長さですが)『風の歌を聴け』を読んでまず多くの人が抱く疑問として、「デレク・ハートフィールドという作家は実在するのか?」という点でしょう。ヘミングウェイやフィッツジェラルドといったアメリカ文学を代表するような作家と同時代の作家として語られますが、実際にはデレク・ハートフィールドはこの小説の架空の存在です。とにかく『風の歌を聴け』には、実在の作家や小説を含め、多くの名前が登場します。

また、主人公の「僕」は作家を生業にしていますし、その相棒的な存在である「鼠」はおそろしく本を読まない人物ですが、「僕」の影響もあってか本を読むようになっていきます。「僕」が寝た三番目の相手として文学部の仏文科に所属していた女性が紹介されます。

今後の村上春樹作品には、もれなく小説や作家の名前が多数登場しますが、この第一作目からそのような傾向があったということです。

『風の歌を聴け』に出てくる本【一覧】

『風の歌を聴け』登場本一覧

それでは村上春樹のデビュー長編小説『風の歌を聴け』に出てくる本のタイトルや作家を紹介していきたいと思います。

村上作品には、一生に一度は読みたいというような世界的な傑作文学についての言及も少なくないので、ぜひ機会があればそのような小説に挑戦したいものですね。

1. 感情教育

感情教育

『ボヴァリー夫人』などで知られるフランスの小説家ギュスターヴ・フローベールの作品です。『感情教育』は1869年に出版された、『ボヴァリー夫人』『サランボー』に続くフローベールの三作目の長編小説です。岩波文庫と光文社古典新訳文庫で読むことができます。
【『風の歌を聴け』での登場】

僕が鼠と会話しながら読んでいた本がフローベールの『感情教育』で、僕は「生きてる作家になんてなんの価値もないよ」という名言も残しました。

2. 熱いトタン屋根の猫

熱いトタン屋根の猫

『熱いトタン屋根の猫』はアメリカの劇作家テネシー・ウィリアムズによる戯曲です。1958年にリチャード・ブルックス監督によって映画化もされています。小説の和訳は絶版で気軽に読める感じではありませんが、これまで和訳されたタイトルは『やけたトタン屋根の上の猫』や『やけたトタン屋根の猫』です。

【『風の歌を聴け』での登場】

僕がジェイズバーの洗面所に寝転がっていた四本指の女性を部屋まで送り届けて、翌朝目覚めた彼女にことの経緯を説明している最中に問いかけた質問が「ところで『熱いトタン屋根の猫』を読んだことあるかい?」でした。

3. 魔女

魔女

『魔女』は19世紀のフランスの歴史家ジュール・ミシュレによる小説で、いわゆる魔女狩りの対象となってきた「魔女」が主題です。ルネサンス期に弾圧されてきた民衆の女性の悲惨な姿を描いた作品。『風の歌を聴け』の中では篠田 浩一郎訳による一節が引用されており、すでに絶版ですが岩波文庫で上下巻が読めます。

【『風の歌を聴け』での登場】

第21章で、三人目のガールフレンドが死んだ半月後の僕が読んでいた本としてミシュレの『魔女』が登場します。このフランスの小説は、自殺してしまった彼女が仏文科だったことも関係しているのでしょうか。

4. キリストは再び十字架にかけられる

キリストは再び十字架にかけられる

『キリストは再び十字架にかけられる』は1950年代前半のギリシャの小説家ニコス・カザンザキスによる本で、1948年に出版されました。和訳も複数バージョン出ていて、今でも大学書林や教文館による出版のものは比較的手に入りやすそうです。

【『風の歌を聴け』での登場】

おそろしく本を読まない鼠がガードレールに腰かけて読んでいた本で、本作では「再び十字架にかけられたキリスト」というタイトルで登場します。

5. ジャン・クリストフ

ジャン・クリストフ

フランスの小説家ロマン・ロランによる長編小説で、1904年に全10巻で刊行された。ロランがノーベル文学賞を手にした作品としても知られる。ドイツを舞台に音楽家クリストフを主人公にした大作で、クラシック音楽に精通している村上春樹の音楽への興味の起源はもしかしたらこのあたりにあるのかもしれませんね。

【『風の歌を聴け』での登場】

作中に登場する架空の作家デレク・ハートフィールドの著作『虹のまわりを一周半』にて人生について語る箇所で、ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』が言及されています。

6. 戦争と平和

戦争と平和

『戦争と平和』は、村上春樹作品ではお馴染みのロシアの巨匠レフ・トルストイの長編小説です。『アンナ・カレーニナ』などと並んでトルストイの代表作の一つです。名作だけに岩波文庫、新潮文庫、光文社古典新訳文庫など楽しめる選択肢は豊富です。

【『風の歌を聴け』での登場】

作中に登場する架空の作家デレク・ハートフィールドが常々批判的だったとする作品がこのトルストイの『戦争と平和』でした。

7. フランダースの犬

フランダースの犬

『フランダースの犬』を知らない人はいないと思いますが、イギリスの女性作家ウィーダによる19世紀の傑作児童文学です。子どものときから世界文学全集を読んでいた村上春樹が『フランダースの犬』に思い入れを持っていても不思議ではありません。

【『風の歌を聴け』での登場】

トルストイの『戦争と平和』を批判していたデレク・ハートフィールドが一番気に入っていた小説として挙げられるのが『フランダースの犬』です。村上春樹自身が愛読していたとしても、作中ではあくまでデレク・ハートフィールドが好きな小説として登場します。

その他の作家など

そのほかにも作品名については触れられずに作家名だけ言及された人物として、ヘミングウェイフィッツジェラルドモリエールレイ・ブラッドベリが挙げられます。また、「ヘンリー・ジェイムズのおそろしく長い小説」(長い作品で言うと『ある婦人の肖像』や後期の三部作あたりでしょうか)や、序盤で鼠が読んだ本として「30歳ばかりのファッションデザイナーが不治の病にかかったと思い込んでいる女性が主人公の作品」も登場します。後者については特定できず、もし実在して特定できた方がいたら教えてください笑。

また、ハートフィールドの作品では火星や金星が出てきて、宇宙空間では特殊な時間の流れをしているというような趣旨の言及があるが、これは村上春樹も愛読するカート・ヴォネガットを連想させますね。

『風の歌を聴け』登場本: まとめ

『風の歌を聴け』と『熱いトタン屋根の猫』

以上が村上春樹のデビュー小説『風の歌を聴け』に登場する本や作家の一覧とその解説でした。読んでみようと思った本はありましたか?

ヘミングウェイやフィッツジェラルドは村上春樹が愛読してきて、大きな影響を受けてきた作家として有名ですが、ロシアの文豪たちへの造詣も深くトルストイについてもしばしば言及されます。今回紹介した『戦争と平和』あたりは読んでおいて損はない作品でしょう。テネシー・ウィリアムズも村上春樹ではたびたび登場する作家です。

【村上春樹の長編に登場する本や作家のまとめリスト一覧】

第1作『風の歌を聴け』に出てくる小説や作家まとめ

第2作『1973年のピンボール』に出てくる小説や作家まとめ

第3作『羊をめぐる冒険』に出てくる小説や作家まとめ

第4作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に出てくる小説や作家まとめ

第5作『ノルウェイの森』に出てくる小説や作家まとめ

以下、村上春樹関連の記事をまとめたので、興味がありましたら、ぜひご一読ください。

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