「交渉」と聞くと、みなさん何を思い浮かべますか?
堅苦しい雰囲気の中二人の人間が対峙し、あの手この手を使って自分が優位に立つ
みたいなイメージがありませんか?
交渉とは「立場が異なり自由に意思決定できる二者が合意を目指してやり取りするコミュニケーション」
このように考えるのが『武器としての交渉思考』の著者瀧本哲史さんです。
つまり必ずしも先ほど述べたようなイメージではなく、一種のコミュニケーションにすぎないのです。そして交渉といっても、さまざまな話し合いや頼み事も含まれます。
・欲しいものを買って欲しいというお願い
・同僚へ仕事をお願いするとき
・会社との給与等の条件交渉
・取引先との商談
・就活での面接
…etc
これまで日本を支えてきた「頭の良い偉い人が作った仕組みやルール」が、もはや通用しなくなってきているのです。
だからこそ今、若い世代の人間は、自分たちの頭で考え、自分たち自身の手で、合意に基づく「新しい仕組みやルール」を作っていかなければならない。
1. 相手の立場を理解する
「僕が可哀想だからどうにかして!」ではなく、「あなたがこうすると得しますよね」という提案をするべきなのです。
このように相手の立場に立つことが交渉において最も重要な要素の一つです。まず主語を相手として考えて、「あなたがこうすると得しますよね」もしくは「もしくはあなたがこうしないと損しますよね」という視点で話します。
ついつい「こうしてほしい」「こうしたい」という自分本位のお願いや要求をしてしまいがちです。まずはここから気をつけましょう。
2. 具体的なメリットを提示する
どんなに素晴らしい夢や希望を語ったところで、相手に対して具体的なメリットを提示できなければ、人を動かすことはむずかしい
「1. 相手の立場を理解する」の次のステップですが、具体的でわかりやすく相手が現実感を持って飲み込めるメリットや利益を提示してあげることがポイントとなります。
本書で示されている発展途上国への募金活動の例がわかりやすいですが、「アフリカの子どもたちを救えるのはあなたしかいません」と訴えるよりも、「〇〇円で子どもひとりの1ヵ月分の食事が供給できます」と提示した方が大きな効果があります。
あなたの提案や頼み事が相手にとって具体的に何を与えるのか、それを明確に示してあげることが大切です。
3. できるだけたくさん相手の主張を聞く
「どれだけ相手の主張を聞けるか」の勝負
交渉というと、どれだけ自分の主張が通るかという点にフォーカスされがちですが、実はその逆が重要です。
しっかり相手の求めているものを理解しないと、双方が満足して合意できるものも、破談に終わってしまう可能性があるのです。
こんな例があります。
これはなぜだと思いますか?
正解は「オレンジの皮と中身を分け合った」のです。姉はオレンジを食べたかったのですが、妹はマーマレードを作るのに皮が必要だったわけです。
これはとても身近な例でわかりやすいですが、一見利害が一致していない場合でも、しっかり相手の主張を聞けば両者のニーズが満たされる場合もあるのです。
4. ちょうどいい合意点を探る
多すぎもなく、少なすぎもなく、ちょうどいい合意点を探っていく
このように「ちょうどいい合意点」で交渉を成立させることも重要なポイントの一つです。特に自分が強い立場にいる場合は注意しましょう。有利な立場にいる場合、どれだけでも相手からむしり取れるというケースもあるかもしれません。
その場限りの関係ならそれでもいいかもしれませんが、現実ではその相手は存在し続けるわけです。そしてその相手が自分の受けた仕打ちを、他人に悪評判として流してしまう可能性だって十分にあるのです。
長期的な目線で、物事は継続していくという観点から交渉を行いましょう。
5. バトナを知り、強いバトナを持つ
「バトナ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?ぼくは本書を読むまで、聞いたことがありませんでした。
バトナとは「Best Alternative to a Negotiable Agreement」の頭文字をとった言葉で、「相手の提案に合意する以外の選択肢のなかで、いちばん良いもの」という意味だと瀧本さんは説明します。
簡単にいうと、「複数の選択肢を持つ」ということです。
複数の選択肢がない状態では、自分が持ちかけられている提案が良いものなのか悪いものなのかの判断が難しくなってしまいます。
例えば中古パソコンを売る場合、A店では8万円で買い取ると言います。少しでも高く売りたい場合、ここで売るべきかどうかの判断は難しいでしょう。では何をするかというと、他の店でも売れる金額を確認しますよね?
B店では7万円、C店では9万円という選択肢があれば、バトナはC店の9万円ということになります。
このC店での売却条件のような強いバトナを持っておけば、他での交渉が有利に進められます。A店でもこのバトナを利用すれば、「じゃあ9.5万円で」という話になるかもしれません。
6. 相手側のバトナを分析する
つねに「相手側の選択肢、相手側のバトナはなんなのか?」と考える
自分だけでなく、相手側にも複数の選択肢、強いバトナがある可能性は十分にあります。なので相手のバトナをしっかり分析することが重要です。
そのためにはまず、「この交渉が決裂したらどうなるか」を考える必要があると言います。「その後何が起きるのか」「自分以外と交渉成立するのか」などを考えることで、相手のバトナを把握しましょう。
7. 「代理人」役を演じる
「給料をあげてくれ」「家賃を下げてくれ」というような交渉は、自分にはハードルが高いと思ってしまう方もいるでしょう。そんなときは、
「自分のことだとは思わずに、代理人として交渉を頼まれた」とマインドを切り替えてみることです。
と瀧本さんは言います。
自分のことだと思わないだけで、余計なプレッシャーを感じることなく、客観的に物事を見れるからです。
8. アンカリングを使いこなす
「バトナ」もそうでしたが、この「アンカリング」という言葉もあまり馴染みがないかもしれません。
「最初の提示条件」(これを交渉用語ではアンカーと呼びます)によって、交渉相手の認識をコントロールすること
瀧本さんはアンカリングについてこのように説明します。これだけだとピンとこないと思うので、わかりやすい例を紹介します。これは本書で紹介されているケーススタディを簡潔にまとめたものです。
選挙対策委員長は、その写真家に電話してこう伝えました。
「良い知らせと悪い知らせがある。良い知らせは、君の写真が大統領候補の選挙キャンペーンで使われる最終候補に残った。大統領も君の写真を実に気に入っている。悪いニュースは、候補は君の写真だけじゃないことだ。ここで君がチャンスを掴むためには政治献金をする必要がある。相場的には5000ドルほど必要だ。準備できるか?」
写真家はそんな大金は払えないと答え、選挙対策委員長は「ではいくらなら出せる?」と尋ねました。すると写真家は「250ドルくらいなら」と答えました。
9. 譲歩を上手く使う
譲歩というのも、交渉においてはいざというときに効果を発揮します。
交渉における譲歩とは、自分の条件の一部を諦める、あるいは、相手にとって得となる別の付加価値をつけることを言います。
譲歩という言葉は一般的でわかりやすいですが、この譲歩には2つの大きなポイントがあります。
①無条件の譲歩は絶対にしない
②「相手にとっては価値が高いが、自分にとっては価値が低い条件」を譲歩の対象にする
①についてはその言葉通りで、自分も譲歩する(何かを諦める)のだから、あなたも何か譲歩してくださいという条件を提示することです。
②については、自動車ディーラーなどでよく見られるものです。「これ以上の値下げは難しいので、オプションの付属品をお付けします」というようなことってありますよね。
これはメーカーからタダ同然の値段で仕入れているので自動車ディーラーからしたら「自分にとっては価値が低い条件」になるわけです。しかし、客側の目線では「お得でラッキーだな」と感じるわけです。
これが上手い譲歩の方法です。
『武器としての交渉思考』を行動に移す
『武器としての交渉思考』から学ぶべき、明日から始めたい行動内容は
頼み事をするときには、「相手にとっての具体的なメリットを提示する」
です。
「2. 具体的なメリットを提示する」でも紹介しましたが、自分本位の交渉ほど上手くいかないものはありません。相手にとってどんな良いことがあるのかをわかりやすい方法で提示してあげましょう。
最後に
いかがだったでしょうか。上記で紹介した交渉術は、日常からビジネスシーンまであらゆる場面で使える汎用性の高いものだと思います。お願い事や頼み事、要求をしたいときなどは、ぜひ一つずつ意識してみてください。自分にとっても相手にとって良い結果が待っているはずです。
本書『武器としての交渉思考』は瀧本さんのエッセンスが詰まっていて、上記で紹介した交渉術はほんの一部にすぎません。交渉以外でも重要なテーマが取り上げられています。気になったという方は、ぜひご一読してみてはどうでしょうか。
それでは楽しい読書ライフを!
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