『シン・ニホン』でぼくが今すぐできること【国語・数学・知覚】

『シン・ニホン』安宅和人

ぼくは『シン・ニホン』の著者である安宅和人さんを、落合陽一さんと小泉進次郎さんの企画である『平成最後の夏期講習』を見て知りました。

それ以前にもビジネスの世界では知るひとぞ知るという方であり、『イシューからはじめよ』というベストセラーの著者としても有名な方だったと思うのですが、ぼくはその『平成最後の夏期講習』での講義を聞いて話に夢中になったのが安宅さんを知るきっかけとなりました。

そして兼ねてから気になっていた話題書『シン・ニホン』をついに読みました。読むハードルの高さと書かれているであろう重要な内容との間に葛藤があり、なかなか読み始めることすらできていませんでしたが、ついに読み終えることができました。

正直に言うと、ものすごく共感し、すぐに実践したいという内容もあれば、部分的にしか理解できない箇所もありました(もちろんぼくの知識不足です)。しかし、日本の今後を良くしていこうという一貫した姿勢と、具体的な解決策には感動すら覚えましたし、できる限り多くの「少しでも日本の未来を考えている」人にこの本を読んでもらいたいと思うようになりました。

しっかり各論を理解することなく、本を紹介することには迷いがありました。それでもぼくは、本書終盤の安宅さんのこの言葉で『シン・ニホン』を紹介することに決めました。

もしこの本の価値を感じ、一部でも共感してくださったのなら、「#シンニホン」とつぶやいたり、書評でもなんでも、周りの人に手に取るようにすすめていただけるととてもうれしい。

この「書評でもなんでも」という部分にぼくの心が反応したのだと思います。

というわけで、安宅和人さん著『シン・ニホン』から「まず個人レベルでできること」というテーマで、個人レベルから学ぶべきこと・実践すべきことを紹介していきたいと思います。

1. 今の日本の立ち位置

今、日本だけでなく、世界中で圧倒的なスピードで変化が起きています。それはテクノロジーの発展によりところが大きいのですが、その変化のスピードについていけず、見て見ぬ振りをしている人がたくさんいます。

しかし『シン・ニホン』の冒頭で安宅さんは、そんな変化が落ち着く日など来ないと主張した上で、

振り回されるの側に立つことをやめる、臭いものに蓋をすることはやめる

という姿勢を提示しています。

現在、注目を浴びて久しいAI(人工知能)の発展が期待されています。そんな「AI」という言葉が一人歩きしているように感じます。どんな家電やデバイスにも「AI機能搭載」というような売り文句が付け加えられているのをよく目にします。

安宅さんは本書で、現代において「正しいAIの理解とは何か」についてこう説明します。

早い計算環境、もしくは計算機(コンピュータ)に、情報を処理したりパターンを学習したりするための情報科学技術(アルゴリズム群)を実装し、最終目的に即した膨大な訓練を与えたものだ。

少し難しく感じるかもしれませんが、ようは、「計算機xアルゴリズムxデータ=AI」というわけです。

計算機、情報科学の進化、ビッグデータによる時代の革新はすでに起きていて、「データ x AI時代」の第1フェーズはすでに終わろうとしているというのです。

18世紀から始まる産業革命のフェーズを3つに分けて考えるとこのようになります。

第1フェーズ: 新しい技術やエネルギーがバラバラと出てきた時代
第2フェーズ: 新しい技術が実用性を持ち、さまざまな世界に実装される時代
第3フェーズ: 新しく生まれてきた機械や産業がつながり合って、より複雑な生態系が生まれる
この産業革命時に日本はどうだったかというと、江戸時代の後半で鎖国状態にあり、第1フェーズでは何もしていなかったという状況でした。しかし、第2フェーズでは西洋文明の吸収と産業かを進め、Panasonic、SONY、TOYOTA、HONDA、Nikonなどで知られるように世界的にモノづくりでぶっちぎりました。
さらに第3フェーズでも、新幹線やファミコンなど複雑な系を生み出したのです。
その他にも仏教などを例にとり、日本で生まれた宗教でないにも関わらず、世界でももっとも仏教が発展した国の一つであることに間違いありません。
つまり、すでにGAFAで知られるアメリカ企業のプラットフォームなどが世界を席巻し、日本にも隙間がないほど普及しているように、たしかに日本は第1フェーズが苦手です。しかし、第2、第3フェーズにこそ日本の強みがあり、すでにある技術を応用し、さまざまな分野で実装していくという点においては引けをとらないのです。
ただ見守っているだけでは、第2、第3フェーズでも取り残されてしまうでしょう。このような過渡期において、必要なのは人材の育成です。
安宅さんは本書で、国家予算の分配内容や教育システムの刷新案をはじめとして「日本大改革」とも呼べる提案をしています。
日本を形成する一人として、「まずぼくができることはなんだろう」という一番末端の部分でやるべきことを『シン・ニホン』から考えてみました

2. データ x AI時代の必要スキル

データ x AI時代にはどのような能力が必要かというと、プログラミングという答えが返ってきそうなものです。しかし安宅さんはプログラミングは必須だとしつつも、以下の3つのスキルが必要だと言います。

・データサイエンス力
・データエンジニアリング力
・ビジネス力
データサイエンス力とは統計数理・情報科学系の知恵を理解し活用する力です。データエンジニアリング力は計算機環境をうまく使って実装・運用をする力です。プログラミングはこのデータエンジニアリング力の一部分にすぎません。ビジネス力とは深いドメイン知識(専門分野での知識)を基に課題を整理し、サイエンスとエンジニアリングを結びつける能力です。
この3つのスキル全てを高レベルで保持することは難しいので、最低限のレベルは維持しつつ、いずれかに特化した人材同士が補完し合っているのが実際の現場の状況だと言います。
データ x AI時代に必要なスキルがわかったからと言って、その能力が簡単に身につけられるかと言ったらそうではないと思います。ぼくも現実を突きつけられ、唖然としました。
物事には段階があり、魔法のようにこれらのスキルが身につく近道なんてないと思うので、まずは土台となる基礎的なスキル・知識を学ぶことから始めるべきだと思っています。
そのためにはまず、国語であり数学です。

3. 国語と数学の再構築

リベラルアーツという言葉を近年聞くことが増えたと思います。しかしこの「リベラルアーツ」の本来の意味を理解しているかと言われたら、微妙です。

安宅さんが言うように、ビジネスマンにとっての基礎教養という意味合いで使われることが多いのではないでしょうか。しかしもともとは、2000年以上も前に広大ギリシアで生まれた概念で、奴隷を使う側の自由民求められていた基礎教養、基礎的なスキルこそがリベラルアーツ(直訳すると自由の技法)であったそうです。

このリベラルアーツがヨーロッパで「自由七科」として発展しました。七科とは、音楽・算術・幾何学・天文学から成る科学的な四科と文法学・論理学・修辞学で構成される人文学的な三学のことを指します。

昨今、英語などで世界とコニュニケーションをとる力やテクノロジーを社会に反映させるプログラミング能力などが注目を浴びていますが、すべてのスキルや知識の根幹にあるのがこの自由七科ともいえます。そして土台となるのが日本で言うところの「国語」と「数学」なのです。

データ x AI時代のスキルセットのうち、特にビジネス力とデータサイエンス力はこの「国語」と「数学」の基礎素養が大きく関係してくるのだと感じます。

安宅さんはビジネス力を

先入観に引っ張られず事象をありのままに受け止める力、論理的にものを考える力、いろいろな入り組んだ事象の中で異質性を見極める力、整理して伝える力などが複合的に絡んでいる。

と説明し、サイエンス力に関しては

ベースになるのは統計数理と数学、特に線形代数、微積分の力だ。

まず身につけるべきは、虚心坦懐に現象を見る力、その上で分析的、論理的に物事を考え整理する力だ。

と説明します。このような必要事項はなんとなく言ってることはわかる。でも日々実務経験を積んでいないとパッとしなかったり、数学IIくらいで止まっているぼくのような典型的な「文系」には線形代数、微積分という言葉すら理解できなかったりするかもしれません。

しかし、ここで重要なのは、「そんなの自分に関係ない」ではなく、少しでも理解しようとする姿勢だと思いますし、ゼロからでもそのような基礎素養を学んでいくことからしか何も進まないと思うのです。

ビジネス力の土台は、国語的な三学(文法学・論理学・修辞学)にあるとわかりますし、サイエンス力は数学をベースに考える必要があるとわかった以上、学ぶ方向性は見えてきました。

もちろんデータ x AI時代においてゴールは人それぞれだと思いますが、最初の基礎の部分学ぶべきことは共通しているのではないでしょうか。

3-1. 国語を学ぶ

国語と言っても既存の教育システムの中で学ぶ内容では不十分です。

データ x AIリテラシー以前の能力として、分析的に物事を捉え、筋道立てて考えを整理し、それを人に伝える力の養成が必須

だとしつつも

しかし正直に言えば、現在、日本では職場でこの伝える力から鍛え直さなければならないという事態が日常化している。

と安宅さんは言います。リベラルアーツの基礎である三学(文法学・論理学・修辞学)を学ぶべきなのに日本の国語では「空気を読む能力」を鍛えているにすぎないのです。

国語で学ぶべきは以下の通りだと提案しています。

・分析的、構造的に文章や話を理解し課題を洗い出す (理解・解題)

・論理的かつ建設的にモノを考え、組み上げる (構成)

・明確かつ力強く考えを口頭及び文章で伝える (表現・伝達)

学校で国語を学んできて、このような学ぶ目的や本質的な部分を意識したことは一度もありませんでした。個人的な問題もあるかもしれませんが、その根本の部分を学ぶ機会もなかったような気がします。

直接的におすすめされているというわけではないと思いますが、本書の中で言及されている書籍を2つほど紹介しておきます。

ぼくも現在読み進めている本ですが、基本的には体系立てて論理的に物事を考えてアウトプットしようというテーマの本です。この2冊を読んだだけで十分というわけではないと思いますが、第一歩として読んでみてはいかがでしょう。

3-2. 数学を学ぶ

国語で学ぶ分析的な思考力・表現力と同時に必要なのが、数理的基礎力だと言います。

現在世界的に注目を集めるSTEAM教育の提唱者であるGeorgette Yakmanさんは科学・技術・工学・芸術はすべて数学の要素に基づいていると語っているそうです。

STEAMとは?
Science: 科学
Technology: 技術
Engineering: 工学
Art: 芸術
Mathematics: 数学

の頭文字をとってものです。

さらに「新しく読み書きソロバンレベルの素養に加わる情報科学は、数学の言葉で書かれている」と安宅さんは言います。

本書では、高校までに学んでおきたい数理・統計素養がリストアップされています。(「n/a」となっているのもは対応科目がないことを指します)

・統計数理の基礎となる分布、ばらつき、確率的な概念 (数I、数B)
・三角関数、指数関数ほか代表的な関数 (数II)
・二次曲線 (数III)
・数列 (数B、数III)
・空間座標 (数B)、複素数平面 (数III)、極座標的な概念 (数III)
・線形代数の基礎となるベクトル (数B)、行列 (n/a)、内積・外積 (数B・n/a)
・極限 (数III)、微分・積分の基礎概念 (数II)とその図形的な意味 (数III)

なんのこっちゃという世界で非常に恥ずかしいですが、ぼくもまずは一歩と思って中学数学から振り返りを始めようといくつか書籍を買いました。

現代の知の巨人とも呼ばれる池上彰さんや佐藤優さんは『僕らが毎日やっている最強の読み方;新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意』『人生に必要な教養は中学校教科書ですべて身につく-12社54冊、読み比べ』などで、中学や高校レベルでもじゅうぶんに基礎知識が学べるという立場でさまざまな書籍を紹介してくれています。それも参考にしながら勉強を進めていきたいと思います。

また気になって買った西成活裕さん著『東大の先生! 文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!』が面白くて、数学に興味を持つのにもってこいの一冊だと思いました。数学を学ぶ意味や中学レベルの数学を効率的に教えてくれるので、これをきっかけに中学数学の参考書や高校数学の内容に進んでいければと思っています。

まずは基礎の基礎からですが、数学と国語とも、学ぶ目的を意識した上で勉強していきたいものですね。

4. 「知覚」を広げる訓練

国語と数学などの基礎素養以外にも、データ x AI時代に必要な土台があります。

それが「知覚」です。データ x AIの力を解放し、あらゆるものが自動化されても人間の役割はなくなりません。それは、

自分なりに見立て、それに基づき方向を定めたり、何をやるかを決めること、また問いを立て、さらに人を動かすことだ。

そしてそのためには、

さまざまな価値やよさ、美しさを知覚する力であり、人としての生命力、人間力

が必要になると安宅さんは推測しています。

当たり前の話ですが、知覚なくしてインプットはありませんし、インプットがなければアウトプットも生まれません。

ではより多くのものを知覚するためにはどうすればよいかというと、深い知見と多くの経験が鍵になります。知見がないために知覚できないというもったいない例が、以下から感じ取れると思います。

たとえば大半の人はアインシュタイン方程式の美しさどころか意味すらわからない。一般相対性理論を理解できるだけの物理学、その基礎となる数学についての深い知見と訓練がかけているからだ。

もちろんアインシュタイン方程式の美しさを知るために数学や物理学を学ぶのではありません。しかしこれはあらゆることに言えることで、「意味を理解していないことは知覚できない」のです。

安宅さんはこの「知覚」を鍛えるために重要な2つのマインドセットを提示しています。

4-1. 知覚を鍛えるマインドセット1: 直接体験する

1つはハンズオン(hands-on)、ファーストハンド(firsthand)の経験を大切にすることだ。

ハンズオン(hands-on)というのは「手を触れる」というような意味で、ファーストハンド(firsthand)は「じかに、自分の目で」という意味を持ちます。つまり自分で動いて直接的な体験をたくさんすることで知覚は鍛えられるのです。

明らかに間違っていること以外は試してみる、手と足を動かし、頭も動かすことが大切である。

ニュースなどを含め人から聞いたことをそのまま鵜呑みにするのではなく、疑い、自分の目で確かめることが重要です。自分の手で体験してみるのです。そうして自分が何を感じたか、どう考えたかというのがとても高い価値となります。

4-2. 知覚を鍛えるマインドセット2: 言葉にできないものを認識する

知覚を鍛えるために必要なもう1つのマインドセットは、言葉、数値になっていない世界が大半であることを受け入れることだ。

目に見えるもの、数値化されているものというのは非常にわかりやすいものです。言語化、数値化しているものが世界の大半を占めると思ってしまいがちですが、逆だと言います。

言葉にならない世界が大半だと受け入れ、まずは感じることを幅広く受け止められるようにすることが大切だ。

この「言葉にならない世界」は人の気持ちやポカンと浮かんだアイデアのようなものも含まれるでしょう。それにまずは気づくことです。気づいた上でなんとか言語化するなりビジュアルにするなりの表現ができれば、よりいっそう知覚は鍛えら、人間としての価値も高まります。

安宅さんが「物事の意味合いを深く、何度も考える」と言うように、「この気持ちはなんなんだろう」「なぜ起きたのだろう」「じゃあ何が言えるのか」などと問いを深めていくことが一つ手段としてあるのではないかと思います。

5. 最後に

とにもかくにも実践です。「この本を読んで終わり」では何も世界は変わりません。まず一人から。そして周りの人に。良い影響がそんな形で広まっていくのが理想でしょう。

何かを始める、もしくはリスタートするには「遅すぎるなんてことはない」と思っています。今からでも中学レベルの数学を学ぶことに抵抗はありません。直接的にさまざまな体験をするという重要性も学びました。中長期的に「データ x AI時代」に通用する能力を身につけたい、少なくともそういう意識を持ちたいと思っています。

『シン・ニホン』の内容自体はそんなに簡単なものではありませんが、語り口はとてもわかりやすく噛み砕かれているように感じます。少しでも興味がある方は、ぜひご一読をおすすめします!

最後は本書でももっとも刺激的だったこの言葉で締めたいと思います。

学校、仕事、または目先の研究という単一の畑から、人生で必要なもののすべてを刈り取ることはできない。時間的にも日に8時間、週5日、40時間の労働は、1週間、168時間の24%に過ぎない。残りの4分の3をどのように使うかで人生は決まる。

 

それでは楽しい読書ライフを!

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