キャリア戦略のための「キャラ設定」のやり方

キャリア戦略のためのキャラ設定

自分に合った仕事を見つけたり、希望の会社に就職したり、ステップアップのために転職したり。そんなキャリア戦略のために必ずやっておきたいことが「キャラ設定」です。「キャラ設定」は自分のブランディングを指します。

この「キャラ設定」のために活用するのが「ブランド・エクイティー・ピラミッド」です。ブランド・エクイティー・ピラミッドは実際にビジネスの世界でブランドを設計する際に用いられるフレームワークです。このブランド・エクイティー・ピラミッドをキャリア開発に応用する形で紹介しているのが、P&Gで活躍し、あのUSJを復活へと導いたマーケター森岡毅さんです。

ブランド・エクイティー・ピラミッドを使って「キャラ設定」しておけば、キャリア選択で迷わなくなります。上司や同僚、面接官などにありのままの自分を見せることができますし、圧倒的に「生きやすく」なります。

ここでは、森岡毅さんの『苦しかったときの話をしようか』をもとに、「キャラ設定」をしておくメリット「キャラ設定」のためのブランド・エクイティー・ピラミッドの作り方ポイントをわかりやすく解説していきます。

キャリア戦略における「キャラ設定」のメリット

「キャラ設定」とは自分のブランドの設計であり、いかに自分の見せ方を工夫するかというふうにも言えます。例えばペン一本を見ると、横一線に見えます。しかしペンを高速回転させると、丸い円のように見えます。

嘘は決していけませんが、世の中に自分をどう見せていくか、売っていくかというのはキャリア戦略を考える上でとても重要です。ではブランド・エクイティー・ピラミッドを使って「キャラ設定」をすると、キャリアにおいて具体的にどんなメリットがあるのでしょうか。

メリット1. 緊張から解放される

面接やプレゼンなどの場で緊張から解放される人生を歩むことができる。これが「キャラ設定」をしておくメリットの一つだと森岡さんは言います。一度設計した自分のブランドに基づいて日々行動し、発言するので自分の中に一貫性が生まれます。

「自分」はもう決まっているので、相手によって話す内容を大きく変える必要がありません。これはやればやるほど板についてくるもので、心にゆとりが生まれどんどん緊張しなくなるそうです。

「キャラ設定」と聞くと、自分を偽るというようなネガティブな意味合いを連想してしまう方もいるかもしれませんが、ブランド・エクイティー・ピラミッドでの自分のブランディングでは嘘は一切つきません。むしろありのままの自分を相手に伝えることができるようになるのです。

メリット2. キャリア戦略の指針となる

一度「キャラ設定」をしておくことで、「自分のキャリア戦略の最重要な指針として機能する」のだと言います。どんなスキルを開発すべきなのか、どんな業界でどんな実績を積んだ方がブランド(自分)は強くなるのかが明確になるので、就職・転職などのキャリア選択の判断にも迷いません

メリット3. 理想に近く確度を上げる

「キャラ設定」の3つ目のメリットを森岡さんはこう解きます。「最初は理想の割合が多かった設計図にも次第に現実の実力が追いつき、結果として自分の名前で勝負できるビジネスパーソンになれる確率を激増させる。」

この言葉の通り、最初に行う「キャラ設定」は理想も含んだもので、必ずしも現実の自分の姿とは一致しません。しかしなりたい姿を明確にすることで、現実と理想のギャップを認識し、そのギャップを埋めるための行動指針が決まります。あとはそれに基づいて日々行動するだけで、自分のあるべきブランドを築き上げることができるのです。

「キャラ設定」のためのブランド・エクイティー・ピラミッド

では実際にブランド・エクイティー・ピラミッドを使って、キャリア戦略に有効な「キャラ設定」の方法を解説していきましょう。「コミュニケーションはマーケティングそのものだ」という森岡さんのマーケターならではの言葉があります。

就職活動・転職活動というのはコミュニケーションに他なりません。面接で話す人事や役員、OB/OG訪問で会う先輩社員などとの会話で、採用の合否が決まると言っても過言ではないでしょう。さらに広い視点で捉えると、まさに自分を売り込む場を決めて、自分を上手く売り込んでいくというのはマーケティングそのものです。

マーケティングの基本は、誰に伝えるか(WHO)→何を伝えるか(WHAT)→どう伝えるか(HOW)という流れです。実際の企業や商品のブランディングに活用するブランド・エクイティー・ピラミッドをキャリア開発に応用する場合も、このWHO→WHAT→HOWの考え方は必須です。

ブランド・エクイティー・ピラミッド
ブランド・エクイティー・ピラミッド (出典: 森岡毅『苦しかったときの話をしようか』p.165)

上の図のように、WHO→WHAT→HOWの3要素に、攻略すべき市場という要素を加えた4点が「キャラ設定」のためのブランド・エクイティー・ピラミッド設計のプロセスとなります。

それでは一項目ずつ解説していきます。

1. 攻略すべき市場を決める

まずはあらゆる選択肢の中から、「戦場」を規定する必要があります就職活動における市場は、職能(職種)業界などの切り口で規定できます。マーケティング業界や弁護士業界と定義したり、自動車業界、観光業界などの業界で市場を設定することもできます。

この市場を絞りこまなくては、自分の時間や体力といった資源が分散してしまいます。この市場設定は「目的と自身の経営資源に照らして、広すぎず、狭すぎずが基本となる」と言います。新卒での就職活動の場合は、数えきれないほどの会社がある中で、足を運んだり応募できる数は限られます。

適切な選択肢に適切なエネルギーを注ぎ込むために、まずは市場を定義することが重要なのです。

この市場を決めるベースは、自分の「軸」になります。この「軸」の見つけ方も本書で紹介されており、以下の記事に簡潔にまとめたので、こちらも参考にしてみてください!

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2. WHO「誰に」

次にWHOつまり「誰に」買ってもらうのかを考える必要があります。ブランディングにおけるWHOとはターゲットであり、ターゲットは戦略ターゲット(ST)コアターゲット(CT)の二つに分けられます

・戦略ターゲット(ST): ブランドが選ばれる確率を高めるために経営資源(広告宣伝費など)を少しでも投下する広いくくりのこと

・コアターゲット(CT): 戦略ターゲットの中で更に集中して予算を投下する、より狭いくくりのこと

ではこの二つのターゲットをキャリア戦略の「キャラ設定」に当てはめるとどうなるでしょうか。例えば、今からA商事という会社の面接に向かうとして、最重要なコアターゲットは言うまでもなく面接官でしょう
ではもう少し広いくくりの戦略ターゲットは誰になるかというと、これは「あなたとの接点を持つ可能性のある人たちすべて」であるべきです。メールや電話で対応してくれる窓口の人や、OB/OG訪問での先輩ももちろん戦略ターゲットです。会社近くのカフェなどにも戦略ターゲットがいる可能性も考えるべきでしょう。
入社後の社内でもターゲットを考える必要があります。コアターゲットは自分を直接評価する上司やその上司ですし、戦略ターゲットは評価者に影響を与える無視できない人たち(他部署や同僚など)になるはずです。
ターゲットを明確にすることで、「選択と集中」ができるようになります。自分の限られたリソースを中途半端に分散させずに、要所を見極めて集中投下する必要があるのです

3. WHAT「何を」

ターゲットを規定したら、次はWHATつまり「何を」買ってもらうのかを考えます。これは自分の価値ともいえるでしょう。その価値(なぜその商品を買うのか、なぜ自分のことを採用するのかなどの理由)のことをブランドの「便益(ベネフィット)」といいます。この便益は目には見えないものがほとんどだと言います。

例えば、森岡さんが再建したUSJのハリーポッターのアトラクションを想像してみましょう。これの便益は、アトラクションそのものではないと言います。お客さんはワクワクやドキドキという「感動」にお金を払っているのです。つまりこの場合のハリーポッターのアトラクションは次の項目で紹介するHOWにすぎません。

就職活動に置き換えてみると、これは自分がその企業に採用されるだけの理由は何かを考えることになります。もし自分に社交的で明るい話好きという特徴があるとしたら、「誰とでもすぐに仲良くなれる」という便益を提示する必要があります(とてもわかりやすい言葉を例にしているので、これだと弱いでしょう)。これを「多くの人と一緒にいるのが楽しい」としてはいけません。この便益はあくまでWHOで設定したターゲットにとってのベネフィットだからです。

上の図のピラミッドにも書いてあるRTBもWHATのポイントとなります。RTBというのはReason To Believeの頭文字をとってもので、要は「その便益を信じられるだけの根拠」ということになります。森岡さんが紹介しているレスリングの吉田沙保里選手の「霊長類最強」という便益も、「世界大会16連覇」という圧倒的な根拠に裏づけされています。数字で示せる実績や資格などはRTBになりやすいものです。

この便益とRTBは掛け算で考えるべきです。どちらかが弱すぎては訴求力がなくなってしまいます。就職活動では、RTBの材料をこれまでの人生の中から探すことになるでしょう。

4. HOW「どうやって」

最後はWHATで定義した自分の便益を提供するための手段を明確にする必要があります。WHATが目に見えにくいものだったのに対し、目に見えるブランド要素はほぼすべてHOWだといいます。先ほどのUSJのハリーポッターのアトラクションもそうですし、トヨタの車もグリコのポッキーもすべてHOWつまり「便益を届けるための手段」なのです。

HOWもキャリア戦略に置き換えてみましょう。WHATで「リーダーシップに優れる」ことを便益とした場合、そのリーダーシップを発揮する具体的な方法をWHOのターゲットに思い浮かべやすいようにHOWで定義する必要があります。「困難な状況でも人のモチベーションを上げることが得意」とか「感情に流されずに正しい判断をする姿勢が常に一貫している」というようにWHATを具現化するスタイルを設定するといいそうです。

HOWで重要なもう一つの要素が「ブランド・キャラクター」です。上の図のピラミッドの最下段にも見て取れるように、「そのブランドを擬人化して性格を設定する」ということです。これまで言い続けてきた「キャラ設定」の狭義ではこの「ブランド・キャラクター」を指します。自分のキャラクターを形容詞で定義するのです。例えばここで「積極的」とするのか「冷静沈着」とするのかでは、企業によっても受け取り方は異なるでしょう。

この4点がブランド・エクイティー・ピラミッドを構成する要素であり、「キャラ設定」のプロセスです。本書では20代の頃に森岡さんが作成したブランドの設計図や、就活生から相談を受けて森岡さんが指導した設計図の例が掲載されています。

 

ブランド・エクイティー・ピラミッド設計のポイント

ブランド・エクイティー・ピラミッド設計の流れを理解したら、作成する際のポイントも整理しておきましょう。以下ではブランド・エクイティー・ピラミッドを構成する4つのポイントを紹介します。

1. 価値は強いか?

この「価値は強いか?」というのが最も大切なポイントだといいます。WHOで定めたターゲットにとって、このWHATの部分が強い分だけあなたを採用するメリットが大きくなります。「強みの見つけ方」でも紹介したように、Tの人(思考力に優れた人)やCの人(対人能力に優れた人)、Lの人(統率力に優れた人)は多くの企業が欲する人材です。

よくどう伝えるかより何を伝えるかが重要と言いますが、それと同様にまずは「己の価値がシンプルに強く定義されているか」を考えましょう。

2. 信じられるか?

どれだけWHATが強くても、それを相手に信じてもらえなければ意味がありません。それを信じてもらうためには、RTBのような客観的な根拠が必要になります。例えばリーダーシップを売りにしている人は、「野球部キャプテンとして全国大会優勝に導いた」というエビデンスがあれば、これ以上ないほどのリーダーシップの証明になります。

これまでの学生生活や自身のキャリアの中で培ってきたことを、強いRTBとして語れるように整理しておくことが大切です

3. 際立っているか?

新卒での就職活動でも転職活動でも、大勢の候補者と比べられるわけですから、相手に「おっ!」と思わせる何かが必要です。便益の強さで際立てれば一番良く次に便益を信じさせるRTBの内容で際立つことが重要だといいます

1995年に就活をした森岡さんは、面接時に「阪神・淡路大震災でのボランティア経験」を話す学生を山ほど見たと言います。面接官からすると辟易するほど同じことを言う学生を際立って評価するはずもありません。

ここで勘違いしてはいけないのが、差別化を意識するあまりネガティブな目立ち方をしてしまうのは避けなければなりません。あくまでWHOで設定したターゲットに選ばれるための差別化が必要です。

4. 自分の本質と一致しているか?

そして最後のポイントは「自分の本質と一致しているか?」です。自分を偽って良く見せようとして、もし採用されたとしてもその後の人生が幸せかと言えば、疑問が残るでしょう。

この森岡さんが提示する「キャラ設定」は、自分の特徴を活用するキャリア戦略です。そして本書でも書かれている通り、自分の武器となる強みは、たいていの場合自分の好きなことから生まれます。つまり別人格で自分のブランドを設計してしまうと、待ち受けるのは最悪な結果でしょう。

一方で今の自分の現実をそのまま反映する必要はないということを覚えておきましょう

自分の理想や「こうなりたい」という姿を反映してももちろんいいのです。もちろんRTBなどで嘘をつくのはよくありません。市場や自分のブランド・キャラクターを決める際にも自分とは別人格を演じることも控えた方がよいでしょう。しかし、この記事の冒頭で紹介したように、ペンは回すと円に見えるのと同じく、自分も見せ方によって受け取る側の印象は大きく異なるのです。

方向性さえ間違っていなければ、少し遠くの「キャラ設定」をしても追いつこうとする自分がいるはずです。むしろ成長速度は上がるでしょう。森岡さんは「10年先の理想の自分を想像して設計して欲しい」とアドバイスしています。


以上が「キャラ設定」をしておくメリット、「キャラ設定」のためのブランド・エクイティー・ピラミッドの作り方とポイントでした。あとは徹底的にこの設計図に従って、日々行動をしていくのみです。そして結果を積み上げていけば、理想の自分に近づけるはずです。

本書『苦しかったときの話をしようか』はキャリア戦略を考えたいすべての人が必見だと感じています。自分の知ることから始めるキャリア戦略はこの時代の本質だと言えます。森岡さん自身の経験をもとに、実の娘に宛てて書かれた本書の内容は信頼度と説得力が違います。

就職活動で悩んでいる学生、現状に満足できず転職を考えているビジネスパーソン、今後の仕事についてなにを考えるべきかすらわからないという方。必ず学べることがあります。ぜひお手に取ってみてください。

それでは楽しい読書ライフを!

▽他にもキャリア形成に関して、オススメしたい本がたくさんあります!▽

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