努力をするのではなく、好きなことをしよう【ニッチな生存戦略】

『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』橘玲

「そんなことは言われなくてもわかってるけど、できないんだよ」と思うことってありますよね。

スキルを身につけるための勉強をする
努力して能力アップに励む
努力を習慣化する
こんなことはわかっているし、できるなら自分もやってると思いますよね。しかし問題は頭ではわかっていても、実際やるとなると簡単ではないということです。
努力できないことや、物事が長続きしないことは、あなたのモチベーション不足でもなければ集中力不足ではありません。
「やってもできない」という事実を認め、そのうえでどのように生きていくのかの「成功哲学」をつくっていくべきなのだ。
そう言ってくれるのが、橘玲さんの『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』です。世の中では、自己啓発で自分の能力を向上させることで、お金を稼ぐこともできるし幸せにもなれるという考え方が多数派でしょう。しかし、本書の考え方がしっくりくるという人は絶対にいると思います。
根本的に「やってもできない」ことを前提に、人生の戦略を決めていくという考え方は非常に面白いと感じたので、ここで紹介することに決めました。
ぼくたちが生きるこの資本主義社会は、能力やスキルを人的資本として有効活用できる、いわば能力主義社会ともいえます。もちろん努力によって能力を高めることや新たなスキルを身につけることのできる人もいるでしょう。しかしそうでないという人もいて当然なのです。
本書で触れている遺伝学や心理学を基にした著者の主張によると、
①知能の大半は遺伝であり、努力してもたいして変わらない
②性格の半分は環境の影響を受けるが、親の子育てとは無関係で、いったん身についた性格は変わらない
ということが言えます。つまり重きを置くのは、「努力」ではないのです。

単純労働か、好きなことをするか

では「変われない」ことを前提にした場合、どのように生きていくべきなのでしょうか。生き方は大きく分けて二通りあります。

  • 単純労働をする
  • 好きなことを仕事にする

まず一つ目の選択肢は、単純労働です。本書では「マックジョブ」という言葉が使われていますが、あらゆる作業がマニュアル化されていて、それに従えば誰もが同じような成果を上げることができる仕事のことです。しかし、このような仕事は低賃金の傾向も高く、やりがいも感じにくいタイプの仕事です。

もう一つは、好きなことを仕事にすることです。「そんな簡単に言うけど」と思われるかもしれませんが、その通りです。話はそう簡単ではありません。

好きなことが常に市場で高く評価されるわけではないということだ。

これに共感する人は多いと思います。「そんなことができてれば、こんなに苦労はしてないよ」と思うかもしれません。しかし、「マックジョブ」のような単純労働が苦手もしくは嫌なら、好きなことで生きていくほかありません

生きる目的が幸福になるためなのだとしたら、好きなことを仕事にすることはじゅうぶん理にかなっています。たしかに、能力が高く、市場で求められるスキルを持っていれば、比較的収入が多い仕事に就けるでしょう。しかし、幸福の基準は必ずしも金銭ではないはずです。その価値観は多様ですが、好きなことを仕事にして幸福ではないという人はいないでしょう(もちろんお金があるに越したことはないかもしれませんが)。

ではこの「好きなことを仕事にする」ことは、どのようにすれば実現できるのでしょう。これには2つほどの具体的なヒントがあります。それは、

伽藍を捨ててバザールに向かえ。
恐竜の尻尾の中に頭を探せ。

これが本書で示されている生存戦略であり、成功哲学なのです。では具体的にどういうことを指すのかを見ていきましょう。

開けた世界で生きる

これは著者の言う「伽藍を捨ててバザールに向かえ」ということと一致します。ここでは伽藍というのは、典型的な日本企業のような場所を指します。評価がその会社だけに留まり、会社の外へ広まっていくことはありません。もっと狭い意味で言うと、特定の上司に気を遣って評価を上げることにのみ没頭しているような人はまさに伽藍のような閉じられた世界に生きているといえます

そうではなく、評価がどこにでも広がるようなグローバル市場(バザール)に出ていくべきだと著者は言います。

評判は国境を越えて流通する通過のようなものだ(だから、インドの名もないハッカーにシリコンバレーの企業からオファーが届く)。

昔なら会社に依存せずに自分で自由な世界を生き抜くことは、はるかに難しかったでしょう。しかし今ではそのような生き方は逆にリスクが大きいのです。

インターネットの発展、それに伴う大型プラットフォーム(GoogleやYouTubeなど)の出現などにより、「すべてのひとに自分の得意な分野で評判を獲得する可能性」が開けています。

進化論的に言うと、

能力というのは、好きなことをやってみんなから評価され、ひとより目立つことでもっと好きになる、という循環のなかでしか、「開発」されないのだ。

というように、みんなから評価されることは「好き」を育む上で重要です。好きなことをやって生きているYouTuberや、限りなく一般人に近いShowroomの発信者などは、まさに自分の好きなことを大きなサービスを上手く使って発信し、それを評価してもらうことで、さらに発信力が上がるという世界を生きています。

ニッチで勝負する

YouTuberやインスタグラム、ツイッター、Showroomなどで好きなことを発信している人は、必ずしも需要の多いテーマを扱っているわけではないと思います。超有名なインフルエンサーと呼ばれる人でも、特定のジャンルに絞った「ニッチ」な世界で勝負をしている(少なくとも最初はそうだった)ことがわかるでしょう
「こんな誰からも支持してもらえないようなマイナーなことをやっても…」と思う必要はありません。そんなニッチな領域でこそ、好きなことで生きていくことができるのです。
これほど発達した情報社会以前では、ニッチなテーマは非常に扱いにくいものでした。例えば本書でも例に挙げられている音楽業界について考えてみましょう。かつてネットショップや配信サービスが普及していない環境では、音楽を売るのはCDショップでした。そんな物理的なお店では、当然ながらCDを置けるスペースは限られています。
売り上げを上げたいお店は、メジャーなアーティストや話題の楽曲に焦点を当てて商品を陳列するのは言うまでもないでしょう。つまり、インディーズや名も知れぬアーティストなどは売れるためのきっかけすら持つことができませんでした。
しかし、今では商品を置くスペースなどを考えないオンラインショップやサブスクリプションを含む配信サービスが主流です。そこでは有名アーティストと同様、誰しもが販売経路を確保することができます。「スペース」は無限大だからです。
YouTuberも同じです。影響力を持つ人はテレビなどのマスメディアで発信することしかできませんでしたが、今では誰もがYouTubeでチャンネルを持つことができます。もちろんこれは単なる一例であり、世界にはさまざまな便利なプラットフォームがあります。
そんな世界のでキーワードは、「恐竜の尻尾の中に頭を探せ」の「恐竜の尻尾」の部分、いわば「ロングテール」です。「ロングテール」のL字のようになったグラフを見たことがある人もいるかもしれませんが、音楽業界の例で言うと、大半の売り上げを占めるのは少数の有名アーティストたちです(これが恐竜の頭の部分に当たります)。ですがその少数の有名アーティストたち以外にも数えきれないほどのアーティストが存在しており、有名アーティストの売り上げに比べると微々たるものかもしれませんが、そのような「ニッチ」なアーティストたちの売り上げもゼロではありません(これが恐竜の尻尾の部分に当たります)。
ロングテールの図
ロングテールの図 (『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』より)
かつては売り場もなく売り上げがゼロだったアーティストたちにも生きていくチャンスが生まれたのです。そして人の手に届くのであれば、多かれ少なかれファンもついていきます。その「ニッチ」な恐竜の尻尾の中にも、また別のL字のグラフが生まれます
例えば、音楽カテゴリーだと、メタルという比較的ニッチなカテゴリーの中でも有名なものとマイナーなものがあります(あくまで例です)。その中ではヘビーメタルが恐竜の頭で、デスメタルが尻尾かもしません。さらにヘビーメタルの中もロングテール構造になっていて、という繰り返しで、どのようなニッチな世界でもいずれは誰もが「頭」の部分になれるのです。

まずは自分の「好き」を探す

まとめると、「やってもできない」のであれば、好きなことをする。そうすることで幸福の価値観を見つめ直す(お金持ち=幸福だとは限らない)。誰にでも評価される環境に身をおけば、どんなニッチなことでも、生きていける。そのためにはまず好きなことを探しましょう。

本書では具体的に「好きとは何か」「自分の好きなことの見つけ方」などは掘り下げられていませんが、他にもそれを知る上でとてもためになる本があるので、紹介しておきますね!

本当にやりたいことが見つかる本 【7選】

『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』を行動に移す

『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』から学ぶべき、明日から始めたい行動内容は、

「やってもできない」それでいいことを知る

です。行動に移すというからには、まずが「好きなことを見つけましょう」と言いたいのですが、今回紹介した考え方は個人的には非常に斬新で、まずは知っておくだけでじゅうぶん価値があると思いました。

これだけで楽に生きるヒントだからです。

このようなニッチでもしかるべき場所で「好きなことを仕事にする」生き方のためには、会社をやめなければならないというわけでは決してありません。独立というのは選択肢の一つでしょうが、要はその会社の性質によるのです。先ほども述べたように、閉じられたコミュニティに縛られるのは幸福とは言えないでしょう。

高い能力を得て、高い収入を得るだけが正解ではないということを学べる良書だと思いました。本書でも紹介できなかった部分もたくさんあります。人間の本質に迫るような内容ですが、とてもわかりやすい語り口で書かれた本です。ぜひ気になった方はお手にとってみてはいかがでしょう。

それでは楽しい読書ライフを!

▽他にもオススメしたい本がたくさんあります!▽

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