自己啓発書と言えば海外の本を連想する方も多いと思いますが、国内の名著と言えばその一つに挙がるのが稲盛和夫さんの『生き方』でしょう。京セラやKDDIを創業した日本でも歴史に名を残す経営者・稲盛和夫さんが、人生哲学をテーマに2004年に書き上げた一冊です。
その『生き方』の中から、閉塞の時代を乗り越え、自分の人生の意味を問うための珠玉の「稲盛和夫の名言10選」を紹介します。今こそ、人間として一番大切なことは何かという根本的な問いに目を向けていきましょう。
1. 人間は何のために生きるのか
これは誰もが一度は考えてはその問いに答えることができない、という経験をしたことがあるのではないでしょうか。
『生き方』の中で稲盛和夫さんは早くも、この問いに対する答えを述べます。「私はやはり真正面から、それは心を高めること、魂を磨くことにあると答えたいのです。」
この「心を高める」ということはけっして難しい話ではなく、「生まれたときよりも少しでも美しい心になって死んでいくこと」だと言うのです。これが稲盛和夫さんの人生の哲学であり、あらゆる行動指針の軸となっている考え方なのです。
2. 人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力
稲盛和夫さんは、人生・仕事の結果は「考え方」「熱意」「能力」の掛け算であるという方程式を示しています。
各々もう少し説明すると
・熱意=事をなそうとする情熱や努力する心など、自分の意思でコントロールできる後天的な資質
・考え方=哲学や理念、思想などを含む、心のあり方や生きる姿勢
これらは掛け算であるということがポイントで、中でも「考え方」が最も重要だと言います。この「考え方」はプラスにもマイナスにも働きうるからです。どのような優れた能力や高い熱意を持っていても、それが犯罪などに活用されれば大きなマイナスの結果が残るにすぎません。
プラス方向に考えるというのは、常識的に判断されうる「よい心」のことです。前向きで思いやりがあり、感謝の心を忘れず、努力を惜しまない、などありきたりに思えることですが、これを頭で理解するのみならず、血肉化することが大切だと稲盛和夫さんは説きます。
3. 楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する
これが物事を成就させ、思いを現実に変えるために必要な考え方だと稲盛和夫さんは言います。
現実的に考えすぎるあまり面白いアイデアが浮かばない、計画が甘すぎたために痛い目を見る、あれこれ考えすぎて身動きが取れなくなる。これらは仕事や人生の計画では多くの人が直面する問題ですが、そんなときに思い出すべき稲盛和夫さんの名言が「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」なのです。
構想そのものは大胆すぎるくらいの「楽観論」に基き、計画に移す際にはあらゆるリスクを想定して慎重かつ細心の注意を払ってプランを立てるべきです。そしていざ計画を実行する段階では再び楽観論に従って思い切って行動することが重要だと言います。
4. 可能性とはつまり「未来の能力」のこと
新しいことを成し遂げるためには、自分の可能性、つまり「未来の能力」を信じることが大切です。
「現在の能力で、できる、できないを判断してしまっては、新しいことや困難なことはいつまでたってもやり遂げられません」と言うように、いっけん無理だと思えることにもひるまずに挑戦していくことで、自分の眠っている潜在能力を開花させることにつながっていくのです。
5. 知識に経験が加わって初めて、物事は「できる」ようになる
「できる」と「知っている」は別のことであって、経験が加わるまでは知識は知識でしかありません。それは「知っている」にすぎないということです。
この発達した情報社会ではなおさら「知っていればできる」と思う人が増えてきていると稲盛和夫さんも危惧しています。本当に身につけたいことであれば、「知る」だけでなく「できる」まで自分の身をもって行動することを心がけましょう。
6. 仕事をとことん好きになれ
この稲盛和夫さんの名言は、仕事を好きになることが、仕事を通して人生を豊かなものにし仕事を生活のための手段として、辛いものとしてしか見れない人もいるでしょう。どんな仕事であっても全力で取り組み、成果が出てくれば達成感や自信が生まれ、さらに次の挑戦の意欲が湧いてくるのです。
一方で、どうしても仕事が好きになれない人には「とにかくまず一生懸命、一心不乱に打ち込んでみることです」という言葉を残しています。
自分の好きな仕事に就けた人は幸運でしょう。自分の仕事が好きか嫌いか決めかねている人は、とにかくまず目の前の仕事一つひとつにより真剣さをもって取り組んでみましょう。
7. 六つの精進
人が生きる意味として、「心を磨く」ことだと説いた稲盛和夫さん。そのための指針として、以下のような「六つの精進」という考えを示しています。
②謙虚にして驕らず
③反省ある日々を送る
④生きていることに感謝する
⑤善行、利他行を積む
⑥感性的な悩みをしない
改めて言われるとあまり特別なことのように感じないかもしれません。しかしこれらの行いを日々の生活に取り入れ、実践することがいかに重要かを教えてくれています。
8. 利他の心
稲盛和夫さんは『生き方』の中で、利他についての重要性をこれ以上ないほど強調しています。自分の利を最優先に考える「利己」とは逆に、まずは「世のため、人のために尽くす」という利他の精神を持つことが大切です。
そしてこの「利他」はなにもたいそうなことではなく、自分の家族や友人など身近な人たちを思いやる小さな心がけも含みます。そして他人の利を考えることは、めぐりめぐって自分も利することになるのだと言います。
常に他人や環境に対してなにか不満を抱えている人は、他人から「してもらう」立場でいるのかもしれません。まずは「してあげる」ことに目を向けていければ、状況は一変して良くなるでしょう。
9. 足るを知る
物理的な豊かさを追い求めてきたこれまでの人間は、すでに満ち足りていることに気づくべきなのではないでしょうか。この「足るを知る」ということが、これからの日本や日本人が生き方の根に据えるべき哲学だと稲盛和夫さんは主張します。
そして「足るを知る」心がもたらす、「感謝と謙虚さをベースにした、他人を思いやる利他の行い」を心がけるのです。
今でこそSDGsなど持続可能な世界にするための目標が設定され、その重要性が叫ばれていますが、元来、途切れることのない食物連鎖のように自然界には「足るを知る」モデルが存在しています。
一方で「足るを知る」ことは、現状に満足して新しい試みや挑戦をやめてしまうことではないことも強調しています。あくまで利己的な行動には節度を持ち、利他を動機とした行動には貪欲であるべきでしょう。
10. 因果が応報するには時間がかかる
稲盛和夫さんは、人生には二つの「見えざる手」が働いていると言います。一つは「運命」という抗いようのない存在です。しかし運命の前に人は無力なわけでない理由として、二つ目の「因果応報の法則」があることを説いています。よいことをすればよい結果が、悪いことをすれば悪い結果が生じるというものです。
重要なポイントは「運命」よりも「因果応報の法則」の方が少しだけ強いことだと言います。つまり私たちは、もって生まれた運命を変えていくことができるのです。
ただし、「努力が必ず報われる」とは限らないと思う人も多いでしょう。それは「因果応報の法則」は見えづらいものであり、ときにとても時間がかかるからです。しかし稲盛和夫さんは自身の経験から、長い目で見れば、「きちんと因果の帳尻は合っているもの」だと教えてくれています。
結果を焦らず、地道に魂を磨く努力を積み重ねていきましょう。
最後に
『生き方』を読めばわかりますが、日本を支えてきた大きな会社を設立した稲盛和夫さんも、初めは小さな会社に勤め、多くの苦難に悩まされてきました。その中で気づいた人生の本質的な哲学は、これからを生きるわたしたちにも大きな教訓となっています。
特別なことをする必要はありませんが、当たり前に思える「良い行い」というのも簡単ではありません。常に自分の欲望を律しながら、上記の名言で示されている善行を積み重ねていく必要があります。
仕事においても人生においても、昨日より「ましな」自分になれるよう努力していきたいものです。
それでは楽しい読書ライフを!
<<こちらも読まれています>>
「読書に馴染みがない人にもオススメの」「絶対に読むべき」必読のビジネス書をテーマに、1位から30位までのビジネス書ランキングを紹介します。今話題の起業家の著作や長く読み継がれる名作まで幅広く網羅する一方で、あまり知られていない隠れた名著もラ[…]
『道をひらく』を今こそ、もう一度。 パナソニックの創業者として知られる松下幸之助の代表的著作『道をひらく』を読んだことない方は必読、読んだことのある方も今こそもう一度ゆっくり時間をかけて熟読してみませんか。 1968年に出版され[…]
日本でも江戸時代などで教科書的な存在だった孔子の『論語』は、世界的にも類を見ないほどの古典ん的名著です。2000年以上も前に誕生した『論語』ですが、現代まで長期に渡って読まれ続けるには理由があります。 激動とも言える変化の時代において[…]
【関連記事】